ニューロパチーの症状や治療法。神経炎とはちがう?手足に異常が起こる原因
『ニューロパチー』とは、末梢(まっしょう)神経系の病気です。
神経系には、脳と脊髄の間にある『中枢神経』と、そこから分かれて全身の器官や組織へとつながっている『末梢神経』があります。
末梢神経は、中枢神経からの情報を全身に伝え、全身からの情報も中枢神経に伝える働きがあります。
この末梢神経系に障害が起きた状態を、『末梢神経障害』または『ニューロパチ―』とよびます。
この記事では、『ニューロパチーの症状』や治療法、原因について解説します。
ニューロパチーという病気について
1. 『ニューロパチー』と『神経炎』のちがい
『ニューロパチー』とは、末梢神経系の病気の総称で、以前は『神経炎』ともよばれていました。
しかし近年、『神経炎』は「末梢神経組織に炎症細胞が侵入して、炎症を起こすことによって末梢神経障害があらわれる場合」のみをよぶようになっています。
それに対して、「末梢神経そのものに故障が起こった状態」を『ニューロパチー』といいます。
2.末梢神経は、3種類に分けられます
運動神経…脊髄から筋の直前まであり、筋肉を動かす神経
感覚神経…皮膚や関節などから脊髄へ、温度・痛み・触覚を伝える神経
自律神経…体の中にある組織や器官を調節する神経
これらの末梢神経に障害がおこると、『筋力の低下』『筋肉の委縮』『感覚が鈍くなる』などの症状があらわれます。
また、ひとつの神経だけでなく、いくつかの神経で同時に起こることもあります。
3.ニューロパチーの症状とは
運動神経に障害が起こった場合
運動神経に障害が起こると、筋力が低下したり委縮したりするため、疲れやすくなります。
そのほかにも、物をうまくつかめずに落とす、歩きにくくなるなどの症状があらわれることもあります。
感覚神経に障害が起こった場合
感覚神経は、『温度・痛み・触覚』にくわえ、『手足の位置や運動による変化、振動などを認識する深部感覚』も中枢神経に伝える働きがあります。
そのため、痛みや熱い冷たいなどの感覚が鈍くなると、逆にしびれや痛みが出やすくなる場合もあります。
また、深部感覚に障害が起こると手足の位置がわからなくなり、体のバランスがくずれ、歩行時にふらつくようになります。
自律神経に障害が起こった場合
自律神経は、体のさまざまな組織や器官の働きを調節しています。そのため、自律神経に障害が起こると、立ちくらみやめまい、発汗障害などの症状があらわれます。
膀胱の収縮力が低下すると、『排尿障害』などが出て、下痢や便秘になることもあります。
ニューロパチ―の原因について
ニューロパチ―は原因によって診断名が異なり、9つに分類されます。
1.捕捉性ニューロパチー
末梢神経のひとつが、周りの組織によって圧迫されて傷つくことが原因で、障害が起こる『単神経炎』です。
2.代謝性ニューロパチー
全身の末梢神経が障害をされることが原因で起きる、『多発神経炎』です。『糖尿病』や腎機能障害による『尿毒症』、ビタミン欠乏などの代謝の異常によって引き起こされます。
3.感染性ニューロパチー
『食中毒』『細菌感染』『ヘルペスウイルスでおこる帯状疱疹(ほうしん)』『マイコプラズマ感染』など、感染が原因で起こります。
4.感染後性ニューロパチー(ギラン・バレー症候群)
風邪などの症状や下痢が治ってから1~2週間後、急に手足のしびれや筋肉の低下などの症状が起こります。原因は、自分の細胞や組織を攻撃する免疫疾患だと考えられます。
いくつかの神経で同時におこる『多発神経障害』です。
5.慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー
ギランバレー症候群が慢性化したようなもので、発症の原因はまだはっきりしていません。
6.血管炎性ニューロパチー
単神経炎で、アレルギーの疾患にともなって起こるニューロパチーです。末梢神経に栄養を送る血管が炎症をおこしているため、『血管炎性』ともよばれます。
7.中毒性ニューロパチー
重金属(鉛、有機水銀、ヒ素、タリウムなど)、薬剤、有機溶媒(シンナー、接着剤など)、アルコールなどが原因で起こります。
8.悪性腫瘍にともなうニューロパチー
がんなどの悪性腫瘍がある場合におこる神経障害で、免疫の異常が原因です。肺がんと合併することが多いです。
9.遺伝性ニューロパチー
遺伝子の変異でおこるもので、『シャルコー・マリー・トゥース病』や『家族性アミロイド・ポリニューロパチー』がよく知られていますが、根本的な治療方法はありません。
『シャルコー・マリー・トゥース病』はとくに脚の筋力低下と感覚障害がある病気です。
腰痛・便秘・足関節が動かなくなるなどの症状が多く出ます。
『家族性アミロイド・ポリニューロパチー』は、成人期に末梢神経・自律神経系・心・腎・消化管・眼などが臓器障害を起こします。
ニューロパチーの検査方法
『脳神経内科』で検査を受けることができます。
まず、『筋電図検査』や『神経電動検査』で末梢神経障害がおこっている部位や程度、種類を調べます。
さらに、原因を特定するために、『尿検査』『血液検査』『MRI』『CT検査』『X線検査(レントゲン検査)』『血圧』『心拍数の変化』を調べます。
代表的なニューロパチーの治療法
1.糖尿病性ニューロパチ―の治療法
糖尿病性ニューロパチーは、『代謝障害』と『虚血性障害』の二つが考えられます。
『虚血性障害』とは、動脈硬化によって神経に栄養を送っている栄養血管に血液が運ばれなく生じることです。
代謝性障害が原因の場合
症状の軽いうちは、血糖のコントロールを中心に『食事療法』や『運動療法』をおこないます。
しかし、ある程度進行してしまうとなかなか改善されない場合もあり、『代謝障害改善薬』を用いることもあります。
虚血性障害が原因の場合
末梢の循環をよくするために血行を改善することが大切です。
痛みやしびれがひどい時は、『抗けいれん薬』などを用いますが、治療が難しいこともあります。
2.捕捉性ニューロパチ―の治療法
多くの場合は、一時的なものなのでとくに治療の必要はありません。
長引く場合は、筋肉が硬くならないよう『リハビリテーション』をおこないます。
また、痛みがひどく、筋肉が萎縮する場合は、圧迫を取り除く手術をおこなうこともあります。
3.感染後性ニューロパチ―(ギランバレー症候群)の治療法
血液中の異常な抗体を取り除くため『血漿(けっしょう)交換』をおこないます。
血漿交換とは、血液を血球成分と血漿成分に分離させたあと、「病気の原因となる物質を含んでいる血漿」を捨てます。その後、捨てた量と同じ量の健康な方の血漿を血液中に入れる治療法です。
ほとんどは発症後1~3週間ほど症状が続いたあと回復していきます。しかし、まれに呼吸筋が麻痺して呼吸困難を起こし、再発することがあります。
そのため、『人工呼吸器』が必要になるケースもあります。
まとめ
ニューロパチ―は、原因によって診断名が異なり、症状や進行状態、治療法が変わってきます。
早期発見・早期治療で症状を改善できますが、日常生活ではバランスのよい食生活を心がけ、睡眠不足や疲労がたまらないよう生活習慣に気をつけましょう。
少しでも疑わしい症状があれば、病院を受診し医師に相談することをおすすめします。
執筆・監修ドクター
経歴2006年 北里大学大学院卒、
2008年 平塚共済病院内科医長を経て小田原銀座クリニックに入職、その後院長に就任。
2013年 12月には当院久野銀座クリニックを開業
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