梅毒とは
梅毒(ばいどく)とは、昔からよく知られる代表的な性感染症です。
現在、根治は可能ですが自然治癒することはありません。トレポネーマという病原体が体内に入りこむことで感染します。
感染者の三分の一は症状が出ないため、感染に気づきません。そのため、感染が広がります。
大航海時代、アメリカからヨーロッパに、ヨーロッパからインド、アジアに伝わった感染症です。
「梅毒」という名前は、症状の瘡(かさ)(皮膚のできもの)が楊梅(ヤマモモ)に似ていたことから「楊梅瘡(ようばいそう)」と言われ、時代とともに「梅毒」に変わっていったという説があります。
梅毒に感染すると年月をかけて症状が変化していきます。現在では末期まで症状が進行するまで放置されることは少なくなりましたが、放っておくと命にかかわる危険な病気です。
梅毒の診察は、男女で科目が異なります。男性であれば泌尿器科、女性であれば婦人科が主な診療科になります。検査では問診と血液検査により、診断を確定します。
梅毒の症状
梅毒は、感染から3週間で皮膚の硬結や潰瘍ができる(第一期)が、治療しなくてもこれらは自然に消えていきます。
しかし、治ったわけではなく、その1~2か月後に手のひらや足の裏を含む全身に皮疹、粘膜疹ができます(第二期)。
無治療の場合、数年以上を経て進行麻痺、心血管梅毒といわれる神経梅毒に進んでしまいます(晩期)。
妊娠している人が梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形が起こることがあります(先天梅毒)。
以下に感染してからの年月で異なる症状をまとめました。
第1期(3週間~3ヶ月)
梅毒の初期症状として、感染した部位にしこりや硬性の下疳(げかん:性病による伝染性の潰瘍(かいよう))ができ、リンパが腫れます。
リンパの腫れは特に足を中心に腫れることが多いです。このしこりと潰瘍は痛みを伴いません。
第2期(3ヶ月~3年)
梅毒に感染してから3ヶ月経つと、症状が全身にわたって現れます。この2期の症状で梅毒にかかっていると気づく患者さんが多いです。
主な症状は下記のようなものがあります。
1.ばら疹
顔や身体全体にバラの花びらのような無数の湿疹ができます。痛みはなく、時間が経てば治まります。
2.疹性梅毒疹(きゅうしんせいばいどくしん)
ばら疹が治まった後に起こります。色は白で、下疳のような硬いしこりが全身にできる症状です。
3.扁平(へんぺい)コンジローマ
梅毒性丘疹が性器や肛門周辺、わきの下などの湿気がこもりやすい場所にできる丘疹。大きさは小豆からエンドウ豆ほどで、柔らかいイボのような形状をしています。
乾燥した丘疹の尖圭コンジローマとは全く別の症状で、扁平コンジローマは湿っており、ただれて分泌液が出ることもあります。
4.梅毒性乾癬(ばいどくせいかんせん)
梅毒性丘疹が手のひらや足の裏にできて、硬いしこりに乾燥した皮が付着するのが乾癬です。この皮がぽろぽろとれる(鱗屑(りんせつ))といった症状が伴います。
5.その他
- 虫食いのように無数に起こる円形脱毛、口内炎
- 喉の扁桃炎(梅毒性アンギーナ)
- 全身におよぶリンパの腫れ
- 発熱、倦怠感、食欲不振、関節痛
第3期(3年~10年)
梅毒の3~4期は晩期梅毒といわれます。この段階になることは現代では稀ですが、放置しておくと危険なため、早めに治療する必要があります。
1.ゴム腫
ゴムのような弾性のある潰瘍が、皮膚だけでなく内臓にもできます。これにより各器官が圧迫、破壊されていきます。
2.その他
血管の炎症
第4期(10年以上)末期
この段階になると皮膚の異常だけでなく、脳や神経にも影響が出てきます。
神経梅毒
病原体のトレポネーマが中枢神経にも感染して、様々な症状を引き起こすタイプの梅毒です。
1~2期ですでに進行している早期神経型と、3~4期に起こる晩期神経型にわけられます。また、経過年数で神経梅毒の種類と症状が変化します。
現代の医療において、梅毒の治療が可能となり神経梅毒はほとんど発症しないものとなり、10%の発症率となっています。
しかし、HIVに同時に感染していると梅毒の進行が早くなり、神経梅毒の発症率は23.5%に上昇します。
1.髄膜(ずいまく)型
感染して1年以内の神経梅毒です。頭痛や吐き気、意識障害、眼の虹彩部分が炎症を起こす虹彩炎、難聴といった症状があらわれます。
2.髄膜血管型
1~10年内にみられるタイプです。頭痛、回転性めまい、不眠症、精神異常が起こります。
3.実質型
10~30年経過してみられるタイプです。この実質型は「脊髄癆(せきずいろう)」と「進行麻痺(しんこうまひ)」にわけられます。
4.脊髄癆(せきずいろう)
脊髄が病原体に感染し、背中や足の痛み、排尿障害、知覚過敏などが起こります。
5.進行麻痺
脳が病原体に感染し、記憶障害や不眠、人格の変化といった症状があらわれます。
無症候梅毒
梅毒の症状が現れていないが、検査をすれば陽性反応が出ている状態です。
感染して症状が本当に出ないだけの人や、1期から2期へ移行している段階で症状がない時期のこと、II期の症状が終わった時期を指します。
感染者のおよそ3分の1が、感染していても症状が出ず、気づいていないといわれています。
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梅毒の診療科目・検査方法
梅毒を疑う時は、性感染症が心配される行為があり、皮膚や粘膜に潰瘍、皮疹、硬結などがあれば皮膚科や性病科を受診する必要があります。
特に若い人は性行為をおこなう機会が多く、性病にかかる可能性も上がります。
性行為をして症状が現れた、パートナーが感染の疑いがあるなどの場合は、すぐに病院で検査を受けるように心がけましょう。
診察
梅毒は男女とも感染する病気です。
診てもらうときは、それぞれ感染ルートになりやすい性器を診てもらう科目に行きましょう。
性感染症科は、泌尿器科、婦人科のなかに設けられていることが多い科目です。
問診
- いつから症状がでてきたか
- 原因と考えられる性行為はいつおこなったか
- 相手に心当たりがあるか
- 肛門を使っての性行為をおこなったか
- 出血を伴ったか(血液感染の恐れ)
以上の項目を医師へ伝えます。
検査
1.梅毒血清反応
梅毒の検査は大きく分けて2つの方法があります。
- STS(serologic test for syphilis)
牛から採取したカルジオリピンという脂質を抗原として、血清の中の抗体と反応するかどうかを調べる方法です。
- TP(Treponema Pallidum)抗原法
梅毒の病原体そのものを抗原として、血清を加えて反応を見るTPHAテストやFTA-ABSテスト(スライド上に抗原を乗せ、血清を加えて反応を見る)などの方法です。
梅毒に感染していると、STSは感染から4週間前後で陽性になりますが、TPは更に時間を要するため、一般的な梅毒のスクリーニング(ふるいわけ)検査にはSTSが用いられています。
2.HIV検査
「日本性感染症会誌/ガイドライン2016」では、梅毒を診断した際に、患者さんに説明した上で、HIV感染の有無を検査することが推奨されています。
梅毒発症者がHIVを発症していると、梅毒の症状が急速に進行してしまうためです。
梅毒の原因
梅毒の原因は、トレポネーマという病原菌が体内に侵入することでの感染です。
感染ルートは限定的で、あらゆる性行為と、血液感染である口や性器、肛門から感染者のトレポネーマが入ります。粘液の接触による感染よりも、行為中にできる小さな傷口からの血液感染が多いです。
キスだけでも、小さな傷が口にあると感染してしまいます。
1.血液感染
性行為中の小さな傷や、体のどこかにできていた傷から感染者の血液が混じることによって感染します。
医療体制が整っていなかった時代は、輸血による血液感染が多くありましたが、現代で起こることはほぼありません。
2.母子感染
母胎が梅毒に感染していると、生まれてくる子どもは黄疸(おうたん)や脈絡網膜炎(みゃくらくもうまくえん)、肝脾腫(かんひしゅ)など、先天性の梅毒症状がみられる場合があります。
しかし、先天性の梅毒は、母胎の検診をおこなうことで現在はほとんど防がれています。
梅毒がお風呂やプールに一緒に入ることでうつることは、ほとんどありません。
感染者が使ったお風呂の椅子をすぐ使う、といった限定的な状況でない限り感染する可能性は低いです。しかし、可能性がないとは言えません。
梅毒の予防・治療方法・治療期間
梅毒は、ペニシリン系抗生物質で治療します。治療期間は約6か月になります。
梅毒の治療はパートナーと一緒に
梅毒に感染しているのは性行為をした二人のはずです。そのため、一人で受診せずにパートナーと一緒に検査をする必要があります。性行為から3~4週間ほどして梅毒の症状が出たらすぐに病院に行き治療を開始します。
梅毒を治す前提として、早期発見、早期治療が重要です。3~4期の症状になると、治療が困難になってしまいます。
梅毒の治療は薬物療法であり、ペニシリン系の抗生物質を投与します。
ペニシリンにアレルギーを持つ場合は「塩酸ミノサイクリン(薬剤名)」や「エリスロマイシン(薬剤名)」を使用します。
女性の感染者で胎児がいる場合、エリスロマイシンに関しては胎盤を通過しないため、胎児が梅毒を発症している場合には産後にあらためて治療が必要です。
塩酸ミノサイクリンは胎児への副作用が懸念されるので、「アセチルスピラマイシン(薬剤名)」を使用します。
抗生物質の投与期間
日本性感染症学会の治療ガイドライン2016年版によれば、
- 第1期は2~4週間
- 第2期では4~ 8週間
- 第3期以降では8~12週間
を要すると解説されています。
治療中に現れる症状
梅毒トレポネーマの数が減少すると、39℃前後の発熱、全身倦怠感、悪寒、頭痛、筋肉痛、発疹などの症状が悪化する場合があります。
これはペニシリンの副作用ではない。医師と相談しながら治療を継続します。
治癒判定
梅毒が治癒したかの判定は、血液検査でわかる抗体の数と関連しています。
抗体が規定の数より減少していることが確認できれば、治癒判定(治ったという医師の診断)が下されます。
病期に応じた治療を行った後は、症状が持続して現れたり、再発したりしないように注意しながら、血液検査を定期的におこないます。
予防法
コンドームの使用は、性感染症の原因となる性器や、口腔粘膜などへの直接触れる機会を妨げる基本的な方法です。
しかし、関係ない傷口から血液感染するケースや、コンドームでは防げない感染症もあるので注意が必要です。
梅毒の治療経過(合併症・後遺症)
梅毒は、抗生物質で治療可能です。
しかし、梅毒は治療開始のタイミングによって、完治できるかが大きく変わります。治療の開始が遅れると生命にかかわり、治療も難しくなりますが、早期に発見できれば根治が可能です。
また、早期治療をすれば根治するが、放っておいても自然治癒する感染症ではありません。 2年以内に治療しなければ根治は難しくなるため、早めに症状に気づき、治療をおこなう必要があります。
梅毒に感染した場合、治療しなければ、脳や神経にも影響が出るようになります。感染から時間が経過していくことで症状が変化するため、治ったと思っていても感染は続いています。また、母子感染することもあります。
リスク
梅毒は数年放っておけば脳や脊髄に腫瘍ができ、血管にも負担をかけるため、命の危険性が出てきます。
また、自分の命も大切だが、性行為をおこなったパートナーも梅毒に感染します。そのためお互いに性行為はできず、接触することが困難になってしまいます。
女性の場合は母子感染の恐れもあるので、子どもにも影響が出る可能性があります。しかし、現代の母子感染は妊婦健診によって防止されることが多いです。
合併症
感染時に他の性病にかかっている可能性があります。梅毒やクラミジアといった性病にかかっていると、粘膜が炎症状態になっており、免疫力が低下しています。
そのため、他の性病にもかかりやすい状態になります。
HIVは性病の一つで、ヒト免疫不全ウィルスが人から人へ、血液や体液から感染する病気です。感染すると身体の免疫に必要な組織が破壊されて免疫力が低下します。
梅毒と同じく、性行為をおこなうことが主な感染ルートとなっています。
梅毒に感染している人がHIVにも感染することもあれば、もともとHIVに感染していて、梅毒にも感染する可能性が高いです。他の性病である淋病(りんびょう)やクラミジアも例外ではありません。
梅毒患者がHIVを合併して発症すると、梅毒の進行が早まります。
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梅毒になりやすい年齢や性別
梅毒は、2017年は約5,700例で増加傾向にあります。
男性は20~50歳代、女性は20~30歳代に多いです。
梅毒は近年、全国的に感染者が増加しています。
NIID国立感染症研究所がおこなった感染症発生動向調査(2015年)によれば、2008~2014年の患者報告数は計6,745例(男性は5,262例、女性は1,483例)(2015年1月15日集計暫定値)となっており、各年の報告者数は以下の通り増加傾向を示していました。
また、東京都感染症情報センターの統計をみても、2011年の梅毒感染者報告数が248人に対して、2016年には1673人と都市部では特に増加している傾向です。
梅毒の性別、年齢別の感染傾向は、特に20~50代の男性が感染しています。女性も20代が増加傾向にあり、若者を中心に感染が拡大しているといえます。
参考・出典サイト
執筆・監修ドクター

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