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うつ病

目次
  1. 概要
  2. 症状
  3. 原因
  4. 検査内容と主な診療科目
  5. 治療方法と治療期間
  6. 治療の展望と予後
  7. 発症しやすい年代と性差
医師

【執筆ドクター】

 板東 浩 先生

概要

うつ病とは?

うつ病は、多くの人が経験する精神疾患の1つです。
日本では生涯有病率(一生の間にうつ病にかかる人の割合)が3~7%とされています。おおよそ20人に1人くらいが、人生で1回はうつ病になる計算です。

アメリカ精神医学会の「DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル:第5版)」によれば、うつ病の正式名称は「大うつ病性障害」となっています。

誰でも、一時的に気持ちが落ちこむことはありますが、普通は時間の経過とともに緩和されていきます。
このような一時的な憂うつを「抑うつ状態」と呼びます。抑うつ状態になっているだけでは、うつ病とは言えません。

うつ病―大うつ病性障害と診断されるには、以下の9項目のうち5項目が2週間以上にわたって続いている必要があります。主な診療科目は精神科、心療内科です。

DSM-5における診断基準

※わかりやすくするため、やや条件説明を簡略化しています。

1.ほとんど一日中、毎日の抑うつ状態が2週間以上継続している
2.趣味などに対する興味、喜びが著しく減少している
3.食欲の減退または増加、体重の減少または増加
4.ほとんど毎日の不眠、または睡眠過多
5.ほとんど毎日、精神的に焦燥感があるか、精神活動の停滞
6.ほとんど毎日、疲労しやすく、気力が湧かない
7.ほとんど毎日、自分が無価値だと感じたり、罪悪感を覚えたりする
8.集中力・思考力が減少し、考えがまとまらず決断できない
9.死について考えこみ、自殺を考えたり、自殺の計画を立てたりする

症状

うつ病の代表的な症状は、「抑うつ状態」「意欲低下」などの精神症状である。
しかし、「疲労感」「食欲低下」「不眠」など身体の症状が出る例も多く見られる。
原因については「環境の変化」「性格傾向」「遺伝的素因」などが複合的に影響していると考えられている。

うつ病の症状は大きくわけて、3種類に区別することができる。
「抑うつ気分」「意欲低下」「身体の症状」である。

抑うつ気分

抑うつ気分というのは、「憂うつな精神状態」をいう。
以下のような感情が継続しているなら、少なくとも抑うつ傾向にあると言える。

・気持ちが落ちこむ(特に朝の時間帯に)
・理由もなく悲しい
・喜び・楽しみが見いだせない(楽しいはずのことをしても)

身体の症状

うつ病自体は精神的な病気だが、症状は身体にも現れる。
身体的症状の現れ方には個人差があるが、主に次のような症状が知られている。

・睡眠の異常

症状の1つに睡眠の異常があげられる。
寝付きが悪くなる、途中で目が覚める、眠りが浅くなるなどの問題が生じる。

人によっては、朝、起きられなくなるなど睡眠過多になることもある。

・食欲の異常

食欲が低下するか、あるいは増加することがある。体重が急に落ちる人もいるが、逆に増える人もいる。

・疲労感

何もしていないのに疲労を感じることがある。「全身がだるい」「身体が重い」と訴える人もいる。

・ホルモン異常

性欲低下のほか、男性なら勃起不全、女性なら月経不順が起こることがある。

・そのほかの症状

ほかにも、次のような症状を訴える患者さんがいる。

・動悸
・胃痛
・頭痛
・便秘
・異常な発汗

身体的な症状には個人差があり、ほかにもさまざまな症状があり得る。

意欲低下

「何かをしようという気持ち」「効率的に物事を進める能力」が著しく低下する。
たとえば、以下のような状態を指す。

・集中力が乱れて、仕事の能率が上がらない
・考えがまとまらず、物事を決断できない
・注意力が落ちて、ケアレスミスを繰り返す
・趣味など、娯楽に対しても前向きになれない
・遊んでも楽しいと思わない
・何をする気も起きないか、逆に焦燥感でじっとしていられない

原因

うつ病の原因・発症メカニズムは、はっきりとわかっていない。
ただ、「ストレス」「遺伝的素因」「本人の性格」などが発症に影響していると考えられている。

ストレス

人間の身体は、「ホメオスタシス(恒常性)」という性質を持っている。
簡単にまとめるなら、「外部の環境に関係なく、身体の活動を一定の状態に維持する性質」である。
たとえば、夏でも、冬でも、人間の体温は36~37℃くらいに保たれている。
外部が高温でも、あるいは低温でも、環境に抵抗して「ふだんと同じ状態」を維持する。これがまさに、ホメオスタシスの一例である。

ストレスというのは「外部からの圧力」を指す言葉で、「暑い・寒い」など過酷な環境もまた、ストレスの1つである。
気温、身体的疲労などのストレスは、物理的ストレスと呼ばれる。

一方、心理的ストレスに対しても、同じようにホメオスタシスが働く。
ストレスを受けると、体内では血圧・体温・血糖値などがいったん低下する。
しかし、身体はふだんの状態を維持するために、アドレナリンなどのホルモンを分泌する。

アドレナリンは、血圧・体温・血糖値を上げる作用を持っている。
つまり、ストレスに抵抗して、ふだんの状態を維持する。
しかし、ストレスが長く続くと、ホメオスタシスにも限界が訪れる。
途中までは抵抗力がどんどん強まり、ストレスと戦い続ける。しかし、限界を迎えてしまえば、抵抗力は残っていない。
限界は「体調不良」「抑うつ状態」などの形で現れる。度を超えれば、うつ病と診断されることもある。
ホメオスタシスを維持できなくなり、病気になった状態である。

以上は、カナダの生理学者―ハンス・セリエが提唱した「ストレッサー(=ストレスの要因)に対する防衛反応」を元にした説明である。
精神科・心療内科の医師でも、このような説明をすることがある。

心理的ストレッサーとしては、たとえば次のような状況が考えられる。

・家族との死別
・交通事故
・失業
・離婚
・病気
・長期入院
・転勤
・人間関係のトラブル
・失恋
・転居

このほか、結婚・就職・マイホーム購入など、本来ならポジティブな出来事が心理的ストレッサーになることもある。
環境が大きく変わり、適応に不安を抱えると、本人によってはストレスになる場合もある。

性格的傾向

一般的に「几帳面で責任感のある人」「仕事などで、義務を完璧に果たそうとする人」など、うつ病になりやすい人には一定の性格傾向があると考えられている。
これらは、「うつ病リスクが高い性格傾向」として3つの性格が広く知られている。

循環気質

話しやすく社交的だが、気が弱いところもあり、些細なことで激昂することもある性格である。
「社交的だが、本当は気が弱い」という特徴から、気を遣いすぎて八方美人に振る舞う機会も多く、内心、板挟みで悩むことが多いとされている。

うつ病のほか、双極性障害という別の病気にもかかりやすい性格傾向である。
ちなみに、双極性障害というのは、「躁状態(=過剰に舞い上がったり、気が大きくなったりする)」と「抑うつ状態」を繰り返す病気である。

執着気質

責任感が強く、仕事熱心で潔癖な性格である。
どんなに疲れても、体調が悪くても、弱音を吐かずにやるべきことに取り組む。
「頼まれると断れない」など、何でも1人で抱えこむので、いずれは限界が来て、身動きがとれなくなる。当然、うつ病になりやすい性格の1つ。

メランコリー親和型気質

生真面目で誠実な性格。
人に対する気配りにも長けていて、いつも他人に気を遣う。争いごとを嫌い、調和・秩序を重視する。

一方、柔軟性に欠けて、融通がきかないので、環境の変化を苦手としている。
また、他人からの評価を気にするので、「自分の失敗」「自分がかかわる問題」に対しては悲観的。
いつも気を遣い続け、ストレスを抱えこむので、うつ病のリスクは高くなる。

遺伝的素因

遺伝的に「うつ病になりやすい人」がいることは間違いないと考えられている。
双子を対象に、遺伝がうつ病の発症に関わっているかどうかの研究では、次のような結果が報告がされている。環境的な要因による発症は高くとも5%だったのに対して、遺伝が関係していると考えられる発症は31~42%にも上った。

さらに、イギリスの医学誌『ネイチャー・メディスン』に、「MKP-1」という遺伝子がうつ病に関連しているという記事が掲載されている。

MKP-1は、神経細胞の機能に関連する情報伝達経路「MAPK」の連鎖を遮断する遺伝子である。
うつ病の患者さんはMKP-1が発現しやすくなっていることに加え、MKP-1が欠けたマウスは、ストレスを与えても抑うつ状態から早く回復することがわかっている。

以上から、うつ病の発症に遺伝的素因がかかわっていることは間違いない。
ただし、環境要因の影響も大きく、「遺伝はあくまでも要因の1つ」と考えるのが妥当である。

うつ病のメカニズム

うつ病のメカニズムは、まだはっきりとは証明されていない。
ただ、有力視されている仮説は存在する。「モノアミン仮説」と呼ばれる仮説である。

モノアミン仮説が有力視されるに至ったきっかけは、高血圧の人に投与する降圧剤だった。
降圧剤にはモノアミン(=セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの総称)を減らす働きがある。
その降圧剤を投与された人々にうつ病の症状が見られたため、「モノアミンが減るとうつ病になるのではないか」という仮説が成立した。

現在、うつ病の患者さんは特にセロトニンとノルアドレナリンが不足していることもわかってきており、モノアミン仮説の有用性は実証されてきている。
うつ病の薬物療法においては、セロトニン、ノルアドレアリン、ドーパミンを増やす薬が用いられている。

ただ、モノアミン仮説だけで、うつ病のすべてを説明できるわけではない。
セロトニン、ノルアドレナリンなどを増やす薬を投与しても、すぐにうつ状態が改善されるわけではないからである。
うつ病の薬が効果を発揮するまでには通常1~2週間のタイムラグがあり、中には薬を使ってもなかなか改善されない患者さんもいる。

とはいえ、モノアミン仮説に基づいた治療が一定の成果を上げているのは事実である。そこで、うつ病に関連していると思われるモノアミン―セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの働きを解説する。

モノアミンの働き

モノアミンは、神経細胞から別の神経細胞に情報伝達する役目を果たしている。
モノアミンの種類によって、「不足したときの影響」が異なる。

セロトニン

精神を安定させるための物質とされている。
セロトニンが不足すると、焦燥感・緊張感が増し、心が落ち着かなくなると考えられている。

ノルアドレナリン

前向きな気持ち、やる気を出すための物質とされている。
ノルアドレナリンが不足すると、物事に興味が持てなくなり、意欲が湧かなくなると考えられている。

ドーパミン

喜び、楽しみを感じるための物質とされている。
ドーパミンが不足すると、ポジティブな感情を喪失すると考えられている。

他の疾患による影響

アレルギー疾患

アレルギー疾患になると慢性的に症状に悩まされる。
それにより、抑うつ状態になりがちである。
一方でストレスが原因でアレルギー疾患になることもある。
こうした患者さんに対しては、身の回りのサポートをしつつ根気よく見守る必要がある。

アレルギー性疾患は、治療が長期にわたる慢性的な病気のひとつである。
そのため、治療の見通しへの不安や生活の質(QOL:Quality of Life)の低下などから、大きなストレスを感じてしまう傾向がみられる。

そのまま放っておくと抑うつ状態になり、治療への意欲が低下し、症状の悪化をもたらす場合もある。
アレルギー性疾患に伴うこころの不調は、かかっている病気に隠れて気づかれにくく、患者さんが一人で悩みをかかえてしまうことも少なくない。

アレルギー性疾患の中でも、アトピー性皮膚炎と喘息(ぜんそく)は、治療が長期にわたって肉体的な負担も少なくないことから、こころの不調を伴いやすいといわれている。特にアトピー性皮膚炎では皮膚の赤みなどが気になり、外出するのが憂うつになってしまうことも考えられる。

アトピー性皮膚炎とこころの不調

アトピー性皮膚炎によるかゆみのために、発疹患部位をかくことを「掻破行動(そうはこうどう)」という。
掻破行動は、人間関係や仕事などのストレスによっても誘発される。

なかには、かゆくないにもかかわらず、ストレスを一時的に解消するためにかき、その結果、症状が悪化してしまうケースも見受けられる。
こうしたケースでは、症状の改善のためにストレスの除去が不可欠である。

抑うつ状態の有無を診断するために「アトピー性皮膚炎用心身症尺度」という質問表を用いる場合もある。
また、アトピー性皮膚炎と抑うつ状態では、ともに睡眠障害が見受けられる。

さらに、その特徴に違いがあり、前者はかゆみのために寝つけない入眠困難型が、後者は早朝に目が覚めてしまう早朝覚醒型が多いといわれている。
そのため、アトピー性皮膚炎で早朝に目が覚めるという場合は、抑うつ状態を伴っている疑いがある。

喘息とこころの不調

患者さんの心理状態を把握するために「喘息コントロールテスト」(JPAC)などの問診表を用いる場合がある。
問診表は点数化されており、点数が高いと抑うつ状態を伴っていると診断される。
特に、小児から喘息を発症し長い間患っている場合は、治療の見通しへの不安から抑うつ状態を伴う頻度が高い。

また、抑うつ状態を伴う喘息では喘息発作がないにもかかわらず、早朝覚醒型などの睡眠障害が起こる場合がある。

生活習慣病

食べ過ぎや運動不足など、生活習慣の乱れによって引き起こされる病気をまとめて生活習慣病という。

特に、糖尿病や高血圧、高脂血症などは継続した治療が必要であり、病気による合併症が怖い病気だといわれているため、患者さんは不安などのストレスを感じやすい。時には不摂生な生活習慣を送っていた自分に対し、自己嫌悪に陥ってしまいがちである。

さらに、自己嫌悪によって抑うつ状態にまで状態が進行してしまうと、治療への意欲が減退して症状の悪化や合併症を引き起こす危険性もある。

生活習慣病の中でも糖尿病や高血圧の患者さんは、長期にわたって治療を続ける必要があり、食事制限など日常生活での制約が多いため、こころの不調を感じやすい傾向にある。

糖尿病

糖尿病は「1型糖尿病」「2型糖尿病」「妊娠糖尿病」「その他の糖尿病」の大きく4つに分かれる。
このうち最も高頻度で、生活習慣が発症に大きく関与しているのは「2型糖尿病」で、糖尿病患者さんの約90%を占めている。

適切な自己管理が行えず、罪悪感に悩まされている患者さんは少なくない。また、放っておくと眼や腎臓、神経などの合併症につながる恐れもあり、患者さんは不安を抱えやすい病気と言える。

不安や罪悪感などのストレスが高まると、体内でアドレナリン(※1)やコルチゾール(※2)などが分泌され、インスリンの働きが妨げられるため、血糖値の上昇につながる。

さらに、抑うつ状態を伴うと外出が困難になり運動不足になったり、治療への意欲を失って服薬を止めたりするケースも見られる。
その結果、糖尿病の治療に悪影響を及ぼす。また、食欲が低下して低血糖(※3)を引き起こす恐れもあるため、早めに対処する必要がある。
抑うつ状態の有無は、質問票や問診票を用いて診断される場合もある。

※1   アドレナリン:ストレスを感じると分泌される生体内情報物質。血中に放出されると血圧や血糖値を上昇させる

※2   コルチゾール:糖の代謝に影響し、血糖値を上げる作用をもつ生体内情報物質。ストレスを感じると分泌される

※3   低血糖:血糖値が必要以上に下がった状態。頭痛、吐き気、動悸などの症状がみられる。重症になると意識を失う場合もある。

高血圧

高血圧には、発症の原因が特定できない「本態性高血圧」と、内分泌疾患や腎臓病などの病気に付随して発症する「二次性高血圧」の大きく2つに分かれる。
このうち「本態性高血圧」は、高血圧患者さんの85~90%を占めており、ストレスや生活習慣に深い関係があるといわれている。

高血圧を長期間放置することで動脈硬化のリスクが高まり、脳卒中や心疾患を合併する可能性もあるため、患者さんが強い不安を感じることも多くなる。

また、不安などのストレスを感じることで脳の交感神経の働きが活発になり、心拍数を上昇させたり血管を収縮させたりするため、血圧が上昇する傾向にある。

さらに、抑うつ状態になると血圧がより不安定になり、血圧のコントロールが難しくなる。
高血圧と抑うつ状態を併発すると心不全を合併する危険性が高まったり、不眠などの睡眠障害を発症しやすくなったりする。

検査内容と主な診療科目

うつ病の恐れがあるなら、適切な診療科目は「精神科」「心療内科」である。
治療の意志があるなら、ほとんどは通院で十分である。
ただし、十分な休息が必要な場合などは、入院加療という選択肢も存在する。

また、アレルギー性疾患の治療の過程で「なぜか治療への意欲がわかない」などのこころの不調を感じたり、強い不安を感じてしまい生活習慣病の治療が思うように進まなかったりすることで悩んでいる場合は、早めに担当医に相談する。睡眠障害は血圧を上昇させたり、抑うつ状態を悪化させたりするため、症状がみられた場合には早めに医師に相談する。

医療機関によっては「精神・神経科」という名前で受付しているが、精神科と同じ意味だと考えて構わない。

診断方法

基本的には、問診をおこない、診断することになる。
画像診断のように客観的な基準を明示することができないので、多少、医師により診断基準が変わる部分もある。

ただ、世界保健機関(WHO)の「ICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類:第10版)」、アメリカ精神医学会の「DSM-5(精神障害/疾患の診断・統計マニュアル:第5版)」など、診断基準の統一に寄与するマニュアル・ガイドラインは存在している。

精神疾患においては、患者さんの自己診断が強い場合も多く、それが適切な診療の妨げになることもある。
重要なのは、医師の診断に従い、適切な標準治療を受けることである。

治療方法と治療期間

うつ病の代表的な治療としては、薬物療法と心理療法が知られている。
SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬など、さまざまな治療薬が存在する。
また、不眠を訴える人には睡眠導入剤など、対症療法的な処方もおこなわれる。
心理療法というのは、患者さんの考え方に働きかける治療法になる。

薬物療法は単独でおこなわれることも多いが、心理療法は薬物療法と組み合わせて実施する。

薬物療法

多くの場合、抑うつ状態を訴える患者さんは、神経細胞から別の神経細胞に情報を伝達する物質―モノアミン類が少なくなっている。
薬物療法では、神経伝達物質の量を増やし、うつ病の症状を緩和することを目指す。

うつ病に関連するモノアミン類としては、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンの3種類が知られている。
うつ病の患者さんは、特にセロトニンとノルアドレナリンの量が減ると考えられている。

一般に抗うつ剤と呼ばれる薬は、セロトニンやノルアドレナリンの量を調節し、健康な状態に近づける働きを持っている。

うつ病に用いられる薬の種類

うつ病の治療に用いられる薬には、以下のような種類が存在する。

・三環系抗うつ薬

本来、セロトニンやノルアドレナリンは、役割が終わると再び身体に取りこまれてなくなる。
しかし、うつ病の人はセロトニン・ノルアドレナリンが足りていない。
そこで、再取り込みを阻害して、セロトニン・ノルアドレナリンの量を増やす。

同じ三環系抗うつ薬でも、セロトニン・ノルアドレナリンそれぞれに対して、「再取り込みをどれくらい阻害するか」が異なる。
そのため、薬の種類によって、作用には違いがある。
たとえば、「アミトリプチリン」は不安を抑えるなどの鎮静作用が目立ち、「イミプラミン」は前向きになるなど気分明朗化の作用が目立つ。
そのほか、鎮静・気分明朗化をバランス良く発揮する「クロミプラミン」という薬もある。
症状に合わせて、適したものを処方する。

ただ、三環系抗うつ薬は、古くから使われている薬で「作用も強い代わりに、副作用も目立つ」という特徴がある。
眠気・視界のかすみ・口の渇き・排尿困難などが主な副作用として知られている。
また、効果が出るまでに時間がかかり、服用開始した頃は副作用のほうが目立つこともある。
現在、少なくとも第一選択として三環系抗うつ薬を処方することはなく、ほかの薬で改善しない場合に使用を検討する。

・四環系抗うつ薬

四環系抗うつ薬も、「セロトニン・アドレナリンの再取り込みを阻害する薬」である。
ただ、三環系抗うつ薬より早く効果が出ることが多く、副作用も少なくない。
しかし、うつ病の症状を改善する作用に関しても、三環系抗うつ薬より弱い「穏やかに作用する薬」である。

四環系抗うつ薬としては、「ミアンセリン」「マプロチリン」などが知られている。
眠りを深くする作用もあり、睡眠の質を改善するために使われることもある。

・SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

SSRIは、セロトニンを増やす薬で、ノルアドレナリンにはほとんど作用しない。
不安・落ち込みを緩和する効果が期待できる。
また、ほかの余分な神経伝達物質にも影響を与えにくく、副作用が少ないのが特徴である。

SSRIとしては、「パロキセチン」「セルトラリン」などが知られている。
現在、うつ病の薬物療法において第一選択となる例が多い。

・SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

SNRIは、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリンにも作用する薬である。
「うつ病との関連が少ない神経伝達物質に影響しにくく、副作用が少ない」という点においては、SSRIと共通である。

SNRIとしては、「ミルナシプラン」「デュロキセチン」などが知られている。
ノルアドレナリンを増やすので、無気力・行動力低下が目立つ人には第一選択となり得る。

・NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

NaSSAは、ノルアドレナリン・セロトニンの再取り込みを阻害するのではなく、受容体を強化する薬。
ノルアドレナリン・セロトニンの影響を受ける受容体に作用して、より影響を受けやすくする。
「ノルアドレナリン・セロトニンが効率的に役割を果たすようにする」と表現すれば、実情に近くなる。

四環系抗うつ薬の派生形なので、睡眠の質を上げるのにも役立つ。「ミルタザピン」という薬が知られている。

・抗不安薬、睡眠導入剤など

抗うつ剤のほか、不安感の強い人には抗不安薬(マイナートランキライザー)、入眠できない人には睡眠導入剤など、補助的な薬を処方する。

心理療法

薬物療法で症状を緩和したあと、「うつ病・抑うつ状態を招いた考え方の傾向」を修正するために心理療法をおこなう場合がある。
うつ病の原因となった心理的ストレスを取り除き、再発リスクの軽減を試みる。

心理療法にはいくつかの種類があるが、代表的な方法として認知行動療法を解説する。

・認知行動療法

本人にとって良くない思考パターン(=認知の歪み)を修正する方法。
「物事を常に悪い方向に考える習慣」「事実をゆがめてまで、悲観的に考える習慣」を認知の歪みであると捉えて、思考パターンを改善する。

抑うつを招く認知の歪みには、次のようなものがある。

・1つの失敗を拡大解釈して「何をしてもうまくいかない」と考える
・物事を「オールオアナッシング」で捉え、ほどほどを認めない
・他人の行動を勝手に解釈し、すべて悲観的に捉える
・「~するべきだ」とばかり考え、自分や他人を義務で縛りつける
・うまくいかない物事を、すべて自分の責任だと思いこむ

このような認知の歪みを変えていくため、医師・臨床心理士などとカウンセリング形式で対話していくのが、認知行動療法である。

うつ病の予防・再発防止のために

うつ病にならないため、なってしまった方も再発しないようにするため、4つの生活習慣を意識する。

1.ストレスをため込まない

職場などでのストレスを一人でため込んでいる方は、ストレスを発散させるための方法を用意しておくと良い。
ため込んだストレスはどんどん心をむしばみ、やがて我慢できなくなるとうつ病を引き起こしたり、再発したりさせる原因になる。

趣味や楽しいことに時間をかけたり、自分のペースでゆっくり過したり、好きな音楽を聴いたりするのも良い。

2.睡眠を十分に摂る

睡眠は、うつ病予防に限らず、脳と体を休ませて健康な生活を送るために欠かせない。
規則正しい睡眠・覚醒リズムを保つため、就寝時間と起床時間をできるだけ一定に保つように心がける。

3.適度に運動をする

適度な運動はストレスの発散に役立つほか、食欲を増進させ睡眠の質を高めることが期待できる。
ただし、過度な運動は逆にストレスになることがあるので、ウォーキングやストレッチなど、自分の体力に合った無理なく続けられる運動がよい。

うつ病の一般的な経過

うつ病は、1日、2日で改善するような病気ではない。
ゆっくりと段階を経て治療していく。焦らずに治療を進める。
以下は、うつ病の治療経過における一般的な目安である。ただ、回復までの経過には個人差があるので、期間だけを気にする必要はない。

治療開始から6~12週目
医師の指示に従って薬の服用を開始する。同時に休養をとる。
当初は、吐き気、眠気、ふらつきなど、薬の副作用が出る可能性がある。
しかし、多くは身体が薬に慣れると治まる。すぐに治療効果が表れるとは限らないが、だんだんと階段を少しずつ上るようにして回復に向かう。

治療開始から4~9ヶ月
安定した状態を維持する期間である。
中には「良くなった」と考えて、自己判断で服薬を中止する人もいるが、むしろ、この期間にきちんと治療を継続する。
症状のぶり返しを防ぐためにも、医師・薬剤師の指示に従って治療を続ける。

治療開始から1年~
順調なら、元の生活に戻ることを目指す期間となる。
周囲とコミュニケーションをとり、理解を得ながら、職場・学校などで以前の生活を取り戻していく。

医師の判断によって、抑うつ状態を招く思考パターンの改善(認知行動療法)などを実施することもある。
医師の指示がある限りは、薬の服用も継続する。

症状が逆戻りすることもある

症状が安定し、元の生活を送れるようになると、抑うつ状態の期間を取り返そうと無理をしてしまうことがある。
完全に回復していないのにストレスを感じると、抑うつ状態に逆戻りしてしまう。
そうなると、逆戻りした状態から治療を再開しなければならない。

回復したと自己判断して、薬の服用をやめてしまうことも症状の逆戻りの原因になる。
薬の服用や、段階を踏んだ治療にいて医師とよく話し、焦らず治療を続けることが回復への近道である。

アレルギー疾患や生活習慣病を持つ場合の治療

まずはそれぞれの病気に適切な治療を行って、ストレスの軽減やQOLの向上を図る。
つまり、生活習慣病によるこころの不調では、まず食事療法や運動療法などを行い生活習慣全般を改善する。生活習慣が改善されれば、生活の質(QOL:Quality of Life)が向上し、こころの不調も次第に解消されていく。それでも効果がみられない場合は、主にSSRIを使用した薬物療法を行う。精神科や心療内科以外の医師でも使用しやすい薬剤とされており、皮膚科や呼吸器内科の担当医から心身両方の治療を受けることも可能である。
また、必要に応じて精神科や心療内科などの専門医を紹介される場合もある。

アトピー性皮膚炎で抑うつ状態を伴うと、睡眠障害が強く現れる傾向にある。
睡眠が浅いと掻破行動が激しくなる恐れがあるため、ベンゾジアゼピン系短時間型睡眠薬を併用する場合もある。
ベンゾジアゼピン系薬は呼吸抑制作用もあるため、抑うつ状態を伴う喘息には、あまり使用しない。

SSRIは、糖尿病や高血圧の治療を妨げず、血圧の管理にも効果があるといわれている。また、高血圧の治療薬である降圧薬の中には、抗うつ薬と併用すると睡眠時無呼吸症候群(※2)を引き起こす薬剤もある。そのため、自分が服薬している降圧薬について、必ず医師に報告する。

家族や周囲の人が気をつけること

抑うつ状態の治療には、家族や周囲の人々の理解が必要である。
下記のことに注意して、適切な治療が行えるようサポートする。

・聞き役に徹する
患者さんが自分の悩みや不安を打ち明けたときには、あれこれ質問したり意見を述べたりせず、聞き役に徹して静かに耳を傾ける。

・励ましは厳禁
「頑張って」などの励ましは、かえって患者さんに負担をかけてしまう。つらい気持ちを理解し、共感する言葉をかけ、気持ちを楽にしてあげるよう心がける。

・ゆっくり休養できる環境づくり
仕事や家事・育児などは分担して、患者さんが気兼ねなくゆっくりと休養できるような環境を整える。

・服薬のサポート
自己判断による薬の中断や飲み忘れ防止のために、医師の指示どおり服薬しているかを確認する。患者さんの服薬後の変化も観察し、医師に伝える。

・気長に見守る
一見元気に見えても、精神面がまだ不安定だという場合も少なくない。あせらず気長に患者さんを見守る。

・できるだけ病院に付き添う

抑うつ状態を伴っていると、思考力や判断力が鈍くなることも少なくない。できるだけ病院に付き添い、患者さんの症状を医師に伝える。
また、処方された薬を指示どおり服薬しているか、服薬後の変化などを観察し、治療をサポートする。

治療の展望と予後

うつ病における最大のリスクは、自殺・自殺未遂だが、それ以外にも注意が必要な問題が存在する。

社会参加の機会喪失

うつ病により、休職・休学を余儀なくされると、社会参加の機会が減少する。
収入などに影響することはもちろんだが、仕事・学校が基盤になっていた人間関係を失うなど、個人的な部分にも悪影響を及ぼすことがある。

また、家にこもりがちになると、「昼夜逆転の生活を送る」「人とほとんど会わなくなる」など、社会復帰が困難な生活に陥ることも珍しくない。
療養が必要なときに療養することは大切だが、同時に、将来的な社会参加の機会が限定されてしまわないよう、周囲が先々のことを配慮する必要がある。

放置することで、依存症に移行

うつ病の疑いがあっても、医療機関を受診しない人がいる。
2007年には、「抑うつ状態が2週間にわたって続いても、男性会社員の約9割の人は医療機関を受診しない」という報告が、日本うつ病学会にて発表された。
これは621名の会社員を対象に2004~2005年にわたって行われた調査で、うつ症状を強く感じている「高うつ群男性」に、「精神科を受診する」かについてアンケートした結果である。
「高うつ群男性」は「高うつ群女性」より、「自分で解決しようとする」と回答した人の割合が多いこともわかっている。

男性でも女性でも、抑うつ状態を放置した結果、気を紛らわせようと「アルコール依存」「ギャンブル依存」「買い物依存」などに陥るケースがある。
浪費が習慣化し、経済的に破綻する場合もあるので、早期受診が不可欠である。

精神的要因による体の不調

1.不安障害

うつ病の人に高い確率で併存する病気として、不安障害が知られている。
多くの場合、不安障害を先に発症し、後からうつ病を発症する。要するに不安障害は、うつ病のリスク因子となる。

不安を覚えること自体は誰にでもあるが、「理由のない不安」「理由に対して、明らかに大きすぎる不安」は、病的な不安である。
不安の現れ方によって、パニック障害、社会不安障害、各種恐怖症などの下位分類がある。

2.境界性パーソナリティ障害

気分の波が激しく、特に「見捨てられ不安」と呼ばれる「人に見捨てられることを極度に恐れる感情」を持ってしまう。
しばしば感情が不安定になり、衝動的に他者を非難したり、自傷行為に走ったりする。
うつ病と似た症状が多く、うつ病との判別が重要な病気とされている。

同時に、境界性パーソナリティ障害とうつ病が併存している症例も多く見られる。

3.摂食障害

食事を摂取したがらない拒食、過剰に食べ物を摂取する過食をあわせて摂食障害と呼んでいる。
「優柔不断で板挟みになりやすい人」「責任感が強く完璧主義な人」「自己評価が低い人」など、うつ病になりやすい性格傾向の人は摂食障害にもなりやすいと考えられている。

悪化すると、「過食した後に食べ物を嘔吐する」「自己判断で利尿剤を服用して痩せようとする」などの行動に出ることもある。

4.身体の病気

そのほか、身体の病気にかかると、うつ病を併発する確率が高まることが知られている。
病気のストレス・不安がうつ病を誘発している可能性が高いと考えられる。

以下に、主要な病気における「うつ病の併発率データ」を掲載する。

・がん(20~38%)
・糖尿病(24%)
・HIV感染(30%)
・甲状腺機能亢進症(31%)
・てんかん(55%)
・パーキンソン病(28~51%)

「生命の危険が及ぶ病気」「治療が長期化し、患者の負担が大きい病気」などで、うつ病の罹患率が高まる傾向が見て取れる。
病気が心理的ストレス因子となり、うつ病の罹患率を高めていると考えられる。

発症しやすい年代と性差

うつ病の患者数や発症率については多くの報告がある。ここでは、厚生労働省のHPから引用して紹介する。

患者数

日本の気分障害患者数は1996年には43.3万人、1999年には44.1万人とほぼ横ばいだったが、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と、著しく増加している。

有病率(うつ病を経験した者の割合)

うつ病の12か月有病率(過去12か月に経験した者の割合)は1~8%、生涯有病率(これまでにうつ病を経験した者の割合)は3~16%である。日本では12カ月有病率が1~2%、生涯有病率が3~7%であり、欧米に比べると低い。一般的に女性、若年者に多いとされるが、日本では中高年でも頻度が高く、うつ病に対する社会経済的影響が大きい。

うつ病は、インフルエンザのように検査によって明確に診断が下る病気ではない。
うつ病の患者数は劇的に増えていると読むこともできるが、診断基準の変化によって患者数も大きく変わる。

そのため、「うつ病の患者数が激増した=うつ病になる人が増えた」と言い切ることには、慎重にならなければならない。

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