てきおうしょうがい適応障害
適応障害とは?
適応障害とは特定可能なストレスが原因となって生じる「感情」や「行動」のことを指します。苦痛を伴い、日常生活にも支障がおこりますが、原因がなくなれば元に戻ります。
原因となるストレスは種類を問いません。悪いことだけでなく、定期異動や席替えのようなささいなこと、昇進や結婚などの一般的には良いとされる出来事による変化も原因になります。環境変化に対してとくに問題なく適応できる人もいますが、その一方で同じ変化でも耐えがたい苦痛を感じて、社会生活を健康的に送れなくなってしまう人もいます。
原因となるストレスははっきりと確認できるものです。原因が生じてから3カ月以内に症状が生じる場合に適応障害と診断します。症状はさまざまですが、抑うつ状態や不安、不眠などが多いです。治療ではストレスの要因を取り除くなど、環境調整が重要になります。
ストレス要因が日常からかけ離れている(大事故で生き残る 、犯罪に巻き込まれる 、大災害で家などを失うなど)場合、急性ストレス障害と呼んで区別します。
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適応障害の症状
「適応障害」だけにみられる特有の症状はありません。症状自体は誰しも一時的には経験するようなものですが、症状が重いことと学業や社会における役割を損なうことが特徴です。
適応障害の精神症状では、不安や抑うつ、焦燥感、イライラ、混乱などがみられます。
一方で身体的にあらわれる症状は、動悸、めまい、倦怠感や頭痛、腹痛などで、行動面では遅刻や欠勤、不眠、社会規範からの逸脱行為などがあげられます。
適応障害のタイプ
「適応障害」の症状は、主な症状から下記の6つに分けられます。
抑うつ気分を伴うタイプ
憂鬱感、涙もろくなる、絶望感、思考力・判断力の低下、感情のコントロールが難しくなるなどの症状があります。
こうした症状を同様に示す「気分障害」の代表的なものは「うつ病」で、うつ病と診断されると適応障害とは区別されます。
不安を伴うタイプ
「漠然とした不安感があり災害、病気、死などを過剰に心配する」「精神が過敏になり不安から呼吸困難に陥る」「軽いパニック発作をおこす」など社会生活を送ることが困難な状態になります。
これと似たものに「不安障害」がありますが、不安障害と診断された場合は、適応障害の診断から除外されます。
抑うつと不安を伴うタイプ
不安と心配、気分の落ち込みなど、「抑うつ気分を伴うタイプ」と「不安を伴うタイプ」が複合的にあらわれます。
素行の障害を伴うタイプ
過度な飲酒、暴力、無断欠席・無断欠勤、万引き・公共の場へのいたずらなど社会規範を逸脱した行動を伴います。
情動と行為の障害が混合したタイプ
素行の障害に加えて、感情のコントロールが効かない症状が混合したタイプ。
ひきこもりや自殺行為などの行動は、感情のコントロール不能に加えて、素行の障害がみられることがあり、このタイプに分類されます。
特定不能のタイプ
肩こり、頭痛、疲労感などの身体症状を主に訴えたり、主症状がひきこもりだったりするタイプ。
さまざまな症状がありますが、どれも適応障害特有のものではありません。そのため症状だけではなく病歴や環境などから診断をします。
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適応障害の診療科目・検査方法
抑うつ状態が続くようであれば、精神科、心療内科を受診します。
アメリカ精神医学会精神障害の診断と統計マニュアルDSM-5による、適応障害と診断される基準では以下のA~Eのすべてを満たす必要があります。
適応障害の診断基準(DSM-5より)
■A
はっきりと確認できるストレス要因に反応して、そのストレス要因のはじまりから3カ月以内に症状があらわれた場合
■B
これらの症状は以下のどちらかによって裏付けられている
(1)そのストレス要因にさらされたときに、一般的に予測される反応とつりあわないほどの苦痛がある
(2)社会的または職業や学業などの生活に重要な機能への著しい障害
■C
ほかの精神疾患では説明することができない
■D
大災害にあうなど日常からかけ離れた生死にかかわるような強大な要因ではないこと
■E
そのストレス要因(またはその結果)がひとたび終結したら、症状がその後さらに6カ月以上持続することはない
適応障害の原因
適応障害の原因はストレス
日常生活において大きなストレスになる出来事がおこると、身体にさまざまな反応があらわれます。
誰でもショックな出来事に遭遇すれば驚いたり、あるいは悲しんだりし、環境の変化があれば緊張したり不安を感じたりします。
はじめはこのようなこころの動揺があっても、だんだん気持ちがこの状況に適応してきます。環境に馴染んだり価値観を変えてみたり、新たな楽しみとして受け取るなど問題解決の方法を考えはじめます。
適応障害は、このような出来事への心理的な反応がうまくいかなかったためにおこります。
ストレスはさまざまです。
住居や経済的な問題といった環境的なストレス、病気や食習慣といった健康面のストレス、学校や職場、地域からの社会心理的なストレス(受験勉強や仕事のノルマ、地域行事への参加)、対人関係のストレス(同僚や親戚とのトラブルや失恋、夫婦・隣人関係)、一般的には良いこととされていることへの環境変化によるストレス(入学や就職、実家を離れて独立する、結婚、昇進、子どもの独立、定年退職など)もあります。
同じ環境下でストレスを受けても、適応障害になる人とならない人がいます。
こうした差はストレスを乗り越える力が人によって異なるためにおこります。
ストレスへの耐性が弱いと適応障害になりやすい
ストレスの耐性は個人の資質によるところもあります。
以下のような例があげられます。
・真面目でがんこで、いいかげんなことが許せない
・感情の表し方がわからない
・周囲の人が理解できないほどささいなことで傷ついてしまう
・100点でなければ0点と同じという白か黒か的な思考
・無理なことや嫌なことも自分を抑えてしまい断れない
・もともと自律神経のバランスが乱れやすい自律神経失調傾向
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適応障害の予防・治療方法・治療期間
治療では適応障害の原因になっているストレスを変えたり、環境調整したりすることが優先されます。
たとえば暴力をふるうパートナーから逃れるためにほかに助けを求める、などがそれにあたります。
容易に排除できない環境や要因の場合、本人の適応能力を高めるような認知行動療法を使うこともできます。認知行動療法は厚生労働省も精神医療業務従事者を対象に研修事業を行っている療法です。
認知行動療法にはさまざまな技法がありますが、適応障害によく使われるものとして問題解決療法があります。
これは病気の原因はストレスそのものではなく、対処の仕方にあると考え、達成可能なゴールの設定と現実的かつ楽観的な見方をできるようにしていくものです。
心理教育と問題解決のエクササイズ、患者さんが一人で行うホームワークの設定などが行われます。
中~重度の症状の患者さんに対しては睡眠障害がある場合は睡眠導入剤、重度になると選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)など抗不安薬や抗うつ薬が処方されることもあります。
適切な治療法を受け、ストレスの原因がなくなったり、または慣れたりすることで6カ月以内に軽快することがあります。
しかし、うつ病などほかの精神疾患も併発している場合は治療期間が長引きます。最初の症状だけで、適応障害かうつ病かどうかを区別することはできないため、必要な治療期間については経過をみてから判断することが普通です。
適応障害の治療経過(合併症・後遺症)
適応障害の場合、環境を調整してストレス要因を取り除くことができれば快方に向かうことが多いです。
また、環境変化に慣れてくることでおさまることもあり、適切な治療を受ければ予後は悪いものではありません。しかし、抑うつ状態が長期化すれば「うつ病」に移行し、回復まで時間がかかる恐れもあります。
適応障害になりやすい年齢や性別
とくに発症しやすい年代はありません。
こころの病気の中ではありふれたもののひとつで、DSM-5によれば外来で精神科治療を受けている人のうち,適応障害を主診断とする人の割合はおよそ5~20%とされています。
執筆・監修ドクター
経歴1984年 岐阜大学医学部卒業,ミシガン大学文学部に留学(文化人類学専攻)
1985年 神戸大学精神科で研修
1986年 国立肥前療養所に就職,山上敏子先生から行動療法を学ぶ
1998年 国立菊池病院に転勤。精神科医長、うつ病や不安障害,薬物依存の専門外来と治験などを担当
2000,2001年 ハワイ大学精神科アルコール薬物部門に留学
2003年 臨床研究部長
2007年 診療部長
2008年 医療法人和楽会なごやメンタルクリニック院長
2013年 ハワイ大学精神科臨床准教授
2018年 千代田心療クリニック非常勤医師、BTCセンター・カウンセラー
2019年 原井クリニック開業
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