ざこつしんけいつう坐骨神経痛
坐骨神経痛とは?
*執筆ドクターは本疾患の治療に「AKA-博田法」という治療法を取り入れていますが、本記事内では一般的な治療方法等を記載しております。*
坐骨神経痛は、神経痛の中でも多数を占めています。腰・足などに痛みやしびれを生じ、歩行が困難になる例もあります。
一般的には、腰部脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニアに付随して発症することが多いといわれていますが原因が分からないことも少なくありません。
坐骨神経痛は、下半身に広がる坐骨神経がさまざまな要因で刺激を受け、下半身にしびれや痛みを引きおこす症状です。
さまざまな要因とは、坐骨神経に影響を及ぼす病気や外傷が挙げられます。
原因がはっきりと分かっている場合、病気の症状の一つとして坐骨神経痛という名前を用いることがあります。脊椎、脊髄、骨盤内のがんでも坐骨神経痛の症状があらわれる場合があります。また、原因が分からない場合は、症状ではなく病気として扱われることもあります。
しびれや痛みは腰からお尻、太もも、ふくらはぎ、足先まで及び、ひどい場合には歩行障害に陥ります。
歩行や立ち座りといった動作でしびれや痛みが生じることもあり、寝ているだけで生じることもあります。
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坐骨神経痛の症状
坐骨神経痛は腰から下半身にかけて神経性のしびれや痛みがあります。具体的な症状として、次のようなものが挙げられます。
・腰、お尻にしびれや痛みを伴う
・問題の部位を動かすとしびれや痛みが生じる
・安静にしていてもしびれや痛みがある
・歩行が困難になる
・立ち続けることが難しくなる
・座り続けるのがつらい
・下半身の感覚が鈍くなっている
など
坐骨神経痛の診療科目・検査方法
坐骨神経痛は立ち座りや歩行に支障が出るので、運動器系をみてくれる整形外科の受診が推奨されます。
初診で鍼灸院や整体院の利用は控えた方が無難です。身体を動かし、背骨に負担をかけるような検査、治療をおこなうと痛みが強くなってしまう可能性があります。
原因が分からず、関節が痛いといった症状だけなら感染症の疑いもあります。その場合は、治療は内科や専門医が在籍しているところでおこなわれます。
原因が特定できず痛みが続く場合は、腫瘍や化膿性の病気も考えられます。
その場合、マッサージや痛み止めの注射で、長期間我慢をするのは危険なため早期に病院を受診することが推奨されます。
問診で問われやすい内容
整形外科で問われやすい内容は以下のようなものが考えられます。
・いつから症状が出ているか
・発症の原因は分かるか
・症状はどういったものか(痛み、しびれ、動かしにくいなど)
・症状が出ている部位はどこか(坐骨神経痛は足全般が主な部位)
・この症状に対しての治療の経験があるか(ほかの病院で継続中か)
・内服薬を処方されているか
・高血圧、糖尿病などほかの病気にかかった経験があるか
・アレルギーをもっているか
・妊娠中、授乳中か
検査方法
坐骨神経痛はあくまで症状のため、原因となっている病気を探らなければなりません。検査方法は以下の通りです。
1.触診
直接触って、異常がおきている部分を確認します。
触診は患者さんの下半身が正常に動くかを判断するために2つのテストと筋力、感覚、神経の検査をおこないます。
2.SLRテスト(Straight Leg Raising Test)
下肢伸展挙上(かししんてんきょじょう)テストともいいます。5つ備わっている腰椎のうち上から4番目と5番目の腰椎に異常があるかどうかを判別できます。患者さんは台に仰向けになって寝て、医師が横から患者さんの片方の足を、膝が曲がらないように固定しつつ持ち上げます。
この持ち上げた角度が70°以下で痛みが伴えば陽性とされます。
3.FNSテスト(Femoral Nerve Stretching Test )
大腿神経伸展(だいたいしんけいしんてん)テストともいいます。このテストでは、腰椎の上から1~4番に異常があるかを判別することができます。
患者さんは台にうつ伏せになり、医師は患者さんの足首を支えて膝を曲げ、ももを持ち上げます。太ももの前面に痛みが生じれば、陽性です。
4.筋力検査
神経の状態を判断する検査です。患者さんの足を医師が力を加えて動かし、それに抵抗する力で膝やもも、足の指といった部位の筋力をみます。
5.感覚検査
感覚があるかを診断する検査です。
足のさまざまな部位の皮膚を筆やピンなどを使って刺激します。
6.腱反射の検査
神経が正常に動いているかを調べます。
ゴム性のハンマーで膝下やアキレス腱を軽くたたくことで反応があるかをみます。
7.MRI検査
磁気を使った検査で、腰椎、椎間板、神経が鮮明に画像になります。
8.X線検査
X線による画像検査です。
椎間板や神経といった部分はみることができませんが、骨の状態や腫瘍をみることができます。また、脊髄に造影剤を注入することで、神経の圧迫の程度が確認できます。
椎間板に注入することで変性具合が分かり、注入に痛みを伴えば、どの椎間板が原因か特定することにつながります。
ほかにも腰痛に関わる検査が患者さんの症状に合わせ適宜おこなわれます。
坐骨神経痛の原因
坐骨神経痛は、坐骨神経を刺激、圧迫するような病気や外傷によって生じます。名前の通り、坐骨神経におこる障害を原因としています。
また、タバコは腰痛の原因になり得ます。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させる働きがあり、椎間板の周りの血管を収縮させます。それにより、椎間板へ栄養分や水分が回らなくなり硬くなってしまい、クッション性がなくなり、骨同士がぶつかりやすくなり神経を圧迫します。
また、ニコチンの影響で、椎間板が縮みバランスが悪くなるのを靭帯が厚くなってカバーしようとした結果、神経を圧迫して腰痛を引きおこしやすくなるとも考えられます。
原因となる主な病気は以下のようなものです。
坐骨神経痛の原因となる得る疾患
1.梨状筋症候群(りじょうきんしょうこうぐん)
梨状筋とは、お尻の骨と足の骨を結ぶ筋肉のことです。坐骨神経はこの筋肉の内側や周りを通っています。そのため、運動をせずに筋肉が硬直した場合や、反対に運動や外傷によってこの筋肉に異常がおきると、坐骨神経が圧迫され、刺激を受けて神経痛が生じます。
2.腰椎椎間板ヘルニア
腰椎(ようつい)とは背骨の腰部分の骨で、背骨には体重を支えるために椎体(ついたい)という骨が複数ついています。その椎体の間にあってクッションの役割をするのが椎間板(ついかんばん)です。この椎間板が本来ある場所から飛び出してしまい、神経を圧迫する病気が腰椎椎間板ヘルニアです。
神経が圧迫されるので、坐骨神経痛が引きおこされます。腰や腎部が痛み、足に力が入りにくくなることや歩行しにくくなったり、重いものを持つと痛みが強くなったりするなどの障害があらわれます。
腰椎椎間板ヘルニアは、長時間にわたる悪い姿勢での動作や作業、喫煙などが主な原因です。
3.腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
脊柱とは背骨の別名です。脊柱は複数の骨で構成されており、その隙間(脊柱管)に脳から身体につながっている神経である脊髄神経と馬尾神経が通っています。腰部脊柱管狭窄症は、この脊柱管が腰部分から狭くなることで内部を通っている神経を圧迫し、神経痛を引きおこします。
老化により脊柱管が狭くなることが原因で、中高年が発症する病気です。
また、腰部脊柱管狭窄症になると間欠性跛行(かんけつせいはこう)をおこすことがあります。間欠性跛行は、一定の距離を歩いたらしびれや痛みが出てきて、少し休憩するとまた歩けるようになる症状を繰り返します。
4.腰椎分離すべり症
腰椎が2つに分離してしまう病気です。身体が柔らかい10代の人がなりやすく、激しい運動で腰を反復して酷使していると発症します。そのためスポーツ選手に多い病気で、生活に支障がないことが多いのも特徴です。
しかし、分離した腰椎が脊柱管を圧迫して神経痛を引きおこすことがあります。
5.腰椎変性すべり症
腰椎がずれて神経を圧迫してしまう病気です。筋力が低下して姿勢が悪くなった中高年の人にみられます。
6.馬尾腫瘍(ばびしゅよう)
馬尾神経に腫瘍ができます。腫瘍によって神経が圧迫され、下半身にしびれや痛みが発生します。
7.子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)
子宮筋に良性の腫瘍ができる病気で、腫瘍が大きくなることでほかの器官を圧迫することがあります。
神経も例外ではなく、圧迫されることで坐骨神経痛を伴います。原因は女性ホルモンの影響とされており、ホルモンバランスを整えることが現状の対策です。
▼妊婦さんの坐骨神経痛の原因について詳しく知りたい方はこちら
ベビママほっと。:坐骨神経痛に悩む妊婦さんは多い?原因や対処法ついて。湿布がNGな理由
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坐骨神経痛の予防・治療方法・治療期間
坐骨神経痛の治療では、「痛みをとること」が重視されます。
薬物療法、神経ブロック、理学療法など、さまざまな方法を用いて、疼痛を緩和します。
坐骨神経痛を伴う病気には保存療法と手術、器具を用いた装具療法と運動療法があり、保存療法とは人体を傷つけずに治療をおこなう方法です。手術のような方法は使わず、運動や薬を飲むことで治療をおこないます。
1.保存療法
安静にすることが前提です。
身体を動かす場合は痛みを伴わない姿勢を心がけます。
2.薬物療法
NSAIDs(nonsteroidal anti-inflammatory drug/非ステロイド性消炎鎮痛薬)や筋弛緩薬によって薬物療法をおこないます。非ステロイド性消炎鎮痛薬はその名の通り炎症による痛みを抑制する薬で、筋弛緩薬は神経に作用して筋肉を緩ませる薬です。
痛みとしびれを軽減するために処方され、外用薬では、湿布や塗り薬などを併用することもあります。
副作用
消炎鎮痛薬の一つに「アスピリン」がありますが、副作用としてアスピリン喘息というものを引きおこす可能性があります。
気管支系の病気をもっている人に処方することは禁忌となっています。筋弛緩薬の副作用としてはめまいや吐き気、腹痛、かゆみが出ることもあります。
3.神経ブロック
薬物療法で痛みが引かない場合は、神経ブロックをおこないます。
神経近くに麻酔を注射して痛みを軽減する方法です。痛みを一時的に緩和できますが、根本的な治療とはいえません。
4.装具療法
コルセットを腰に巻くことで、痛みを軽減し姿勢を矯正します。
コルセットによって動作が楽になりますが、常に装着していると筋力の低下につながるのであくまでも、動作をサポートするものとして使用し、慢性的な神経痛自体をなくすには根本的な治療が必要です。
5.牽引(けんいん) 療法
手足や脊椎を牽引することで、骨折や脱臼の整復、関節疾患の安静、疼痛の緩和、脊椎疾患の安静や免荷(めんか/体重や負担をかけないようにすること)を目的におこなう治療です。専用の機器で局所を牽引します。
牽引方法は長時間にわたって引っ張る持続牽引と、電動牽引機で秒単位の作用と休止を繰り返す間欠(かんけつ)牽引があります。
6.電気療法
身体に微弱な電流を流すことで、自然回復能力や神経の働きを治療する方法があります。治療直後は痛みが緩和されますが、3日~1週間もすれば痛みはぶり返すことがあります。そのため痛みがひどく、短期的にでも改善したいという人のための治療です。
7.温熱療法
脊椎、下半身部分を温めることで運動能力の改善と疼痛の緩和を目的とした治療法です。
あくまで腰痛を軽減するための治療です。慢性的な腰痛を治すことができる治療ではありません。
8.光線療法
炭素に電流を流し、光源をつくり、照射する治療法です。光源を身体に当てることで血流を増加させて痛みを緩和させます。この治療も痛みを軽減するための治療であり神経痛がなくなるわけではありません。
9.手術
主に馬尾腫瘍が原因だと分かっているときにおこないます。
腫瘍ごと神経を取り除くことでしびれが残るといった後遺症が出るリスクもあります。
10.運動療法
坐骨神経痛をおこさないためにも、日頃から適度な運動をして、筋力を鍛えます。腰に負担がかからないようにすることを心がけることも重要です。坐骨神経痛および腰痛のリハビリテーションという目的で、運動頻度の目安は特にありません。
自分の生活に無理が出ないよう、健康的な運動頻度である1日2時間ほどの運動を盛り込むことがおすすめです。
また運動をして痛みが改善する腰痛は種類によって異なります。運動量や頻度、期間は症状の具合により医師と相談して適切におこないます。
・水治療法
水中運動をして、筋力増強や筋肉の伸展を目的とします。
・ストレッチ
身体の緊張をほぐすことで、血行を良くし、圧迫されている部位を除圧する働きがあります。ストレッチは神経痛と勘違いされやすい筋肉部分の痛みの改善にもなります。
・ウォーキング、サイクリング
軽度なウォーキングやサイクリングといった有酸素運動は運動不足を解消させ、筋力も多少は増強できます。
生活習慣の見直し
・腰痛が気になる喫煙者は、禁煙が推奨されます。
・肥満体型は腰が支えるべき体重が増え、腰への負担が大きくなります。
運動不足では、筋力も低下する傾向にあるため、適度な運動をこなし、バランスの取れた食生活を心がけましょう。
坐骨神経痛の治療経過(合併症・後遺症)
坐骨神経痛を単独で根治させる方法は、見つかっていません。
多くの場合、坐骨神経痛は「動くと痛む」「無理な姿勢をとると痛む」などの症状が特徴です。しかし、悪化すると、安静時も痛むようになります。
安静時に痛むようになると、睡眠などに悪影響が及ぶ可能性があり生活に支障が出ます。
症状がすすむと出やすい症状
・痛みが強すぎて走る、歩くことができなくなる
・痛みが強すぎて立つことも困難になる
・痛みが強すぎて安静に横になっていても痛い
・痛すぎて眠ることができない …など
処置が遅いと神経を傷つけられ症状が治らないことがあるので、早めの治療開始が予後に影響します。
坐骨神経痛になりやすい年齢や性別
平成29年度厚生労働省の計測では、坐骨神経痛の患者数は、244,000人とされており、減少と増加を繰り返しています。男女とも加齢とともに増加する傾向があります。
執筆・監修ドクター
経歴2005年 帝京大学医学部卒業
2012年 のぞみ整形外科内科クリニック開院
2017年 スガモ駅前整形外科開院
2020年 医療法人社団のぞみ会理事長
スガモ駅前整形外科 院長
のぞみ整形外科内科クリニック 院長
望クリニック 副院長
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