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にんちしょう認知症

更新日:2022/08/10 公開日:2019/02/08 view数:5,739

認知症とは?

認知症とは、病気の名前ではなく、状態を表す言葉です。
この病気は一般的には、脳神経外科脳神経内科内科精神科などで診療しますが、原因と考えられる要因や症状は多岐にわたるため、「認知症とはこういう病気である」と定義することはたいへん困難です。
以下に、参考として推奨される医療機関が定めた定義を紹介します。

日本神経学会「認知症疾患治療ガイドライン2010」(要約)

正常に発達した理解力、判断力などの認知機能が、病気や怪我などによって障害を受け、日常生活に支障をきたしている状態。さらに、この状態が意識障害のないとき(意識がない状態ではないとき=意識がはっきりしているとき)に見られること。

WHO「国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)」

記憶力、思考力、計算力、言語能力、学習能力などの機能に障害がおきた状態。これらの障害は慢性的に継続するか、徐々に進行(=悪化)していく。

米国精神医学会(複数のテキストを参照)

記憶障害(過去の記憶が思い出せない状態)に必ず陥っている。さらに、理解力や判断力にも障害があることにより、以前できていたことが大幅にできなくなっている状態。

各医療機関により定義されている「認知症」だとされる状態はある程度共通しています。
つまり「意識がはっきりしているときに記憶障害がおこり、日常生活に支障をきたしている状態」と言えます。

目次
  1. 認知症の症状
  2. 認知症の診療科目・検査方法
  3. 認知症の原因
  4. 認知症の予防・治療方法・治療期間
  5. 認知症の治療経過(合併症・後遺症)
  6. 認知症になりやすい年齢や性別

認知症の症状

認知症の症状は、「中核症状」と「行動・心理症状」の2つに分けられます。
中核症状は認知症を発症すると必ずあらわれる症状です。
一方、行動・心理症状は性格や環境などの要因によって、あらわれる症状が患者さんによって異なります。

中核症状

記憶障害

「さっき食事をしたのにそのことを忘れる」「長年の友人の名前が思い出せない」などの記憶障害があらわれます。
新しいことを覚えたり、記憶として長い時間留めたりすることができなくなります。

記憶は以下に分類されます。

いつ・どこなどの出来事記憶
ものや意味などの知識などの意味記憶
車の運転などの技術やプログラミングなどの意識しない非陳述記憶

記憶障害により、例えば「2年前にパートナーと海外旅行に行ったことを忘れる」「すきな食べ物を前にしても名前が思い出せない」「いままでできていた車の運転の仕方がわからない」といったことがおこります。

また健忘には2種類あります。

認知症発症前の出来事を思い出せない逆向性健忘
認知症発症後の出来事を思い出せない前向性健忘

健忘により「楽しかった旅行にまつわる記憶を忘れる」「ついさっき食事したことを忘れる」などのことがおこります。

理解・判断力の障害

理解力や判断力が低下し、適切な理解や判断が難しくなります。
予想外の出来事がおこると対処できなくなることもあります。

実行機能障害

ある計画のために、段階を踏んで準備を進めることが難しくなります。
たとえば、仕事の段取りが悪くなり計画が達成できなくなったり、複雑な手順の料理が作れなくなり同じメニューを繰り返し作るといった傾向があります。

見当識障害

時間や場所、相手のことがわからなくなります。
いまが「いつ」なのか、自分が「どこ」にいるのか、隣にいる人は「だれ」なのかがわからなくなることがおきます。

失語・失認識・失行

失語:相手が話す言葉が理解できない、しゃべりたい言葉がしゃべれなくなることがあります。
失認識:何年も通った家までの道で迷ったり、使い慣れた道具の使い道がわからなくなったりすします。
失行:服を着たあとにボタンを留めるなど、動作を組み合わせておこなうことができなくなります。

行動・心理症状(BPSD)

患者さん個人の身体的要因、環境的要因、心理的要因などが影響し、症状があらわれます。
患者さんによってあらわれる症状はさまざまです。

精神症状

幻覚・妄想:亡くなった人があらわれたなどの幻覚、物が盗まれたなどの妄想がおこったりします。

感情障害

うつ・感情不安定:不安を強く感じうつ状態になったり、感情が不安定になったりします。

異常行動

徘徊:大切な場所を目指してあてもなくさまよったり、目的もなくさまよったりすることがあります。
不眠・失禁:眠れなくなったり、排尿が困難になったりします。トイレの場所がわからなくなるなどの原因がある場合もあります。
暴力・暴言:攻撃的な性格になり、暴力を振るったり暴言を吐いたりすることがあります。

前駆状態

認知機能の低下があるものの、認知症の症状がはっきりと出ているわけではない状態を、前駆状態と言います。
前駆症状は、その状態のときにみられる症状のことです。
前駆症状があらわれた時点で治療や予防を試みると治療の効果があらわれやすいため、認知症の前駆状態を指す「軽度認知障害(MCI)」が注目され始めています。
しかし、認知症の前駆状態を定義するのは難しく、複数の研究・医療機関がその基準を提示しているものの、診断方法の確立には至っていません。

診療ガイドラインによる主な認知機能障害まとめ

全般性注意障害

必要な作業に注意を向けて、それを維持し、適宜選択、配分することができなくなります。ぼんやりして反応が遅く、いろいろな作業でミスが増えるということがおこります。

遂行機能障害

物事を段取りよく進められなくなります。

健忘

前向性健忘:発症後におきた新たなことを覚えられない
逆向性健忘:発症前のことを想い出せない

失語

発話、理解、呼称、復唱、読み、書きの障害

失書

書字の障害。文字想起困難(漢字を書いたり思い出すことができないこと)や書き間違い

失算

筆算、暗算ができない

構成障害

図の模写、手指の形の模倣などができない

地誌的失見当

よく知っている場所で道に迷う

錯視

無意味な模様などを人や虫などに見間違える

幻視

実際は無いものが見える

失行

肢節運動失行:細かい動きが拙劣で円滑な動きができない
観念運動性失行:バイバイなどのジェスチャーができない
観念性失行:使い慣れた道具をうまく使えない

脱抑制

相手や周囲の状況を認識し、それに適した行動がとれない

代表的な症状

認知症はその原因によって、いくつかの種類に分けられます。
数値はその認知症が全体の患者さん数に対し占める割合をそれぞれ%で記載しました。

1.アルツハイマー型認知症

脳の萎縮がおこるアルツハイマー病が原因となる認知症。67.6%。

初期
記憶障害があらわれます。物忘れとは異なる症状です。
たとえば、「数年ぶりに会う人の名前が思い出せない」というケースでは、アルツハイマー病と物忘れの違いは次のようになります。
物忘れ:相手と「数年ぶりに会う」ということがわかります。自分が「相手の名前を思い出せない」ということを自覚しています。愛称などのヒントを与えると、思い出すことができます。
アルツハイマー病:相手が誰なのか思い出せません。会ったことがあるか、ないかがわかりません。「会ったことがある」と言われても、「そんな記憶はない」という反応をしてしまうことがあります。

中期
時間的な区別が難しくなります。
多くの場合、発症後の記憶を忘れていき、過去の記憶は残りやすいとされます。

後期
言葉の意味がわからなくなるため、会話が難しくなります。
日常生活のほとんどに介助が必要になります。

2.血管性認知症

脳梗塞や脳出血によって脳細胞が損傷を受け、機能しなくなることが原因となる認知症です。脳梗塞や脳出血を引きおこす原因は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主です。19.5%。

初期
意欲低下や不眠などの症状が、よくなったり悪くなったりします。
損傷を受けた脳の位置によってできなくなったことがある一方、損傷を受けていない部分が司(つかさど)る機能には異常がみられない場合もあります。
できることと、できなくなったことに差がみられます。

中期以降
脳血管障害がおこるたびに認知症が段階的に進行します。

3.レビ-小体型認知症

脳内に蓄積したレビー小体というタンパク質により、脳の神経細胞が破壊されておこる認知症です。4.3%。

手足が震える、筋肉が固くなるなど、パーキンソン病(脳内のドーパミンが減ることで発症する病気)に似た症状があらわれます。
進行すると、転びやすくなるため介助が必要です。
亡くなった人が見えるなどの幻視がおこる場合もあります。

4.前頭側頭型認知症

脳の前頭葉や側頭葉で神経細胞が減少して脳が萎縮する認知症です。1.0%。
性格が極端に変わり、感情の抑制ができなくなったり、反社会的な行動をおこすようになったりします。
無意味な言葉を言い続けたり、同じ行動を繰り返したりしないと不機嫌になるなど、物事を柔軟に考えることができなくなります。

その他

アルコール性認知症や混合型認知症など。
アルコール性認知症はアルコールを多量摂取し続けた結果、脳梗塞や脳血管障害をおこし発症する認知症です。
混合型認知症はほとんどが、アルツハイマー型認知症と血管性認知症が合併している認知症です。7.6%。

日本ではアルツハイマー型認知症が多くを占めています。 この結果について、「認知症疾患診療ガイドライン2010」では、次のようなコメントを添えています。
「認知症の診断方法が確立されているわけではないので、ほかの原因で発症した認知症もアルツハイマー型認知症などの代表的なものに分類されている可能性がある」ということです。

認知症に似ている病気

1.せん妄

高齢者に多い急性の脳機能障害。脳の器質に関わる疾患、身体的な疾患、薬物などが原因で発症します。
幻覚や錯視、失見当識(しつけんとうしき:時間や場所などの認識能力である見当識が失われた状態)などの症状が特徴です。

せん妄の症状は変動しますが、認知症の症状は安定してあらわれます。

2.健忘性障害

失語・失行・失認などが認められないものの、重度の記憶障害があらわれるのが特徴です。

脳の一部が傷つき、低血糖や一酸化炭素中毒などで損傷されると引きおこされるのが健忘性障害です。
アルコールや薬物も発症に関係しているとされています。

3.精神遅滞(せいしんちたい)

全般知的機能障害と適応機能障害を18歳以下で発症した場合の病名で、知的障害と呼ぶ場合もあります。
感染症や頭部の外傷、出生前の要因などが関わっているとする説が有力ですが、多くの場合は原因不明です。

4.統合失調症

さまざまな認知機能障害が認められるものの、発症年齢が若く、認知症ほど重篤な症状ではないことが特徴です。
記憶力や判断力の低下に加え、幻覚や妄想などの症状があらわれる精神疾患の一つです。

5.大うつ病

うつ病は気分障害の一つで、不眠や意欲低下、不安により感情が安定しないなどの症状が代表的です。

高齢者においては、認知機能障害の原因がうつ病か、認知症かの診断は難しいとされます。
それぞれの原因が別にある場合は、両方の診断が下されることもあります。

6.加齢に伴う正常な認知機能低下

物忘れなどの加齢による認知機能低下は、認知症とは明確に区別されます。

認知症と物忘れの違い

加齢が原因で発生する物忘れ(生理的健忘)は、認知症の症状ではありません。
脳が老いて記憶力が衰えることは自然現象で、物忘れは誰にでもおこり得ます。

たとえば、「コップをどこに置いたか忘れてしまう」「知人の名前がなかなか思い出せない」などの症状が物忘れです。
対して、「コップがあったこと自体を忘れる」「知人かどうかも思い出せない」などの症状が認知症です。 両者の違いをまとめると、次のようになります。

生理的健忘

物忘れの内容は一般的な知識などです。健忘について進行、悪化はしません。日常生活に支障はなく、自覚もあります。学習能力や日時の見当識は維持されており、感情や意欲も保たれています。

病的健忘(Alzheimer型認 知症)

物忘れの内容は自分の経験した出来事であり、物忘れの範囲は体験した全体に及びます。進行性があり、日常生活にも支障が出てきます。また、症状に対し自覚がなく、新しいことを覚えられなくなっていきます。日時の見当識も障害されており、感情や意欲が保てないために怒りっぽくなり、意欲も低下します。

物忘れには、「自分がなにかを忘れている(思い出せない)」という自覚症状があり、決断をする際の判断力は衰えていません。
ヒントを与えると簡単に思い出せるのも物忘れの特徴です。

認知症とアルツハイマー病の違い

アルツハイマー病は、認知症を引きおこす原因となる病気の一つです。
アルツハイマー病が原因で発症する認知症を「アルツハイマー型認知症」と呼びます。
アルツハイマー病は、脳内に蓄積したタンパク質が原因で神経細胞が破壊され、脳が萎縮するために脳機能が低下する病気です。

しばしば「認知症」と同じ意味で「アルツハイマー」や「アルツハイマー型認知症」という言葉が用いられますが、便宜的に使われているだけであって、正しい言葉の使い方ではありません。
両者の単語が近しい意味で使われる背景には、日本での認知症患者さんの大多数をアルツハイマー型認知症が占めているからだと考えられます。
アルツハイマー病の治療方法はまだ確立されていませんが、早期治療と服薬で病気の進行を遅らせることが可能です。

認知症の診療科目・検査方法

一般的には、脳神経外科脳神経内科内科精神科などを受診するとされています。しかし、認知症を疑ったら、かかりつけ病院の医師に相談するのも一つの選択肢です。
これは、認知症の診療ができる医師が所属している診療科目が、多岐にわたるためです。かかりつけ医の診断によっては、専門機関へ紹介状を書いてもらうこともできます。

お住まいの市区町村にある、高齢者相談センターや認知症相談センターなどに連絡してみる方法もあります。
担当の課がわからなくても、市区町村に電話して問い合わせれば教えてもらうことができます。
相談センターの紹介で、専門医のいる病院にかかることもできます。

そこまで認知症の症状が強く出ているわけではないけれど、これから進行していくのが心配だという場合は、「物忘れ外来」や「メモリークリニック」といった診療科目が選択肢になります。
科の名前は病院によって違うこともあるので、まずは問い合わせてみましょう。

受けられる診療も病院によって異なり、医師による診断だけでなく、地域の介護施設や保険制度の相談に乗ってくれるところもあります。

検査方法

医師による問診を中心に、認知機能テストや神経心理検査などをおこない、診断基準に照らし合わせて最終的な診断が下されます。
画像診断をおこなうこともありますが、補足的な意味合いで利用されます。
医師の診断には本人だけでなく、家族からの情報が役立ちます。家族が付きそう場合は、本人の状態をあらかじめ紙にまとめておくと良いでしょう。

問診の例

・もの忘れの程度はどのくらいか
・ここ半年間で症状は進行したか
・以前と比較してできなくなったことはあるか
・判断力や問題解決能力に低下を感じるか
・最近あった大きな出来事を覚えているか
・日常生活はどのように送っているか
・いままでかかった病気や現在飲んでいる薬はあるか

など

1.認知機能テスト

認知機能テストはいくつかの種類があり、目的、所要時間などによって医師が適切なテストを選択し、実施します。
これらのテストは認知症の診断に使われるほか、経過観察にも用いられます。

 

今回は、主流となっている2つのテストを中心に紹介します。

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

精神科医の長谷川医師によって開発された認知機能の低下を診断するためのテストで、9問から構成されています。
30点満点で、20点以下だと認知症の可能性が高いとされています。ただし、20点以下には即認知症診断が下るというわけではありません。

参考として、1問目から4問目までを以下に紹介します。
以下のほかには、簡単な引き算や、3ケタの数字を逆から言ってもらうなどの質問があります。
お歳はいくつですか?(2年までの誤差は正解)
今日は何年何月何日ですか?

何曜日ですか?(年月日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ)
私たちがいまいるところはどこですか?(自発的にでれば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択をすれば1点)
これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。(以下の系列のいずれか1つで, 採用した系列に○印をつけておく)

1: a)桜 b)猫 c)電車
2: a)梅 b)犬 c)自動車

 

認知症の重症度別の平均点は次の通りです。

非認知症    24.3点

軽度認知症      19.1点

中等度認知症      15.4点

やや高度認知症      10.7点

高度認知症              4.0点

(Mini-Mental State Examination/ミニメンタルステート検査)

アメリカで開発され、国際的に認知症の検査に使用されているテストで、11問の質問で構成されています。
30点満点で、23点以下で認知症の可能性が高いとされています。
参考として、1問目から4問目までを以下に紹介します。ほかには、「右手をあげなさい」という指示に応えられるかどうか、時計や鉛筆を見せて名前を言ってもらうなどの質問があります。

(5点)
今年は何年ですか?
今の季節は何ですか?
今日は何曜日ですか?
今日は何月何日ですか?
(5点)

この病院の名前は何ですか?
ここは何県ですか?
ここは何市ですか?
ここは何階ですか?
ここは何地方ですか?

1秒間に1個ずつ言います。その後、被験者に繰り返させます。正答1個につき1点を与えます。3個全て言うまで繰り返します(6回まで)(3点)

物品名3個(桜、猫、電車)

(5点)

100から順に7を引く(5回まで)。

診断基準

27点以下で軽度認知障害(MCI)の疑いがあります。23点以下で認知症の疑いがあります。

そのほかの認知機能テスト

日本語版(AD8-J)

8問からなる検査で、点数が高いほど認知機能障害があると考えられます。
2点以上で認知症の疑いがあると判定します。

 

・Mini-Cog

復唱や描写などの3つのテストをおこない、2点以下だと認知症の疑いがあると判定します。

 

・地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(DASC-21)

21問からなる検査で、84点満点で、合計点が31点以上の場合は認知症の疑いがあると判定されます。

介護職員や看護師・理学療法士など、医師以外の医療従事者コ・メディカルでも実施することができます。

 

・MoCA(Montreal Cognitive Assessment)

軽度認知機能低下を判断するためのテストで、30点満点中、25点以下は認知機能に低下があると考えられます。
糖尿病患者さんの認知機能テストに使用されることもあります。

画像診断

アルツハイマー型認知症の早期発見や、認知症のタイプの判別、進行度合いを判断するための材料として画像診断がおこなわれます。

MRI

脳が萎縮しているかどうかの確認や、アルツハイマー型認知症以外の原因がないかどうかを確認します。

脳血流

脳の血流の状態がわかる画像を撮影し、脳機能が低下している場所がないか確認します。

そのほかの検査

医師の判断に応じて、血液検査や尿検査をおこなう場合があります。

診断方法

認知症の診断基準はいくつかの機関が発表しており、「認知症疾患診療ガイドライン2017」には、各診断基準の要約・抜粋が示されています。
以下に、かみ砕いた表現に修正したものを紹介します。

1.WHOによる国際 疾病分類第10版の診断基準(要約)
G1.以下の各項目を示す証拠が存在します。

 

記憶力の低下

新しい事柄に関する記憶力の低下が目立ちます。
重症になると、過去に覚えた情報を思い出すことも困難で、記憶力の低下が客観的に確認できます。

 

認知能力の低下

判断力と思考力の低下や、日常的な情報処理能力(覚えた情報を必要なときに思い出したり、状況に合わせて必要な情報だけピックアップしたりする能力)の悪化が見られます。

いままでできていたことと比べると、明らかにできる水準が下がってきます。

 

1)、2)により、日常生活動作や実行機能に支障をきたします。

 

G2.意識がない状態ではないときに、G1の症状が長期間にわたってあらわれていること。
せん妄のエピソードが重なっている場合には認知症と断定しません。

 

G3.次の1項目以上を認める。

1)情緒易変性(じょうちょえきへんせい):気分が変わりやすく、落ち着かない
2)易刺激性(いしげきせい):不機嫌になりやすく、怒りっぽい
3)無感情:感情の変化に乏しく、喜んだり悲しんだりしない
4)社会的行動の粗雑化:相手や周囲の状況に対する反応がいい加減になる

 

G4.基準G1の症状が明らかに6か月以上存在している場合、確定診断されます。

2.米国国立老化研究所/Alzheimer病協会による認知症の診断基準(2011年)

1.仕事や日常生活に障害がある
2.症状が出る以前と比べて実行力が低下している
3.せん妄や精神疾患ではない
4.以下の情報に、認知機能への障害が認められる

1)患者または家族などから提供された病歴
2)精神的な機能を評価するテストや、心理検査
5.以下の2領域以上の認知機能や行動に障害がある

a.記銘力障害(きめいりょくしょうがい):新しい体験を覚えられない
b.論理的思考力、実行機能、判断力が低下している
c.視空間認知障害(しくうかんにんちしょうがい):ものの位置や向きを認識できない。具体的には、地図をよんだり着替えたりすることができない
d.言語機能障害:言葉が理解できない、うまくしゃべれない
e.以前と比べて、人格、行動、態度に変化がある

3.米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル第5版による認知症の診断基準(2013年)

A.複雑性注意(注意力を維持する能力)、実行機能(複雑な課題を遂行できる能力)、学習や記憶、言語、知覚-運動、社会的認知(世間などの社会的な情報を理解する能力)のうち、1つ以上の認知領域が以前と比べて大きく低下している。また、その証拠が以下に基づいている:

(1)本人、本人をよく知る人(家族など)、または医療従事者が、大きく認知機能が低下したと感じる。加えて、

(2)一般的な心理学的検査や、数字で成績が出せる臨床的なテストによって、実質的に認知行為に障害があると明らかになっている

 

B.毎日の活動において、認知能力の欠落が自立した生活を阻害する(請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、日常生活動作に介助を必要とする)

 

C.その認知能力の欠損は、せん妄が原因でおこるものではない

 

D.その認知能力の欠損は、ほかの精神疾患(例:うつ病統合失調症)によって説明できるものではない

認知症診断の考え方

認知症と診断されるには、認知機能障害が認められるだけでなく、社会生活に障害をきたしているかどうかがポイントとなります。

社会生活の低下が確認できる場合は認知症を疑いますが、自立していると判断される場合は軽度認知障害(MCI)を疑います。

 

また、意欲低下や判断力低下の原因が、うつ病などほかの病気ではないかどうかの判断もおこないます。

認知機能テストにおいて、認知症が疑われる成績を出した患者さんに対しても同様の考え方で診断をおこない、テストの成績だけで診断を下すことはありません。

うつ病せん妄の可能性を除外する目的は、正常圧水頭症などの治療可能な認知症を見逃さないためです。

 

基本的な認知症診断の考え方は以下の通りです。

重症度診断方法

MMSEやDASC-21のテスト結果を用いて、簡易的に認知症の重症度を測ることができます。

MMSEやDASC-21は、認知症の検査に用いられる認知機能テストの名称です。

認知機能にどの程度問題があらわれているかを図る目安の一つで、それぞれ規定の点数を下回る成績だと「認知症の疑いがある」とみなされます。

 

ここではDASC-21を解説します。

DASC-21

84点満点の、21問からなる検査です。合計点が31点以上の場合は認知症の疑いがあると判定します。
このテストは、介護職員やコメディカルなど、医師でなくても実施することができます。
参考として、1問目から4問目までを以下に紹介します。

 

1.財布や鍵など、物を置いた場所がわからなくなることがありますか
2.5分前に聞いた話を思い出せないことがありますか
3.自分の生年月日がわからなくなることがありますか
4.今日が何月何日かわからないときがありますか
これらの質問に対し、

 

・まったくない(問題なくできる):1点
・ときどきある(だいたいできる):2点
・頻繁にある(あまりできない):3点
・いつもそうだ(まったくできない):4点
の4つのうちのどれに当てはまるかで評価します。

 

は21点以上で軽度、11~20点で中等度、0~10点であれば重度となる。
では合計点が31点以上の場合は認知症の可能性ありと判定しますが、遠隔記憶、場所の見当識、社会的判断力、身体ADに関する項目のいずれもが1点または2点の場合は「軽度認知症」の可能性ありと判定し、この項目のいずれかが3点または4点の場合は「中等度認知症」の可能性ありと判定します。この項目のすべてが3点または4点の場合は「重度認知症」と判定されます。

 

身体的ADLとは日常生活動作(食事や排泄、入浴など、日常生活に必要な動作)のことをさします。

 

詳細な重症度や進行度を測るためには、

 

認知症の日常生活自立度

  • ALD(日常生活活動度:生活するための活動能力)+行動心理への評価
  • FASTの分類(生活機能を観察評価し重症度を分類する方法)
  • BPSD(行動・心理症状)に対する評価

 

などを用いて評価をおこないます。

家族間でおこなえる初期症状質問票

「認知症かもしれない」と最初に気づくのは本人よりも家族です。

家族が生活の変化に気づいた場合に利用できる、質問票や目安などがいくつか公開されています。

 

ここでは、山口晴保研究室が提案している「認知症初期症状11項目質問表」を以下に紹介します。

1問を1点とし、家族による評価で4点以上だと医療機関の受診が勧められています(医療機関でチェックする場合は、3点以上で認知症を疑います)。

この質問票は、4点以上を認知症と断定するものではありません。

 

チェックは同居している人など、認知症が疑われる本人をよく知っている人が実施します。
本人がチェックしたものは、評価の対象とはなりません。

 

最近1か月の状態について、日々の生活の様子から判断して、あてはまるものに ○を付ける(ただし、原因が痛みなど身体にあるものは除く)。

 

・同じことを何回も話したり、尋ねたりする
・出来事の前後関係がわからなくなった
・服装など身の回りに無頓着になった
・水道栓やドアを閉め忘れたり、後かたづけがきちんとできなくなった
・同時に二つの作業を行うと、一つを忘れる
・薬を管理してきちんと内服することができなくなった
・以前はてきぱきできた家事や作業に手間取るようになった
・計画を立てられなくなった
・複雑な話を理解できない
・興味が薄れ、意欲がなくなり、趣味活動などを止めてしまった
・前よりも怒りっぽくなったり、疑い深くなった

認知症の原因

多くの場合、認知症の原因は不明であり、認知症発症のきっかけとなる病気も多様です。

しかし世界中の機関が研究を進めており、支持されている仮説も存在します。

認知症の種類による原因の違い

1.アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症のきっかけとなるアルツハイマー病には、「アミロイドβ(Aβ)」というタンパク質が関わっているとする説が有力です。

Aβは、アルツハイマー病の特徴とされる脳の老人斑(大脳皮質にみられるシミ状の異変)を構成する物質です。
理化学研究所の研究は、Aβの蓄積減少が記憶力の低下を抑えることを報告しています。
アルツハイマー型認知症の症状があらわれる20年ほど前からAβタンパク質は脳に蓄積し始め、老人斑を出現させます。

老人斑は脳神経を圧迫し死滅させるため、脳が萎縮して正常に機能しなくなるとされています。しかし、なぜAβが蓄積するかはわかっていません。

2.血管性認知症

脳の血管が詰まったり破れたりし、脳の組織が損傷を受けることで、脳が正常に機能しなくなり、認知症の症状があらわれます。
原因となる病気には脳梗塞や脳出血などがあり、脳の血管障害によっておこる認知症です。
脳の損傷した血管の場所によって症状は異なり、突然症状があらわれる、状態が変動するなどの特徴があります。

3.レビ-小体型認知症

レビ-小体というタンパク質が脳に蓄積することで、脳の萎縮がおこり発症する認知症だとされています。
アルツハイマー病の原因と同じく、レビー小体がなぜ蓄積するかはわかっていません。

4.前頭側頭型認知症

明確な原因は不明なものの、ピック球という球状の物質が神経細胞内に形成され、蓄積されることがわかっています。
TDP-43タンパク質が蓄積される場合もあるため、いくつかの病気が関わって前頭側頭型認知症を発症するとされています。

5.正常圧水頭症

脳を流れている髄液が溜まり、脳を圧迫するために脳機能が低下する病気です。
認知症と同じような症状があらわれますが手術をおこなうことで症状が改善されます。そのため、「治療可能な認知症」と言えます。

遺伝

家族性アルツハイマー病は、遺伝によって発症します。
加齢が危険因子となる認知症とは違い、20代後半から50代前半の比較的若い世代で発症することが多いとされています。
若年性アルツハイマーとの違いは、症状の進行がとても早いという点です。

原因遺伝子が明らかになっているものについては、遺伝子検査を受けることで発見・診断できる場合があります。
家族性アルツハイマー病は、以下にすべて当てはまる場合を指します。

①家系内にアルツハイマー病患者さんが2人以上いる
② 通常2世代以上にわたってアルツハイマー病患者さんが存在する
③ 家系内の患者さんが常に60-65歳以前に発症している

認知症の予防・治療方法・治療期間

認知症の根本治療(進行を食い止め、症状を完全に無くす治療)方法は、現在のところありません。
「認知症の治療薬」とは、基本的にはアルツハイマー型認知症に対しての薬を指し、対処療法薬(症状を緩和するための治療薬)として処方されます。
アルツハイマー型認知症は進行性のため、病気の進行を遅らせ、自立した生活を維持することが治療の目的です。

アルツハイマー型認知症に用いられる治療薬は、一部を除いて基本的にほかのタイプの認知症には効きません。
しかし、薬物療法以外の方法によって、認知症の進行を遅らせることも可能です。
心理的・社会的な治療方法を軸に、患者さん一人ひとりの人生を尊重します。

徘徊や思い込みなどの症状は、周囲の対応の仕方で改善できるものも存在します。
治療薬にまったく頼らないのではなく、治療薬の効果を高めるために、薬以外の治療を継続しておこなっていきます。

認知症疾患診療ガイドライン2017では、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対して、薬物治療より非薬物治療を優先しておこなうことを原則とすることが推奨されています。

アルツハイマー型認知症の治療薬

1.ドネペジル

アルツハイマー型認知症の治療薬として、一般的に使用される薬です。
アルツハイマー型認知症の脳では、アセチルコリンを作る細胞が減少していることがわかっています。
アセチルコリンは、覚醒作用や活力を向上させる作用を持つ神経伝達物質です。

ドネペジルには、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの働きを阻害する作用があります。
アセチルコリンの減少を食い止めることで、脳内のアセチルコリン濃度を高めます。
2014年に、レビー小体型認知症にも処方できるようになりました。

<副作用>
・消化器官の不調(食欲不振や嘔吐など)
・神経の昂ぶり(興奮や不眠など)
・頻尿
・心拍の乱れ(不整脈やめまいなど)
・パーキンソニズム(パーキンソン病のような症状:手足の震えや筋肉のこわばりなど)

2.ガランタミン

軽度から中程度のアルツハイマー型認知症に対して用いられる薬です。
ガランタミンは、脳内のアセチルコリンに対して働きかける作用を持っています。
アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害する働きがあるのは、ドネペジルと同様です。

もう1つは、アセチルコリン受容体に作用し、受容体の感受性を高める作用があります。
結果、アセチルコリンの働きを助け、脳内の情報伝達をスムーズにします。
アルツハイマー型認知症では、アセチルコリンだけでなく、アセチルコリン受容体も減少していることが知られています。

<副作用>
・消化器官の不調(食欲不振、下痢など)
・神経の昂ぶり(興奮や不眠など)
・頻尿
・心拍の乱れ(不整脈やめまいなど)
・パーキンソニズム(パーキンソン病のような症状:手足の震えや筋肉のこわばりなど)

3.リバスチグミン

軽度から中程度のアルツハイマー型認知症に対して用いられる薬です。
リバスチグミンは唯一の貼るタイプの認知症治療薬で、内服薬と比べてゆるやかに作用することが特徴です。

リバスチグミンも、ドネペジルやガランタミンと同様に、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害する働きがあります。
もう1つは、アセチルコリンを分解する別の酵素である、ブチルコリンエステラーゼの作用を阻害する働きを持っています。

ドネペジルやガランタミン(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)では効果が感じられないときに、リバスチグミンを処方される場合があります。
しかし、ブチルコリンエステラーゼを阻害することで、なぜ認知症の症状が緩和されるかは、まだはっきりとわかっていません。

<副作用>
・消化器官の不調(食欲不振、吐き気など)
・皮膚のかゆみやかぶれ

4.メマンチン

中程度から重度のアルツハイマー型認知症に対して用いられる薬です。
認知症患者さんの脳内には異常なタンパク質の蓄積がみられ、その影響でグルタミン酸が過剰に分泌されています。
グルタミン酸は、記憶や学習に関わる神経伝達物質です。
グルタミン酸が過剰分泌されることで記憶や学習のための脳機能が阻害され、記憶障害や判断力低下などの症状が引きおこされると考えられています。

メマンチンには、過剰なグルタミン酸の分泌を抑え、神経細胞を保護する働きがあります。
結果、記憶障害などの症状の進行を緩やかにします。
メマンチンはドネペジルとは異なる作用機序を持つ薬なので、併用することが可能です。

<副作用>
・浮動性めまい(フワフワ浮いているようなめまい)
・便秘
・傾眠(うとうとする、意識がもうろうとしてしまう)
・幻覚や妄想

薬物療法以外の治療法

薬物療法以外の治療方法を、非薬物療法と呼びます。
認知症の症状としてあらわれる行動・心理症状(BPSD)の緩和、日常生活を送るための能力改善を目的としておこなわれます。
非薬物療法には、認知症患者さんと介護者のコミュニケーションを積極的に図るという側面もあるため、認知症の症状を改善できるからおこなうというものでもありません。

非薬物療法はさまざまありますが、代表的なものを紹介します。

1.認知リハビリテーション

使うことが少なくなっていた脳の機能を積極的に刺激することで、脳細胞を活性化させることを目的におこないます。
料理や洗濯、畑仕事など、患者さん本人の趣味や経歴を活かす作業を任せ、設定したゴールを達成することによって、満足感と達成感を感じてもらうことが重要です。

2.運動療法

ウォーキングやストレッチなどの軽い運動をおこない、身体を動かすことによって筋力の維持や関節機能の改善をおこないます。
脳が活性化されるだけでなく、身体機能を維持することによって、QOL(生活の質)をキープすることもできます。
不眠や空間認知機能の改善も見込めます。

3.音楽療法

音楽を聴くことはもちろん、歌ったり、演奏したりすることを通して脳を活性化させます。
音楽に合わせた体操や、カラオケ大会などのプログラムもあります。
懐かしい曲や思い出の歌を聴いたり歌ったりすることで、記憶力の改善や気持ちの落ち着き効果が見込めます。
発声や嚥下(えんげ:飲み込む)機能の維持も報告されています。

4.回想法

認知症患者さんは最近のことを思い出すのは苦手ですが、昔のことであれば比較的覚えています。
昔のことを思い出し、思い出について話したり、聞いたりすることで記憶力や集中力が鍛えられます。
楽しい記憶を思い出すことには心理的な安定効果があり、うつや不安が見られた認知症患者さんの症状が改善された報告もあります。

介護者によるケア、協力のあり方

家族に認知症患者さんがいる場合、周囲のケアや協力が重要となります。
できないことが増えたからといって家族が代わりになんでもおこなってしまうと、症状進行を手助けすることになってしまいます。

失敗を揶揄(やゆ)したり、子供扱いしたりすることは、患者さんのプライドを傷つけることになります。認知症患者さんは周囲の手助けがないと生活することは難しいことは確かですが、子供ではありません。患者さん自身を尊重し、リハビリだからといって無理強いをせず、家族や介護者が、認知症をしっかり理解することも重要です。

新しい治療方法の研究

認知症を根本治療できる治療薬の実現を目指して、多くの研究がおこなわれています。
根本治療薬の可能性が現実的な認知症は、ある程度、認知症発症メカニズムの仮説が支持されているアルツハイマー型認知症だけです。

しかし、認知症の治療薬開発には、大きなハードルがあります。
ヒトに対する効果を検証する治験において、長い期間と莫大な費用が必要であること、結果に大きなバラつきがあるため薬の効果判定が困難であることです。
認知症発症のメカニズム解明がはっきりとわかっていないことも、根本治療薬の実現を阻んでいます。

1.新治療薬

近年、新薬「アデュカヌマブ」がアルツハイマー病の治療薬として注目されています。アメリカの製薬企業が開発した「抗アミロイドβ(Aβ)抗体」で、2017年4月厚生労働省はこの新薬を「先駆け診査指定精度」の対象品目に指定しました。
この指定によって、1年かかる診査を半年に短縮することができます。
アミロイドβを減らすことができれば、アルツハイマー病の根本治療に近づくという仮説に基づいて開発されたのが「アデュカヌマブ」です。

2016年9月に科学雑誌ネイチャーに掲載された論文で、臨床試験において脳内のアミロイドβを減らしたこと、投与する量と時間に比例して認知機能低下を抑止したことを発表しました。
現在、アルツハイマー病患者さんを対象に、アデュカヌマブの有効性を確かめるための国際共同試験がおこなわれています。
この試験で有効性と安全性が確認できれば、日本で治療薬として承認されることが期待されています。

2.J-ADNI

2007年に開始された、厚生労働省が主導するアルツハイマー病の研究プロジェクトがJ-ADNIです。
アルツハイマー病の発症・進行に関する研究のほか、根本治療薬や予防薬の開発を目指しています。
世界4地域(日本、アメリカ、EU、オーストラリア)において実施されている大規模な臨床研究で、アルツハイマー病の情報を蓄積することによって、治療法を確立することが期待されています。

予防

認知症を必ず予防できる方法はありませんが、生活習慣病の予防がそのまま認知症予防にもなります。
血管性認知症は動脈硬化が原因でおこる、脳梗塞や心筋梗塞を元に発症します。
動脈硬化を引きおこすリスクは糖尿病や肥満などで、長く生活習慣が乱れていると発症しやすくなります。

糖尿病や高血圧などの生活習慣病は、アルツハイマー型認知症を発症しやすくするというデータもあります。
軽度認知症(MCI)の時期に運動や脳の活性化に取り組むと、発症や進行を食い止めることができるという研究もあります。

1.運動、食事の改善

ウォーキングなどの有酸素運度がよいとされています。運動機能の維持や血流の促進によって、脳機能の低下を防ぎます。
歩きながら簡単な計算をしたり、会話をしながら家族や友達と歩いたりするなど、2つ以上の動作を組み合わせておこなうのも効果的です。

バランスのとれた食事をします。青魚に含まれるDHAやEPAは脳機能を保つ働きがあるため、魚は積極的に摂取したい食品です。
ビタミンCやビタミンE、βカロチンを含む野菜や果物を食べるのも良いとされています。
バランスの良い食事は、脳へのエネルギー供給も効率的におこなうことができ、脳機能の維持に繋がります。

2.脳の体操

脳の発達は20歳頃に止まるとされていますが、判断能力や理解能力は80歳頃まで低下することはないとされています。
しかし脳は少しずつ萎縮していくので、早いうちから脳を働かせる生活を意識することが大切です。

パズルや計算、読み書きなどで脳を使うことも認知症予防になります。
脳を使うと血流がよくなり、酸素や糖などの栄養も運ばれます。脳機能の維持は、認知機能の維持に影響します。
楽しくおこなうことも重要で、ストレスを感じるほどの量や強制力を持たせると、逆効果です。

危険因子の回避

認知症発症のリスクを高める要素のうち、本人の意志次第で改善可能な9つの要素についての論文が2017年7月に発表されました。
論文をまとめたのは、認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会です。

危険因子は下記の通りです。()内に相対リスクの倍率と減少の割合を併記しました。

11~12歳までに教育が終了すること(1.6倍、8%)
高血圧(1.6倍、2%)
肥満(1.6倍、1%)
喫煙(1.6倍、5%)
聴力低下(リスク1.9倍、9%)
抑うつ(1.9倍、4%)
運動不足(1.4倍、3%)
社会的孤立(1.6倍、2%)
糖尿病(1.5倍,1%)

相対リスク:危険因子を持たない人と比べて、危険因子を持つ人が認知症を発症する確率
認知症患者さんの減少:その危険因子を持つ人がいなくなったら、どれくらい認知症患者さんが減るかのパーセンテージ

特に力を入れて改善するべき危険因子は、「小児期に教育が終了すること」「中年期に聴力低下を治療せずにいること」「高年期に至るまで喫煙していること」の3つといえます。
自分の年齢と表を照らし合わせ、現時点での発症危険因子を取り除くことも予防法の一つです。

認知症の治療経過(合併症・後遺症)

認知症は、基本的に進行性の病気であり治癒しません。
治療の目的は主に対処療法となり、進行を遅らせたり、生活する上での支障を少なくしたりするためにおこなわれます。

しかし、うつ病による仮性認知症や、薬が原因となる薬物惹起性認知症など、原因となる病気の治療方法が確立されているものは、治療可能な認知症です。
治療可能な認知症のことを「可逆性認知症(かぎゃくせいにんちしょう)」と呼びます。

徘徊

家の中で徘徊がおこる場合はある程度対策を取ることが可能ですが、屋外へ徘徊に出た場合、交通事故に遭ったり行方不明になったりする危険性があります。
車が来ているのに車道を歩いたり(判断力の低下)、自分の名前や住所が思い出せなかったり(記憶力の低下)、命やその後の人生に関わる問題です。

認知症の中核症状である記憶障害や見当識障害に、ストレスや不安などが加わり徘徊の症状があらわれると考えられています。
徘徊は認知症の行動・心理症状(BPSD)のひとつです。

身体合併症

認知症高齢者は、自律神経機能の低下や転倒などによって、さまざまな疾患や外傷を合併しやすくなります。これらを身体合併症と呼びます。

特に症状が進行した状態では、自分で症状を訴えることが困難になり、発見が遅くなることも考えられます。
以下が身体合併症の代表的な症状です。行動・心理症状(BPSD)を発症する原因や、寿命を縮めることに繋がる恐れがあります。

・運動症状

不随運動、運動麻痺、痙攣、パラトニア(筋肉の緊張)、パーキンソニズム(パーキンソン病の症状) など

・廃用症候群

脳萎縮、低血圧、心拍出量低下、尿失禁、便秘、誤嚥性肺炎 など

・老年症候群

転倒、骨折、脱水、食欲不振、肥満、貧血、不整脈、視力低下、睡眠時呼吸障害 など

認知症の合併症

症状別に注意すべき合併症を解説します。
次のような症状を感じたり、訴えられたりしたら、以下のような病気を合併している可能性が高いと考えられます。
もちろん、別の病気の疑いもあるため、しっかりと病院を受診しましょう。
皮膚にかゆみや痛みがあるときに注意するべき疾患は以下のとおりです。

褥瘡(じょくそう)

褥瘡とは、一般的に「床ずれ」と呼ばれるものです。
寝たきりなどで長時間体位を変えないと、体重がかかる部位の血流が悪くなり、皮膚が赤みやただれ、傷ができます。
皮膚だけでなく、骨に近い組織が損傷を受ける場合もあります。
後頭部やかかとなど、骨が突き出している部位は褥瘡ができやすくなります。
骨が当たる部分は身体の向きによっても異なるため、こまめに体位を変えることが予防法となります。

疥癬(かいせん)

ヒゼンダニというダニが皮膚に感染して発症するのが疥癬です。
長時間、肌が触れていることでダニが移動して感染します。
手のひらや指の間などにみられる症状が「疥癬トンネル」、お腹や腕、脚にみられる症状が「丘疹(赤いブツブツ)」です。丘疹は強いかゆみを伴います。

ヒゼンダニを殺す作用のある内服薬や外用薬で治療し、通常2週間程度で症状は回復します。
かゆみに対しては、かゆみ止めが処方されます。人にうつるため、手洗いの徹底や長時間の接触を避けることで予防できます。

帯状疱疹

水ぼうそうを発症させるウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス)が体内に残っており、免疫力の低下が引き金となって発症するのが帯状疱疹です。
50~70代での発症が多く、身体の片側にだけ痛みを伴う湿疹があらわれるのが特徴です。

抗ウイルス薬によって治療することができます。
バランスのとれた食事や睡眠時間の確保などで、免疫力を低下させないことが最大の予防法となります。

誤嚥性肺炎

食べ物などを飲み込む機能である「嚥下(えんげ)機能」が弱まることで、食道へ入るべき食べ物が気管に入り、発症する肺炎の一つです。
誤って気管に入れてしまった食べ物や唾液などと一緒に、口の中の細菌が肺へ入ることによって肺が炎症をおこします。
一般的な肺炎にある発熱や咳はなく、食欲不振や呼吸がしづらいなどの症状が出ます。

抗菌薬による治療が一般的です。
高齢者や寝たきりの人は繰り返し発症したり、重症化しやすかったりするため、「いつもと様子が違う」と感じたら合併症を疑います。

便秘

認知症になるとさまざまな原因によって胃腸の働きが弱まり、便秘を引きおこしやすくなります。機能性便秘では自律神経の機能低下がおこると、胃腸の働きも低下します。直腸性便秘では腹筋や肛門付近の筋力が弱まり、排泄機能が低下しているため便が出せなくなります。直腸への刺激を感じ取る機能が低下し、便意を感じられなくなることも原因です。弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)は寝たきりや食欲不振、運動不足などによって、腸の内容物を移動させる蠕動(ぜんどう)運動が低下し、便が溜まりやすくなります。

食事を見直したり、軽い運動を続けたりすることによって予防します。
紙おむつの利用や、トイレまでの動線を見直すことも対策の一つです。

骨折

認知症になると、注意力の低下によって転びやすくなります。
その上、高齢者は筋力や視力が低下しているため、より転倒の危険が高まります。
骨粗鬆症が進行していると骨折しやすく、寝たきりになってしまう可能性もあります。

室内に転びやすい箇所がないか確認し、家具の配置や動線の変更をおこなうことが転倒の予防に繋がります。

耳垢栓塞(じこうせんそく)

耳垢が詰まり、空気の通り道が塞がれてしまうために、一時的に耳が聞こえなくなるのが耳垢栓塞です。
耳垢とは耳あかのこと、栓塞とは外耳道を塞いだ状態という意味で耳鼻いんこう科で耳垢を取り除いてもらえば、聞こえるようになります。

高齢者は耳垢を排出する力が弱くなっているため、耳垢栓塞になりやすくなっています。耳垢栓塞を治療することによって聞こえがよくなり、認知機能の改善に繋がる場合もあります。自分で耳掃除をすると余計詰まらせてしまうこともあるため、耳垢栓塞の疑いがある場合は必ず病院を受診しましょう。

認知症になりやすい年齢や性別

日本における認知症の有病率

65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計について、内閣府によると、2012年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)でしたが、今後2025年には約5人に1人になるとの推計もあります。

世界における認知症の有病率

1980~2004年の疫学調査(Delphiコンセンサス研究)によると、60歳以上の推定認知症有病率は3.9%と報告されています。
認知症発症にはさまざまな要因が関連するため地域差があるものの、先進国において高く、発展途上国において低い傾向にあります。

しかしこの差は、「先進国の人は認知症リスクが高い」ということではありません。
先進国の方が発展途上国に比べて、平均寿命が長く医療制度が整っているため、「認知症と診断される人が多い」ということを表しています。

認知症患者さんは増加傾向にある

日本での認知症患者さんは増加傾向にあり、特にアルツハイマー病型認知症が増加しているとする調査が発表されています。
特に増加しているのは軽度の認知症で、原因別ではアルツハイマー型認知症が増えています。

またアルツハイマー型認知症は女性の発症者が多く、脳血管性認知症は男性の発症者が多いという性差があります。

若年性認知症

65歳未満で認知症を発症すると、高齢者の認知症とは区別され「若年性認知症」と呼ばれます。
若年性認知症の原因は高齢者の認知症と同様ですが、若年性では脳梗塞や脳出血が原因となっておこる血管性認知症患者さんの割合が最も高くなっています。

高齢者で最も多かったアルツハイマー型認知症の患者さんは全体の1/4であり、原因が多様化しているのが若年性認知症の特徴です。
平成21年3月に厚労省がおこなった調査によると、若年性認知症の患者さん数は人口10万人当たりで47.6人と報告されています。
発症年齢は平均で51.3歳となっており、50歳未満で発症した人の割合は30%と低くない数字となっています。

執筆・監修ドクター

板東 浩
板東 浩 医師 医師 担当科目 内科

経歴1957年生まれ。
1981年 徳島大学を卒業。
ECFMG資格を得て、米国でfamily medicineを臨床研修。
抗加齢医学、糖質制限、プライマリ・ケア、統合医療などの研究を行う。

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