しんてきがいしょうごすとれすしょうがい心的外傷後ストレス障害
心的外傷後ストレス障害(しんてきがいしょうごすとれすしょうがい)とは、強烈なショック体験や強い精神的ストレスが心の傷となり、月日がたってからもその時の体験を鮮明に思い出し、その経験に対する強い恐怖があらわれる心の病気です。
阪神淡路大震災がきっかけで「PTSD」という名で広く知られるようになりました。
主な原因としては自然災害、火事、事故、暴力や犯罪被害など、実際に死に直面したり、深刻なケガを負ったり、精神的な衝撃を受けるトラウマ(心的外傷)体験にさらされたことで生じます。
とてもつらい体験によって、原因が取り除かれた後も日常生活をおくることが難しくなり、それが数ヶ月も続く時はPTSDの可能性があります。
あらわれる症状や原因もさまざまです。
- 目次
心的外傷後ストレス障害の症状
症状は体験したトラウマによってもさまざまです。
大きく4つに分けられます。
侵入症状
トラウマとなった出来事が突然思い出されるフラッシュバックや、悪夢となって反復されたりして、同時にその時の気持ちの動揺や動悸(どうき)、吐き気などの生理反応をともなう症状です。
前触れもなく記憶がよみがえり、突然泣いてしまうことや怒り出してしまうこともあります。
そのため周囲の人たちからは情緒不安定に見えます。
回避症状
トラウマとなった出来事に関して思い出したり、考えたりすることを避けようとします。関連する人物やもの、状況、会話など、思い出すきっかけを避けるように行動や発言をするようになり、場合によっては行動が制限されます。
考え方や気分の変化
トラウマとなった記憶に苦しむことを恐れ、避けているあまり感覚が麻痺(まひ)してしまいます。それによって家族や周囲の人の言動が理由もなく攻撃的だと感じてしまったり、孤独感や疎外感を抱いたりと、幸福感や愛情が次第に感じられなくなります。こうなると人に心を許すことができなくなる傾向があります。
こういったことはつらい経験の記憶から心を守るための防御反応ともいえます。
覚醒度と反応性の変化
つらい記憶がよみがえっていない時でも、「もし記憶がよみがえったら」と不安になり、常に神経を張り詰めているような状態になります。そのためイライラしたりピリピリしていたりする、無謀な行動や自己破壊的行動、過剰な警戒心を持つようになります。少しの刺激でもひどく驚くような驚愕(きょうがく)反応を示したり、注意力が散漫になり集中が困難になったり、睡眠障害があらわれることもあります。
こうした症状が1カ月以上も続き、苦痛を強く感じたり、症状が著しく悪化したりするようであればPTSDの可能性があります。
心的外傷後ストレス障害の診療科目・検査方法
心的外傷後ストレス障害の原因
PTSDには必ず大きなきっかけがあります。
そのきっかけとは、心理的ストレスとなる出来事を実際に体験する、あるいはその場面を目撃してしまうことなどです。
原因となりうる出来事の代表例としては以下のものがあります。
- 地震や火災などの大きな災害
- 戦争地域などで、生命の危機に直面する状況
- 重大な交通事故や航空事故などに巻き込まれる
- 深刻な性的犯罪に巻き込まれる
- 学校生活などで身体的、精神的な暴行を経験する
- 幼少期に虐待を受ける
- 家族や友人などの近い存在の人が、事故などの突発的な原因により目の前で死亡する
などです。
実際に上記のような出来事があったとしても、必ずPTSDを発症するということではありません。心理的なストレスと感じる程度については個人差があり、生まれ持った性格も要因の一つとして考えられます。
心的外傷後ストレス障害の予防・治療方法・治療期間
治療法としては大きく2つに分かれます。
そのうち、「心理療法」的なアプローチを中心にしておこなわれます。しかし、実際には、多くの場合もう一つの治療法となる「薬物療法」と併用されます。
心理療法
心理療法はいくつかの種類があります。
代表的な心理療法を解説します。
持続暴露療法
原因となった状況をあえて他人に伝えることで心の中に想起させます。実際に思いおこすことで、今は身の危険がないのだということを実感させる治療法です。
具体的にはトラウマの原因となったイベントを思いおこさせる方法や、複数人で原因や悩みについて話し合うという方法があります。
ただし、どの治療法も危険なことがあるため、治療法を熟知した医療関係者とおこなう必要があります。
認知行動療法
考え方の癖や極端な考え方が症状を悪化させていることもあります。そういった極端な考え方に気づかせ、それを修正することで、より楽に考え、楽に行動ができるように導いていく治療法です。
トラウマから脱却し、社会復帰につなげるための実践的な治療法です。
眼球運動による脱感作療法および再処理法(EMDR)
眼球運動を用いる治療法です。眼球運動は、脳がフラッシュバックや外傷体験を処理する過程を活性化しているという仮説に基づいた治療法です。眼球を動かしながらカウンセリングをおこないます。
薬物療法
症状の中で、不眠、不安、うつ、自殺企図などが見られることがあります。こうした症状への対症療法として、抗うつ薬や精神安定薬などの薬物の使用を検討することがあります。
薬物療法を併用することで不眠が解消されたり、フラッシュバックや抑うつ状態が改善されたりする患者さんもいます。
心的外傷後ストレス障害の治療経過(合併症・後遺症)
PTSDを発症しても過半数は自然に回復します。自然回復は最初の数ヶ月で回復することもあれば数年間にわたるというレポートもあります。
薬物療法は、効果が半年以上遅れてあらわれる場合もあります。また、効果が確認された場合も中断すると再発することもあります。そのため、1年程度は継続する必要があります。
心的外傷後ストレス障害になりやすい年齢や性別
世界保健機構(WHO)による世界精神保健調査では、日本国内で一生のうちに一度はPTSDになる人は1.1〜1.6%でした。そのうち、20〜30代前半では3.0〜4.1%と、年代によって差があります。
米国でのKesslerらの調査では、人口の8%程度が発症するとしています。PTSDを生じるような危険な体験をする確率は男性で60.7%、女性で51.2%でした。しかし、PTSDの発症率は体験の種類に影響を受けます。同じ被害を受けた場合の発症率は男性より女性の方が高い傾向にあると指摘されています。
執筆・監修ドクター
経歴昭和61年3月 青山学院大学文学部教育学科心理学専修コース卒業
平成6年3月 東邦大学医学部卒業
平成6年4月 東京女子医大病院で臨床研修を終え、
東京女子医大精神神経科入局
平成8年7月 武蔵野赤十字病院心療内科勤務
平成11年10月 しのだの森ホスピタル入職
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