いちがたとうにょうびょう1型糖尿病
糖尿病とは、膵臓が生み出すホルモンであるインスリンの働きが不十分なために、血液中の血糖(ブドウ糖)が異常に増えてしまう病気です。
成因により「1型糖尿病(いちがたとうにょうびょう)」「2型糖尿病」「妊娠糖尿病」「その他の糖尿病」に分かれます。
過食や運動不足などの生活習慣を原因とする2型糖尿病とは違い、1型糖尿病は自己免疫機能が過剰な反応をおこし、膵臓のβ細胞(インスリン生成細胞)が破壊されてインスリンの欠乏が生じることによって引きおこされます。
そのため1型糖尿病は、2型糖尿病のように生活習慣を改めるなどの明確な予防手段を取ることはできません。
発症した場合は生命維持のために生涯にわたるインスリン注射による治療が必要になります。
1型糖尿病の特徴は発症者の多くが小児期を含めた若年者であることです。
日本では年間に10万人中約1.5〜2.5人の若者が1型糖尿病を発症しています。これは1型糖尿病患者が多い北欧諸国に比べると圧倒的に少ない数値です。
また、全世界的にみると糖尿病患者さんの総数のうち約5%が1型糖尿病であるとされています。
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1型糖尿病の症状
糖尿病の症状は、喉が異常に渇く、頻尿、体重の減少、疲れが取れない、意識が遠のく、などが挙げられます。
1型糖尿病ではこれらの症状が急激にあらわれることが多いです。
発症時にはその多くが進行性のものであり、発症や進展の状況による違いから急性発症1型糖尿病、劇症1型糖尿病、緩徐進行(かんじょしんこう)1型糖尿病の三種類に分類されます。
その中でも急性発症1型糖尿病が最も頻発する典型的なタイプとして知られています。
急性発症1型糖尿病
高血糖の症状が出現してから、生きていくためには、一般的に三ヵ月以内にインスリン注射が必要な「インスリン依存状態」になります。
気づくのが遅れると、生命に関わる糖尿病ケトアシドーシスという急性の危険な合併症をおこす可能性があります。
血液検査では抗GAD抗体などの自己抗体が陽性になることがよくみられます。
劇症1型糖尿病
発症が特に急激なのがこのタイプです。
発熱など風邪のような症状の後、発症して血糖値が上昇することが多く、1週間程度でインスリン依存状態になります。
このタイプは対応が遅れると糖尿病ケトアシドーシスをおこし、生命に関わる危険な状態となるため、迅速な診断と早急な措置が必要です。
緩徐進行(かんじょしんこう)1型糖尿病
発症直後は食事療法などでも血糖コントロールが可能なことも多いですが、自身で分泌するインスリンは緩やかに枯渇していきます。
当初は2型糖尿病と診断され、時間経過と共に実は1型に罹患していたことが判明するケースもあります。
このタイプでは診断された場合は内服薬ではなく、インスリン治療により膵臓に負担をかけないことが望まれます。
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1型糖尿病の診療科目・検査方法
小児~25歳以下で、数日から数週間のうちに頻度の高い喉の渇きによる多飲、頻尿といった症状を感じた場合は、ただちに内科、できれば糖尿病専門医を受診します。
小児や若年者に多い病気ですが、あらゆる年齢で発症する可能性があります。
また生活習慣が発症に関係し肥満気味の人に発症することの多い2型糖尿病に比べ、痩せている人に罹患率が高い傾向があることから、年齢や体型、健康状態の良し悪しに関わらず、定期的な血液検査や尿検査をおこなうことは、1型糖尿病の早期発見に有効です。
通常の糖尿病検査でおこなう血糖やHbA1cなどの血液検査に加え、以下の検査をおこない1型糖尿病を診断します。
抗GAD抗体検査
インスリンの生成をおこなう膵臓のβ細胞に対して攻撃を加えている自らの細胞を抗GAD抗体(抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体)といいます。
1型糖尿病の原因とされる自己免疫反応を引きおこすため、採血によって有無を調べます。
Cペプチド検査
採血と採尿から膵臓のインスリンの生成具合を確認します。
Cペプチドはインスリンの生成途中にできる物質で、これを測定することで膵臓がインスリン依存状態か否か確認できます。
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1型糖尿病の原因
膵臓内でインスリンを生成し供給する役割を果たすβ細胞が自己抗体の攻撃によって崩壊してしまい、インスリン生成機能がほとんど機能しなくなります。
これにより血糖が適切に処理されず、急激に増えていくことが発症原因とされています。
なぜβ細胞を抗体が攻撃し破壊するかについての原因ははっきりわかっていません。
自己免疫が関与しており、免疫反応が誤って働くことでβ細胞を破壊してしまうと考えられています。
1型糖尿病の予防・治療方法・治療期間
1型糖尿病の治療は基本的にインスリン療法をおこないます。
特にCペプチド検査などで「インスリン依存状態」と判断される場合は、生命維持のためインスリンの注射が不可欠な状態となっています。
検査結果が「非インスリン依存状態」の場合であっても、ゆっくりと自分で作れるインスリンは枯渇傾向になっていきます。
そのため膵臓に負担のかかる内服薬による治療からインスリン療法へと切り替えることが多いです。
「インスリン依存状態」の1型糖尿病になると、生命維持のために生涯にわたって血糖値に留意しながら毎日数回のインスリン注射(もしくはインスリンポンプ)が必要となります。
膵臓移植や膵島移植(インスリンを作る細胞の塊)などの治療法について研究が進められている段階であり、容易に選択できる治療法にまではなっていません。
1型糖尿病の治療経過(合併症・後遺症)
コントロールがうまくいかない状態が続くと、網膜症、腎症、神経障害、心臓や脳血管障害といった合併症のリスクが高まります。
そのため病気を理解し、うまく付き合っていくことが大切です。
基本的に1型糖尿病に対し食事制限は必要ではありません。
食事や運動量に応じた適切なインスリン投与をおこなうことが重要です。
血糖の上昇は、炭水化物によるところが多いため、近年は食事の中の炭水化物量に応じてインスリンを調整するカーボカウントの手法を用いたりすることで、より自己管理もしやすくなってきています。
罹患者が子どもの場合は、学校関係者と家族の連携やサポートは必要になりますが、他の子どもと同様に生活し、体育の授業や課外活動に汗を流すこともできます。
血糖コントロールが患者さんの心理面に左右されることも多く、周囲のサポートも自立するまでは治療の上で非常に重要となります。
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1型糖尿病になりやすい年齢や性別
0~14歳の日本人における1型糖尿病の1年間の平均発症率は10万人中1.5~2.5人と、欧州諸国に比べて圧倒的に低いです。
2017年の厚生労働省研究班の調査結果では1型糖尿病の疑いで医療機関を受診した患者数は全国で約 11 万 5 千人でした。
男女別では男性が5万1千人、女性が6万4千人と推察されており、どちらかというと女性に多くみられます。
実際に1型糖尿病に罹患した人の割合は日本の全人口の約 0.09%で、これは人口 10 万人あたり約 90 人となります。
また年代については思春期ごろにピークがあります。
小児慢性特定疾患治療研究事業により2005~2012 年度に登録された15 歳未満の有病者数は2,326 人(人口 10 万人あたり 13.5 人)でした。
このうち56%は女児です。
この調査結果でも日本の1型糖尿病の発症はどちらかというと若年層の女児に多くみられることを示している。
執筆・監修ドクター
経歴2006年3月 北里大学医学部卒業
2008年4月 北里大学内分泌代謝内科学入局
(平塚共済病院、川崎市立井田病院などへ出向)
2011年4月 北里大学病院 内分泌代謝内科 助教
2014年4月 北里大学医学部 内分泌代謝内科学 助教
2016年4月 山岸クリニック相模大野 開院
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