じゅうにしちょうかいよう十二指腸潰瘍
十二指腸潰瘍とは?
十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)は、十二指腸に何らかの原因でえぐられてキズやただれた潰瘍と呼ばれる組織が生じている状態です。
十二指腸は胃と小腸をつないでおり、腹部の右上あたりに位置しています。
キリキリとした胃痛や腹痛をおこすタイプが多く、空腹時に起こりやすいことも特徴です。
眠っているときに痛みを感じることもあり、ストレスで不眠に陥ることもあります。
病状が進行すると、潰瘍から出血し、吐血や下血を起こし、命に関わる可能性もあるので、症状がある際は早めの受診が推奨されます。
また、吐き気や嘔吐を繰り返す場合も注意が必要です。
発症の原因の一つにヘリコバクター・ピロリ菌の感染があることが分かっています。
十二指腸潰瘍の症状
十二指腸潰瘍の主な症状は、上腹部(みぞおち付近)のキリキリした痛みや重苦しい感じ、吐き気、嘔吐などです。
嘔吐物がコーヒーのような茶色(吐血)であることや、茶色もしくは黒色のタール状の便(下血)がでることもあります。
胃潰瘍は食後に痛みが生じることが多いのに対して、十二指腸潰瘍は空腹時に痛みを感じることが多いです。
食事をとると胃酸が薄まるため、痛みが軽くなることがしばしばみられます。
また、人によって痛みを感じずに出血があって気づくこともあります。出血が多量の場合は、ただちに胃内視鏡検査を行い、患部の発見と状態によって輸血を行います。
さらに十二指腸潰瘍が進行すると、十二指腸穿孔(じゅうにしちょうせんこう)を発症する可能性が高まります。
穿孔とは、粘膜に穴があき、激しい痛みと内容物が腹膜へ漏れ出せば腹膜炎を引き起こす状態を指します。
痛みの具合は、突然の上腹部痛から腹部全体の激しい痛みへ変わっていくケースが多くあります。加えて胸やけや吐き気、食欲不振、膨満感も現れます。
潰瘍が治る過程で構造に変形が起きると胃から十二指腸へ食物が移動する場所が狭くなる(幽門狭窄)ことがあり、それに伴って食べ物が通りにくくなり、食欲不振や吐き気、嘔吐、体重の減少なども起きる可能性が考えられています。
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十二指腸潰瘍の診療科目・検査方法
診療科目
主な受診科目は消化器内科、消化器外科、胃腸内科、胃腸外科です。
最初の時点で内科を受診した場合は、消化器内科、消化器外科、胃腸内科、胃腸外科に紹介されることもあります
吐血や下血をしていると考えられるときは、速やかな治療を行う必要があります。
強い痛み、貧血や血圧の低下、頻脈、冷や汗などがあらわれている際も受診が必要です。
検査内容
考えられる病名を絞る目的と、他の疾患の可能性を除外する目的で検査を行います。
すでに症状がある場合は、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)、上部消化管造影検査(バリウム検査)で胃と十二指腸の状態を確認します。
上部消化管内視鏡検査の所要時間はおよそ5~15分間で、直接患部を見ることができ、疾患の特定がしやすいという利点があります。
また、患部から出血している場合は止血処置をその場で施すことが可能です。
なお、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているか調べるため、内視鏡検査中に組織の一部を採取する方法と血液、尿、便を調べる検査、呼気を利用した尿素呼気試験を利用することがあります。
これらの検査方法のうち、2つ以上で確認することが推奨されています。
他に、同じような症状が生じる疾患を除外するために、腹部レントゲン検査、超音波検査(エコー検査)を行うこともあります。
十二指腸潰瘍の原因
十二指腸潰瘍の主な原因は、ストレスや食生活の乱れ、薬によるもの、ヘリコバクター・ピロリ菌によるものだといわれています。
災害や仕事などのストレスにより潰瘍ができる可能性があります。最近では受験勉強などのストレスで学生にもおこることが知られています。
また、アルコールの過剰摂取やコーヒー等のカフェインの多量摂取、タバコ、不規則な生活による過労や睡眠不足、欧米化した食物繊維が少なく脂肪分の多い食生活、香辛料を多く使った料理を多く食べるなど、いずれも胃液の分泌量と胃を守る粘液の分泌量のバランスを崩す行為で、十二指腸潰瘍の原因となり得ます。
近年では、薬剤性の要因も考えられており、常用的に薬を服用している人は特に注意が必要です。
例えば、慢性的な関節の痛みや腰痛などに使用される抗炎症薬(主にNSAIDs)、鎮痛薬、抗アレルギー薬は影響があると考えられ、長期間服用する場合は医師との相談をすることが望ましいです。
その他、せき止めの薬や解熱薬といった市販薬も同じく潰瘍の原因になり得ます。
ピロリ菌についても胃・十二指腸潰瘍の原因に大きく関わっており、多くの細菌は胃酸により死滅しますが、ピロリ菌はアンモニアを出して酸性の胃酸を中和して生き延びてしまいます。
その際に生成されたアンモニアによって粘膜を傷つけます。
日本消化器病学会の消化性潰瘍ガイドブックによれば、日本ではピロリ菌による十二指腸潰瘍の発症率は、全体の約95%とされています。
したがって、ピロリ菌を除菌することで潰瘍の再発率を低下させることが可能です。
十二指腸潰瘍の予防・治療方法・治療期間
主な治療法として、潰瘍の原因である胃酸の分泌を抑制する薬(プロトンポンプ阻害薬)を内服します。
出血している場合は上部消化管内視鏡検査で止血処理を行います。
ピロリ菌検査で感染が確認されれば、除菌治療を実施します。
除菌治療の経過でピロリ菌の除菌に成功した場合は、症状が改善するまで薬物治療を行い、除菌に失敗した場合は、二次、三次除菌治療へと移します。
治療期間はプロトンポンプ阻害薬を投与して6週間ほどで終了します(初期治療)。
その後、再発を防ぐために粘液を強化する薬を服用し、経過を観察します。(維持療法)
十二指腸潰瘍の治療経過(合併症・後遺症)
原因菌であるピロリ菌の除去に成功すれば、再発はほとんどなく、予後は良好です。
他に考えられる再発の原因は、アスピリンやNSAIDsなどの服用を続けている場合です。
NSAIDsの服用をしていない場合の再発率は1.5%で、一方前者と比べて喫煙や飲酒、NSAIDsの服用者は再発する可能性が高くなります。
十二指腸潰瘍が悪化し、穿孔や腹膜炎に発展した場合は、発症から治療までに取り掛かった時間で予後の状態が決まります。
死亡例は発症から24時間以内に治療で109例中2例、24時間以上経過で7例中4例となり、治療が遅くなるほど予後は悪くなります。
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十二指腸潰瘍になりやすい年齢や性別
十二指腸潰瘍の罹患者数は、厚生労働省の調査によると昭和59年の約45万人から平成26年には、約4.4万人まで減少している。
理由としては、ピロリ菌の除菌治療が進み、感染者が減少しているからだと考えられる。
一方で、薬物による高齢者の十二指腸潰瘍を発症する割合は増加傾向にある。
男女比で見ると、十二指腸潰瘍は男性3:女性1の割合で男性が多く、10代後半から30代が発症しやすい。
また、遺伝的要素も考えられ、50~60%の患者に家族歴があるといわれる。
執筆・監修ドクター
経歴2003年 福岡大学医学部卒業
広島大学医学部第一外科
2004年 牧港中央病院心臓血管外科
2006年 マツダ病院外科
2009年 JA広島総合病院外科
2012年 東葛辻仲病院大腸肛門外科
2016年 東葛辻仲病院、新宿外科クリニック非常勤
2017年 とうげ外科胃腸科医院 副院長
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