痔と間違えやすい!肛門がんの初期症状とは?治療や検査法について
『肛門がん』は比較的珍しいがんです。
早期に発見し、治療を始めれば根治の可能性も高まりますが、痔だと思い込み、医療機関の受診が遅れてしまうケースも多いです。
この記事では、『肛門がん』の症状や検査法、治療法について解説します。
肛門がんとは
1.肛門がんって?
肛門の入り口に近い「肛門管」の細胞にできるがん
『肛門がん』は、肛門の入り口から約3cmのところにある、『肛門管』内の細胞に発生するがんの総称です。女性の方がかかりやすく、患者数は男性の約2倍です。
肛門がんの多くが、「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」
肛門がんの多くが、肛門の皮膚から発生する『扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん』です。
肛門上皮は、ほかの体の皮膚と同じように、『偏平上皮組織』によって覆われています。扁平上皮組織とは、皮膚や口腔、食道、血管の内皮などに存在し、栄養分の交換や保護をおこなう組織です。
そのため、肛門がんは、消化器がんというより皮膚がんに近い、といわれることもあります。
2.肛門がんにかかる原因や、かかりやすい人
肛門がんの原因は、未だはっきりと解明されていません。
しかし、一部の『肛門上皮内がん』や『扁平上皮がん』は、『ヒトパピローマウイルス』というウイルスが感染することで発生することが分かっています。
そのほか、肛門がんにかかる可能性が高くなると言われているのは、次のような人です。
・年齢が50歳以上
・『HIV(ヒト免疫不全ウイルス)』をもっている人
・男性の同性愛者(肛門性交の受け手側)
・長期間にわたって痔ろうにかかっている人
・尖圭コンジローマが重症化している人
・肛門にほくろやイボがある
・子宮頸部や膀胱等のがんに対する放射線治療を受けたことのある人
・喫煙者
性感染症の『尖圭コンジローマ』や、痔の一種である『痔ろう』の一部は、肛門がんになる可能性があります。一方、肛門ポリープや切れ痔はがん化することはありません。
3.肛門がんの症状。初期は排便時の痛みやかゆみなど
肛門がんの症状は、はじめのうちは気にならないくらい軽くても、だんだんと進行していきます。
初期症状は、排便時の出血や痛み、かゆみなど
肛門がんにかかると、初期は排便時の出血や痛み、かゆみなどがみられます。
進行すると、肛門周辺のしこり、膿や粘液の分泌などがみられる
進行するにしたがって、肛門周辺のしこりやかゆみが継続する、便が細くなる、便通異常、肛門から膿や粘液などが分泌される、といった症状があらわれます。
こうした症状がみられず、そけい部のリンパが腫れることも
場合によっては、こうした症状があらわれず、そけい部のリンパ節に腫れがみられることもあります。
肛門がんの検査について。何科に行く?
1.肛門外科や消化器外科へ!
肛門に異常を感じたら、『肛門外科』や『消化器外科』の受診がおすすめです。
肛門がんは、医師が直診できる部位に発生するため、早期発見のしやすいがんとも言われています。何か異常を感じたら、迷わず医療機関を受診しましょう。
2.肛門がんの検査方法
まず、肛門部にしこりなどの異常がないか調べる
はじめに肛門部を診察します。
肛門管内の病気の場合、『指診』という方法で診察することが多いです。視診では、医師や看護師が手袋をつけ、直接肛門から指を挿入して、しこりなど異常がないかを調べます。
肛門がんの可能性があれば、組織を採取して調べる
肛門部の診察によって、痔や湿疹などとは異なる異常がみられ、肛門がんの可能性がある場合は、組織の一部を採取して調べる『生検』をおこないます。生検では、顕微鏡を用いて組織について調べ、診断を確定します。
内視鏡やCT、MRIを使った検査がおこなわれることも
また、そのほか『大腸内視鏡検査』や『便潜血検査』がおこなわれることもあります。
がんがの広がりや転移を調べるさいは、『CT』や『MRI』、『肛門管超音波検査』などをおこないます。
肛門がんの治療法
1.外科手術
手術は、『局所切除』や『腹会陰式(ふくえいんしき)切除術』、『直腸切断術』がおこなわれます。摘出手術には入院が必要で、一般的に10日~2週間ほどです。
局所切除
肛門の腫瘍を、周囲の健常な組織の一部とともに切除します。
がんが小さく、広範囲でない場合におこなう手術です。また、早期の場合は次に解説する『放射線療法』もあわせておこなうこともあります。
腹会陰式(ふくえいんしき)切除術
腹部を切開して、肛門と直腸、S字結腸の一部を摘出します。さらに、がんのあるリンパ節の摘出もおこないます。
直腸切断術
肛門を切除して、人工肛門に置き換える手術です。おもに、進行性の肛門がんの場合に適用されます。
2.放射線治療
放射線治療は、『高エネルギーX線』などの放射線を使用し、がん細胞の死滅や、増殖の阻止をはかる治療法です。肛門がんの中で最も多い、扁平上皮がんの場合は、放射線を用いて治療することがほとんどです。
外照射療法
体外に設置した装置を使用して、がんに放射線を照射します。
内照射療法
針やカテーテルの中に放射線物質を入れ、がん細胞の内部や、がん細胞の周辺に直に照射する方法です。
放射線治療後は「生検」をおこなう
放射線照射後、生検をおこない、がん細胞が消滅していれば、治療を完了します。がん細胞が残っていれば、ふたたび放射線治療をおこないます。
3.化学療法
化学療法は、薬を使用します。薬によりがん細胞を死滅させたり、細胞分裂を妨害したりして、がんの増殖をおさえる治療法です。
経口や注射によって投与される
経口投与や、静脈、筋肉への注射によっておこなわれます。投与された薬は、血の流れにのって全身のがん細胞へと到達します。
化学療法の副作用
副作用としては、『口内炎』、『腹痛』、『下痢』、『脱毛』、『吐き気』、『食欲不振』、『全身倦怠感』などが挙げられます。そうはいっても、近年は薬も進歩しており、重篤な副作用も減ってきています。それとともに、治療の効果がさらに期待できるようになってきています。
肛門がんの転移や再発の可能性について
1.肛門がんは、リンパ節への転移が多い
リンパ節に腫れや痛み、張りがあったら要注意!
肛門がんは、直腸近くのリンパ節に転移しやすいです。特に、リンパ節に腫れや痛み、張り感などがあるときは、注意する必要があります。
手術後のリンパ節への転移率は50%
手術によって、病床を摘出しても、術後のリンパ節への転移率は約50%と非常に高いです。
リンパ節に転移すると、尿道や膀胱、膣など、近くの臓器へも転移する可能性が高まります。さらに進行すると、遠くの臓器まで転移が広がることもあります。
2.肛門がんの再発と生存率
肛門がんの術後再発率は、およそ20~30%です。一部の箇所に再発する『局所再発がん』であるケースが多いです。
肛門がんが治癒した場合の5年生存率は、70%強です。
3.肛門がんの予防法
禁煙する!
肛門がんの予防として、喫煙しているようであれば禁煙しましょう。喫煙は、肛門がんに限らずがんになる可能性を高めます。
HIV、HPVウイルスの感染に注意
また、『HIV』や『HPV』ウイルスも、肛門がんを引き起こすことがあります。感染には注意しましょう。
わさびががん細胞の増殖を抑える!?
さらに、肛門がんの予防として『わさび』が注目されています。
私たちの体の中には、解毒作用をもつ『グルタチオンS-トランスフェラーゼ』という酵素があります。
グルタチオンS-トランスフェラーゼには、がん細胞の増殖を抑制し、転移を防ぐ効果が期待されています。わさびには、この酵素を活性化させる『ワサビスルフィニル16-メチルスルフィニル』という物質が含まれています。
まとめ
肛門の異常を相談するのは抵抗がある…という人もいらっしゃるかもしれません。
しかし、もし肛門がんであれば、早期発見・早期治療が非常に重要です。気になる症状があれば、医療機関を受診しましょう。
それから、肛門部を洗浄するときには、痛みやかゆみ、しこりなどがないか自分で確認することも大切です。さらに、定期的に健診を受けるようにすると良いですね。
執筆・監修ドクター
経歴1996年 埼玉医科大学卒業
1997年 埼玉医科大学第一外科入(一般外科、呼吸器外科、心臓血管外科)終了
1999年 戸田中央総合病院心臓血管外科医として就職
2000年 埼玉医科大学心臓血管外科就職
2006年-2012年3月 公立昭和病院心臓血管外科就職
2012年4月 岡村医院、医師として勤務
2012年7月 岡村クリニック開院
関連コラム
「痔と間違えやすい!肛門がんの初期症状とは?治療や検査法について」以外の病気に関するコラムを探したい方はこちら。
関連する病気
「痔と間違えやすい!肛門がんの初期症状とは?治療や検査法について」に関する病気の情報を探したい方はこちら。