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ししゅうびょう歯周病

更新日:2022/08/16 公開日:2019/02/08 view数:7,384

歯周病は、「歯肉病変」と「歯周炎」の総称です。
歯肉病変と歯周炎の違いは、次のとおりです。

歯肉病変

歯肉は「歯茎」です。歯肉病変は、歯茎だけに問題がおきている状態を指します。歯肉病変には、大きくわけて「プラーク性歯肉炎」「非プラーク性歯肉病変」「歯肉増殖」の3種類があります。

歯周炎

歯周炎は、歯茎だけでなく「歯周組織」に問題がおきた状態です。
歯茎のほか、セメント質(※1)、歯根膜(しこんまく:※2)、歯槽骨(しそうこつ:※3)を含みます。

炎症・損傷が歯周組織にまで及ぶ歯周炎のほうが歯肉病変よりも深刻な状態です。
歯肉病変は歯茎だけの問題ですが、歯周炎では歯を支える骨である歯槽骨までダメージを受けています。
歯槽骨のダメージが甚大(じんだい)なら、歯を失うリスクが出てきます。

歯肉病変・歯周炎にもさまざまな種類が存在し、原因・特徴ごとに、細かく区分されています。治療するには「歯科」または「歯科口腔外科(しかこうくうげか)」を受診する必要があります。

目次
  1. 歯周病の症状
  2. 歯周病の診療科目・検査方法
  3. 歯周病の原因
  4. 歯周病の予防・治療方法・治療期間
  5. 歯周病の治療経過(合併症・後遺症)
  6. 歯周病になりやすい年齢や性別
  7. 編集部脚注

歯周病の症状

歯周病にはさまざまな種類がありますが、ほとんどは「慢性歯周炎」です。
また、罹患率は低いですが、若いうちに罹患し、急速に進行する歯周病である侵襲性歯周炎も注意を要する歯周疾患です。

そのほか、歯周病の初期段階に見られる「プラーク性歯肉炎」、物理的損傷が影響する「咬合性外傷」が、比較的よく見られる歯周疾患です。

「プラーク性歯肉炎」「慢性歯周炎」「侵襲性歯周炎」「咬合性外傷」の4病型の症状を先に解説します。

プラーク性歯肉炎

一般的に「歯肉炎」と表現した場合、プラーク性歯肉炎を指しています。
実際、歯肉病変の大部分はプラーク性歯肉炎です。

歯肉炎の場合、炎症がおきているのは歯茎だけになります。
この段階ならば、歯周組織までは及んでいません。

主な症状は、次のとおり。

・歯茎が赤くなる
・歯茎が腫れる
・出血
・痛み

歯周組織には損傷がないので、X線(レントゲン)による画像診断では異常が見られません。
歯槽骨などに影響が出ていないためです。
また、歯と歯茎の密着が失われることもなく、「歯周ポケット(歯と歯茎の隙間)」の形成もおきていません。

「歯と歯茎が離れること」を「アタッチメントロス」と呼びます。
そのため、「歯肉炎の段階ではアタッチメントロスが見られない」と表現することがあります。

歯肉炎の段階なら、プラークコントロールに力を入れるだけでも明確に改善します。
放置すると高確率で慢性歯周炎になるので、早いうちに口腔内の衛生管理を見直します。
「ブラッシング方法の改善」「デンタルフロスの使用」などが推奨されます。

慢性歯周炎

慢性歯周炎は、歯肉炎の炎症が歯周組織に及んだ状態です。
歯茎だけでなく、セメント質、歯根膜、歯槽骨にまで影響が出てきます。

歯周炎の段階になると「歯と歯茎の密着」が失われていき、歯周ポケットが形成されます。
歯周炎が進行するほど、歯周ポケットは深くなります。そのため、「歯周ポケットの深さ」で歯周病の進行度を知ることが可能です。歯肉のもともとの形態にもよりけりですが、歯周ポケットが4mm未満でも軽度歯周炎はありえます。

歯周ポケットが2~4mmであれば、軽度歯周炎です。軽度歯周炎では自覚症状が乏しいですが、以下のような症状に気づくことがあります。

・歯茎が赤くなり、わずかに腫れている
・歯磨きのとき、歯茎から出血がある
・冷たい飲み物を口にすると、しみる場合がある

軽度歯周病では、歯茎がわずかに赤くなる程度です。歯磨きの出血も微量で、少なくとも明確な痛みはありません。
そのため、軽度歯周病の段階で「自分は歯周病だ」と気づく人はほとんどいません。
基本的に歯科医院の定期健診で発見されます。

歯周ポケットが4~6mmになると、中等度歯周病となります。
中等度まで進行すると、自覚症状が目立ちます。

・歯茎が赤黒く腫れる
・歯磨きのとき、歯茎からの出血量が増える
・歯磨きのとき、歯茎に痛みが出る
・歯茎が痩せて、歯が長くなったように見える
・冷たいものが接触すると、歯の根元が痛む
・口臭が出てくる

中等度歯周病になると、歯磨きのときの出血量が増加します。
歯磨き粉の泡を吐き出したとき、真っ赤に染まっていることもあるため、多くの人が「歯茎に何か問題がある」と気づきます。

ただし、痛みが出るのは、歯ブラシで歯の根元を磨いた時程度であり、まったく痛みを感じない人もいます。
そのため、この段階で歯科医院を受診する人もあまり多くはありません。

歯周ポケットの深さが6mmを超えると、重度歯周病となります。
別名で歯槽膿漏(しそうのうろう)と呼ばれることもあります。

・歯茎が赤黒く腫れあがり、ぶよぶよした質感になる
・何もしていなくても、歯茎からの出血がある
・歯茎から膿(うみ)が出ることがある
・歯茎が大きく後退して、歯の根元が露出する
・歯がグラグラと揺れて、食べ物を噛みにくくなる
・口臭が悪化する

重度歯周病になると、歯茎から血・膿が出るようになります。
歯がグラグラと揺れはじめるので、「このままでは歯が抜ける」という実感が強くなります。
多くの人が、この段階でようやく歯科医院を訪れますが歯を保存できない例も多いです。

侵襲性歯周炎

侵襲性歯周炎は、「若い年代で発症し、急速に進行する歯周病」です。
一般的には10~30代で発症し、慢性歯周炎より急速に進行します。

前歯と第一大臼歯に発生することが多く、適切な処置をしないと早いうちに歯を失う恐れがあります。

歯槽骨の2/3(66.6%)を失った場合、歯の保存が難しい重度歯周病です。慢性歯周炎は10年、20年という長期的なスパンで進行しますが、侵襲性歯周炎の場合、わずか4年で歯を保存できるかどうかの瀬戸際を迎え、5年目には歯を失う恐れがあるとされています。

咬合性外傷(こうごうせいがいしょう)

物理的な力によって歯や歯周組織が損傷することを「咬合性外傷」と呼びます。
無理な力が加わったことにより、歯はもちろん、歯根膜や歯槽骨にまで損傷が生じます。
咬合性外傷の主な症状には、次のようなものが存在します。

・噛んだ拍子に、歯が痛む(単純性歯根膜炎)
・歯の摩耗 / 知覚過敏
・歯の破折
・詰め物 / かぶせ物の脱落
・歯周病の進行 / 悪化

非プラーク性歯肉病変

非プラーク性歯肉病変は、「プラークが関与していない歯肉病変」です。炎症の原因が細菌であっても、原因菌がプラーク(歯垢)に含まれる細菌ではない場合、非プラーク性歯肉病変です。

・病原体(プラーク細菌以外)による歯肉病変
・粘膜皮膚病変

・アレルギー反応

などによります。

粘膜皮膚病変では白・赤の病変がレース状に広がる難治性の「扁平苔癬(へんぺいたいせん)」が歯肉にでき、えぐれて潰瘍になることがあります。ほかにも口内粘膜に水泡が生じる「尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう)」などがあります。

歯肉増殖での症状

歯茎が過形成(かけいせい)をおこして、肥大します。

・炎症性歯肉肥大

肥大した部分は柔らかく、痛みを伴う傾向があります。
外見的には赤く腫れ、少しの刺激で簡単に出血すします。
プラークコントロールを改善し、歯茎に刺激を与えないようにしていれば、次第に改善します。

・薬物性歯肉肥大

薬剤の副作用として歯肉増殖がおきた場合、肥大した部分は硬く、痛みはありません。
外見的には薄いピンク色をしていて、出血は見られません。軽度~中等度では「歯茎がやや盛りあがる程度」ですが、重症例では「歯茎が歯を覆い隠す状態」になる場合もあります。

・遺伝性歯肉線維腫症

遺伝的要因で歯肉増殖がおきている場合、肥大した箇所は硬く、痛みを感じることはありません。薄いピンク色で出血はなく、ゆっくりと肥大していきます。
多くは、幼児のころに発症しますが、成人になるまで気づかれない例も存在すします。

全体の歯肉が増殖する症例もあれば、一部だけが増殖する例もあります。
増殖の程度もさまざまで、歯が完全に埋もれるほど肥大する人もいます。
たいていは、外科的に歯肉を切除する必要があります。
再び肥大してくることも多く、その場合は繰り返しの歯肉切除を要します。

・全身的要因

代表例の「妊娠性エプーリス」は妊娠中、歯茎の一部が大きく盛りあがる症状のことです。ほとんどの場合、妊娠性エプーリスは出産後に自然治癒します。

壊死性歯周疾患

壊死性歯周疾患では次のような症状が見られます。

・歯茎が赤く腫れる
・歯と歯の間にある歯茎(歯肉乳頭:しにくにゅうとう)に潰瘍(かいよう)
・歯茎の表面に灰色の膜ができる(偽膜形成)
・突然、強くなる口臭
・唾液の過剰分泌

軽症であれば5日程度で軽快しますが、重症例では炎症が周辺に拡大します。
その場合、「扁桃腺の腫れ」「頭痛」「発熱」「倦怠感」などの症状を伴います。

壊死性歯周疾患のうち、歯肉の炎症・壊死にとどまるものを「壊死性潰瘍性歯肉炎」、歯周組織の損傷を伴うものを「壊死性潰瘍性歯周炎」と呼びます。

膿瘍(のうよう)

膿瘍は、組織内に膿が溜まった状態です。
持続的な炎症により、内部に空洞ができて膿が溜まります。
歯茎だけにとどまる場合を「歯肉膿瘍」、歯周ポケット内に及んでいる状態を「歯周膿瘍」と呼びます。

・歯肉膿瘍

「歯茎の外傷」「隣接する歯周ポケットからの細菌感染」などが原因で、歯茎に膿瘍ができます。多くの場合、炎症部位の周囲が赤くなり、腫れ・痛みが生じます。
あくまで歯茎の炎症が悪化したものなので、「健全な歯周組織(歯周ポケットができていない場所)」の周囲にも発生します。
「慢性歯周炎が進行しているかどうか」と歯肉膿瘍の発生率は比例しません。

・歯周膿瘍

「歯周ポケット内に異物が入りこむ」「歯周ポケットの奥深くが細菌に感染する」などの理由で、化膿性の炎症をおこします。
炎症の結果、歯周ポケットの入口が塞がった(狭まった)場合は、歯周ポケット内に炎症性の膿が溜まり、急速に膿瘍が形成されます。

歯周膿瘍の場合、違和感が出てから1日以内に膿瘍が形成され、痛み、腫れなどの症状が強くあらわれます。放置していると、急激に歯周組織が破壊されて、歯の寿命を著しく縮めます。
歯槽骨の喪失はきわめて速く、1~2日のうちに、(X線写真でわかるほど)大量の歯槽骨が失われます。

歯周および歯内病変

歯髄(しずい:いわゆる歯の神経のこと)は歯の内側であり、歯周組織は歯の外側のことです。
歯で隔てられてはいるが、両者はすぐ近くに存在します。
そのため、「根尖孔(こんせんこう:歯の根元から歯槽骨につながる細い管)」などを通じて、相互に影響を及ぼします。

歯髄が細菌感染した状態を「歯髄炎」と言いますが、歯髄炎をおこした歯に根尖孔があれば、細菌は歯周ポケットに出てきます。
逆に、歯周ポケットの細菌が根尖孔を通って、歯の内側に入ることもあり得ます。
歯周組織と歯内が相互に影響して生じた病変を「歯周-歯内病変」と呼びます。

歯肉退縮(しにくたいしゅく)

歯茎が痩せて後退します。
年齢を重ねることで、健康な人でも多少の後退が見られますが、過度に退縮すると歯の根元部分に虫歯ができる「歯根齲蝕(しこんうしょく)」や歯の象牙質が表面に露出することで冷たいものや甘いものがしみる「象牙質知覚過敏(ぞうげしつちかくかびん)」などが生じます。

歯周病の診療科目・検査方法

「歯茎が腫れる」「歯がグラグラする」などの理由で医療機関を受診するなら、「歯科」または「歯科口腔外科(しかこうくうげか)」を受診します。

歯科は「虫歯と歯周病を主軸とする診療科目」であり、歯科口腔外科は「複雑な抜歯、口腔内の外科手術に対応する診療科目」です。
ただし、「歯科・歯科口腔外科」と両方を掲げている歯科医院もたくさんあります。歯科口腔外科は「口腔内の外科的治療」を実施します。

診断方法

歯周病の診断は、検査によっておこないます。
歯周病の有無・程度を確かめる検査を「歯周組織検査」と呼びます。
健康保険の規定により、「歯周基本検査」と「歯周精密検査」にわかれています。
検査方法によって、保険点数(要するに金額)が異なるためです。

1.歯周基本検査

歯周基本検査では、以下の項目に従って検査をおこないます。

歯周ポケットの深さ(プロービングデプス)

歯周ポケットに「プローブ」と呼ばれる細い金属製の棒状の器具を差しこんで、深さを測ります。
プローブに25gの圧力をかけて差しこみ、止まったところを「歯周ポケットの底」と扱います。プローブを差しこむことを「プロービング」と呼びます。
歯周基本検査では、1本の歯に対して、1箇所をプロービングします。

歯肉の炎症

炎症の有無・程度を確認します。
基本的には「プロービングのときに出血するかどうか」を判断基準にしています。
そのほか、歯科医師が歯肉の見た目から、炎症の有無・程度を判断します。

歯の動揺度

正式には「歯がグラグラすること」を「歯が動揺する」と表現します。
歯周病が進行すると歯が動揺して抜け落ちることもあるので、動揺の有無・程度を確認します。
「ミラーの分類」と呼ばれる方法で動揺度を評価するのが一般的です。

歯の動揺度評価(ミラーの分類)
0度 歯に力を加えたとき、0.2mm以内の動揺。(生理的動揺)
1度 頬舌的(きょうぜつてき)に0.2~1mmの動揺。
2度 頬舌的に1~2mm、遠近心的(えんきんしんてき)に0.2~1mmの動揺。
3度 頬舌的or遠近心的に2mm~、あるいは垂直方向に動揺。

頬舌的というのは、奥歯なら「頬側(ほほがわ)⇔舌側」、前歯なら「唇側⇔舌側」の方向を指します。
「前歯が前後に揺れる」などの状況であれば、「頬舌的に動揺している」と表現します。近遠心的というのは、隣の歯の方向です。
「前歯が左右に揺れる」などの状況ならば、「遠近心的に動揺している」と表現します。

2.歯周精密検査

歯周精密検査では、次の項目に従って検査を進めます。

歯周ポケットの深さ(プロービングデプス)

プロービングにより、歯周ポケットの深さを計測します。
歯周基本検査では「歯1本あたり1箇所を計測」ですが、歯周精密検査では歯1本につき4箇所のポケットを測定します。
プロービングの際、25gの圧力をかける方法などは、基本検査と同様です。。

歯肉の炎症

基本的な方法は基本検査と同様です。

歯の動揺度

方法・判断基準は基本検査と変わりません。

プラーク付着度

歯周病の原因は、プラークに含まれる細菌です。
そこで、「どの程度、歯にプラークが付着しているか」を確認すれば、歯周病の進行状況を知ることができます。
歯のそれぞれの面を確認し、プラークの付着状態を判定・記録します。

3.画像診断

画像診断は、いわゆるレントゲン撮影です。
歯槽骨がどれくらい減少しているかを確認するときなどに、レントゲン撮影をおこないます。
歯槽骨が2/3以上失われると、歯を失うリスクが出てきます。
「歯槽骨がどれくらい残っているか」は歯周病治療における重要な情報となります。

4.細菌学的検査(自由診療)

2017年現在、健康保険の適用外だが、細菌学的検査をおこなう歯科医院も存在します。
「歯肉縁下プラーク(歯茎に隠れた部分の歯垢)」または「唾液」を採取し、「どのような細菌が含まれているか」を確認します。

細菌の種類を特定するには、採取したプラークを検査会社に送る「PCR法」が適しています。
プラーク内に潜んでいる歯周病菌の種類・比率を調べることができます。
歯周病菌の種類を特定することは、治療方針を立てる上で有効です。

歯周病の原因

プラーク性歯肉炎

プラーク性歯肉炎の原因は、プラーク(歯垢)の中にいる細菌です。
衛生管理が不十分だと、「歯の表面」「歯と歯茎の境目」にプラークが付着します。
プラークは、細菌と細胞外高分子物質(EPS)で構成されています。
EPSは粘性のある物質で、細菌の棲み処に適しています。

プラークの中で、細菌はEPSに保護されており、殺菌成分などはほとんど効果がありません。
殺菌成分を含んだ洗口液でうがいをしても、プラークを除去することはできません。
EPSに守られているので、嫌気性細菌(酸素が苦手な細菌)でも問題なく生存・増殖することができます。

プラークが溜まった状態が続くと、内部に潜んでいる細菌が、起炎菌(きえんきん:炎症を引きおこす細菌)となって歯肉炎を発症します。

慢性歯周炎

慢性歯周炎は「プラーク性歯肉炎が進行・悪化した状態」です。歯茎の炎症が拡大し、歯周組織に及んでいます。

そのため、原因自体はプラーク性歯肉炎と同様です。プラークは、付着箇所によって2種類に区分されます。

歯肉縁上プラーク

歯冠(しかん:歯茎より上に出ている部分)に付着するプラークです。
虫歯の原因となる細菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)を多く含んでいますが、「歯と歯茎の境目」に付着した細菌は歯周病の原因になります。

歯肉縁下プラーク

歯肉溝(しにくこう)・歯周ポケットなど、歯根(しこん:歯茎より下に隠れている部分)に付着するプラークです。
歯茎に隠れている部分は、あまり空気に触れません。そのため、嫌気性細菌が増殖しやすいのです。
歯周病菌の大半は嫌気性細菌であり、歯肉縁下プラークの中に潜んでいます。

歯肉縁下プラークに含まれる歯周病菌は、歯周組織に炎症をおこします。
歯肉縁下プラークを完全に取り除くことは難しいため、いったん炎症をおこすと、歯肉は長期的に炎症をおこし続けます。

歯周炎で、歯周組織が破壊される理由

長期的な炎症は、組織の破壊(炎症性破壊)をもたらします。
炎症性破壊には、免疫システムが大きく関与しています。
実は、炎症自体、厳密には細菌が引きおこすものではなく、身体に備わっている免疫システムによるものです。

炎症というのは、「免疫システムが病原体を排除しようと動き、戦うための準備を整えた状態」です。たとえば、炎症反応の1つである「腫れ」は、「病原体が侵入した場所」に免疫細胞を集めたことが理由です。
「腫れているところ=戦場」ということになります。
血管内を流れていた免疫細胞(白血球)は、血管の外側に出て、病原体と戦います。
当然、血液の成分が「戦場となる部位」に集中するため、その部位は膨れあがります。
これが「腫れ」のメカニズムです。

もちろん、炎症がおきたところは一定のダメージを受けます。
そのかわり、病原体が全身に回ることは避けられます。
つまり炎症は「一部分を犠牲にする代わりに、全身への悪影響を回避するシステム」です。

ただし、炎症がおきると、「炎症がおきた部位」は損傷を受けます。
歯周病においては、これが大きな問題になります。
プラークを100%除去することは困難です。
そのため、歯周ポケットに歯周病菌が棲みつくと、いつでも歯周病菌が入りこんでくる状態になります。そうなると、免疫システムは常に迎撃態勢を整えることになり、同じ場所がずっと炎症をおこしたままになります。

その結果、特定の場所が損傷を受け続け、どんどん破壊されていくことになります。
これを「炎症性破壊」と呼びます。

炎症性破壊が進むと、「歯と歯茎の密着」が失われて、隙間が拡大します。
こうして歯周ポケットが形成されます。

歯周ポケットの中は歯ブラシの毛先が届きにくく、衛生管理が困難です。
結果、歯周ポケット内のプラークは、しばしば石灰化して固まり歯石に変わります。
歯石の表面はプラークが付着しやすいので、歯周病が進行しやすくなります。

歯周病の主な原因菌
歯周病の原因菌は、一般に「歯周病菌」と呼ばれます。
しかし、歯周病菌は特定の菌1種類を指す言葉ではありません。
そもそも、口の中には最大で700種類にも及ぶ常在菌が棲んでいると考えられています。
このうち、歯周病に関連する細菌は約300種類に及びます。

ただし、歯周病の発症・進行において、特に大きな役割を果たす細菌は数種類です。
ここでは、歯周病の発症・進行における主要な細菌を紹介します。

プロフィロモナス・ジンジバリス(p.g菌)

歯周病菌の中でも、特に代表的な種類です。
付着力が強いので、最初に歯に付着し、ほかの歯周病菌が付着するのを助けます。
歯肉縁下プラークを形成するとき、最初の原因菌となります。
また、「ジンジパイン」と呼ばれる毒素をつくる性質を持っています。

ジンジパインは、歯茎などの組織を破壊する酵素です。
さらに、LPS(リポ多糖体)という内毒素も持っています。
「炎症の程度」と「歯肉縁下プラークにおけるジンジバリス菌の比率」は比例します。

トレポネーマ・デンティコラ(t.d菌)

このような形状の細菌を「スピロヘータ」と呼んでいます。
歯周病にかかっている場所の歯肉縁下プラークから、高い確率で発見されます。
「歯肉縁下プラークにおけるデンティコラ菌の比率が高いほど、歯周病の再発率が上がる」と考える専門家もいます。
プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)をつくり出して、歯周組織にダメージを与えると考えられています。

タネレラ・フォーサイセンシス(t.f菌)

歯周組織の破壊が進行している部位で、しばしば見つかります。
トリプシン様プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を産生する性質が知られています。
ただ、生育が遅く、培養可能な条件が厳しいので、培養して研究するのがきわめて困難な細菌です。
そのため、「どのようなメカニズムで歯周病に関与するのか」に関しては明確になっていません。

プレボテラ・インターメディア(p.i菌)

進行した歯周ポケットの内部から、ジンジバリス菌と同時に発見されることがよくあります。また、インターメディア菌は、エストロゲン(卵胞ホルモン)により発育が促進する性質を持っています。
女性は妊娠すると、エストロゲンの分泌量が10~30倍に増加します。そのため、妊娠中はインターメディア菌が爆発的に増加する傾向にあります。妊娠中、歯周炎のリスクが大幅に上がりますが、主な要因はインターメディア菌の増加にあると考えられています。
さらに、インターメディア菌が持っている内毒素は、早産・低体重児出産を誘発することがわかっています。

アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス(a.a菌)

アクチノミセテムコミタンス菌の中には、免疫細胞の1つである好中球(白血球の一種)を破壊する酵素―ロイコトキシンをつくり出す細菌株が存在します。

健康な歯茎の人、軽度歯周炎の人の歯肉縁下プラークからアクチノミセテムコミタンス菌が見つかることはほとんどありません。
一方、あとで解説する「侵襲性歯周炎(若いうちに急速に進行する歯周病)」の患者さんからは、やや高確率で検出されます。
この事実から、侵襲性歯周炎の発症・進行に関連する細菌だと考えられている。

侵襲性歯周炎

現状、侵襲性歯周炎の原因がはっきりと特定されるには至っていません。
ただ、「関連が疑われる要因」はいくつか存在しています。

たとえば、侵襲性歯周炎の患者さんからは「アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンス」が高確率で検出されることがわかっています。
恐らく、この細菌が何らかの影響を及ぼしていると考えられます。
しかし、侵襲性歯周炎の患者さん全員から検出されるわけではありません。そのため「アクチノミセテムコミタンス菌=侵襲性歯周炎の原因」と断定できません。

また、侵襲性歯周炎には遺伝的要因も関係しています。
家族内に「似たような症状・経験を有する人物」が見つかることが多いです。
東京医科歯科大学の研究において、侵襲性歯周炎の患者99名中10名から「免疫を発動する遺伝子の異常」が見つかっています。
遺伝子異常の見つかった患者さんには「同じ家系の人物」が含まれていました。
この事実を踏まえると、「侵襲性歯周炎のリスクファクターは、遺伝する確率がある」と判断することができます。

実際、侵襲性歯周炎は「わずかな歯周病菌に免疫システムが過剰反応した結果、通常のレベルを超えた炎症性破壊が発生する病気」と考えられています。
「歯周組織の炎症性破壊をおこしやすい人」が侵襲性歯周炎にかかります。

咬合性外傷

咬合性外傷には「一次性咬合性外傷」と「二次性咬合性外傷」の2種類が存在します。
それぞれの原因を解説します。

一次性咬合性外傷

「歯を強く食いしばる」「硬いものを噛む」「睡眠中に激しく歯ぎしりをする」などの要因で、歯周組織が損傷した場合をいいます。
物理的圧力が歯周組織の耐久性を超えていて、急激にダメージを受けたことになります。

多くの場合、歯と歯槽骨をつないでいる組織―歯根膜(しこんまく)が単純性歯根膜炎をおこします。
また、過度に強い力が加わった場合、「歯の破折」がおこるリスクも考えられます。

二次性咬合性外傷

二次性咬合性外傷の場合、歯周組織に加わった圧力自体は正常範囲です。
しかし、もともと歯周病で歯周組織がダメージを受けていた場合、正常範囲の圧力でも損傷を受けます。
歯周病により、すでに歯周組織の耐久性が低下していたためです。

二次性咬合性外傷は、「歯周病+物理的圧力の複合作用で、歯周組織の損傷が拡大すること」を指しています。
基本的には「歯周病の進行を促進する」という問題につながります。

非プラーク性歯肉病変

プラークに存在しないウイルスや真菌、自己免疫疾患によるもの、金属アレルギーなどが原因となります。

歯肉増殖の原因

歯茎が過形成(かけいせい)をおこして、肥大することを指します。

過形成は、必要以上の細胞増殖をおこして、組織が肥大します。
正常細胞が増殖するので、腫瘍とは異なります。腫瘍の場合は「がん細胞」が無制限に増殖しますが、過形成は正常細胞が本来の性質を保っています。

炎症性歯肉肥大

多くの場合、口腔内の衛生管理が不十分な人に発生します。

薬物性歯肉肥大

一部の薬剤は、副作用として歯肉増殖を誘発することがわかっています。
抗てんかん薬のフェニトイン、高血圧や狭心症に使用されるカルシウム拮抗薬のニフェジピンやアムロジピン、自己免疫疾患などで処方されるシクロスポリンなどが歯肉増殖をおこす薬剤です。

口腔内の衛生状態が悪いほど重症化しやすいので、口腔内の衛生管理に力を入れることが重要です。

基本的には原因となる薬剤を中止することで改善されます。
ただ、「てんかん」「高血圧」「狭心症」「自己免疫性疾患」などは、いずれも長期的な服薬を要します。そのため、多くの場合、薬剤を中止するのは困難であり、薬剤を中止できない場合は、「歯肉切除術」により外科的に余分な歯肉を切除します。

遺伝性歯肉線維腫症

遺伝的要因で歯肉増殖がおきる例があります。

全身的要因

「ホルモンバランスの乱れ」「妊娠」「ほかの病気」など、全身状態の変化が歯肉増殖を誘発することがあります。

歯周病の予防・治療方法・治療期間

歯周病の治療方針は、「歯周病の範囲・進行度」によって変わります。
ただ、いずれにしても、「プラークの除去・付着予防」が最優先になります。
歯周病の直接的原因は「プラーク内の細菌」です。
ほかの原因は、すべて「プラークの付着を促進する間接的原因」に過ぎません。

結局のところ、歯周病治療は「(歯周ポケットの)プラークを除去し、再付着を予防するための処置」になります。
複数の治療方法が存在していますが、最終的な目標はかわりません。

また、歯周病により失われた歯槽骨は自然回復しません。
そのため、歯周病の再発を繰り返せば確実に骨は減少していきます。
歯槽骨を再生するための外科治療(基本的に重度歯周病に対して実施するもの)をおこなった場合を除き、失われた歯槽骨は二度と戻りません。
長期的に歯を守るためには、「治療後のプラークコントロール」が不可欠です。

歯周基本治療

歯周基本治療は、ほとんどの歯周病に対しておこなわれる基本的な治療です。
軽度~中等度の歯周病(慢性歯周炎)なら、歯周基本治療で軽快する可能性もあります。

ただ、歯周病は「治療後のプラークコントロール」が非常に重要です。
いったん治療を終えても、プラークコントロールが不十分なら、再び歯周ポケットにプラークが溜まります。
当然、歯周ポケットのプラークを除去できなければ、歯周病が再発することになります。

1.ブラッシング指導(TBI)

歯周ポケットが4mmまでなら、ブラッシング指導が重要になります。
患者さん自身がプラークコントロールをすれば、十分に改善が見こめます。
歯肉炎・歯周炎は、プラークと接触している場所で発生します。
プラークをきれいに除去すれば、その場所で炎症はおこりません。

歯科衛生士の指導により、正しいブラッシング方法を理解すれば、プラークの除去率が向上します。さらに、デンタルフロス、歯間ブラシの使用法を身につけることで、より丁寧なデンタルケアが実現します。

2.スケーリング

プラークが付着する要因のことを「プラークリテンションファクター」と呼びます。
代表的なプラークリテンションファクターは「歯石」です。
歯石はプラークが固まったもので、歯周病菌の棲み処になります。
表面に小さな穴があいていて、プラークが付着しやすい構造だからです。
歯周病治療においては「プラークリテンションファクターの除去」も重要になってきます。

歯周ポケットが4mm程度までなら、「スケーリング」という方法で歯石を除去します。
「スケーラー」と呼ばれる鉤状(かぎじょう)の金属器具で、歯周ポケット内の歯石を掻き出す処置です。
手作業で歯石を除去する「ハンドスケーラー」のほか、超音波の振動を活用する「超音波スケーラー」も存在します。
歯石を取り除くことで、プラーク(=歯周病菌)が付着しにくい環境を取り戻します。

3.ルートプレーニング

歯周ポケットが4~6mm程度の場合、一般的にルートプレーニングを実施します。
ルートは「根元」、プレーニングは「平坦にすること」を意味します。
歯周ポケット内の歯根表面をつるつるに整えることから、ルートプレーニングと呼ばれています。
歯周ポケットの深いところまで処置するので、たいていは局所麻酔をします。

スケーリングを実施したあと、「キュレット」と呼ばれる鋭利な器具で歯根を掃除します。細菌に汚染されたセメント質、炎症をおこした歯肉組織などを剥ぎとり、表面を平坦にならします。表面をつるつるに整えることで、プラークが付着しにくくなります。

歯周外科治療

スケーリング・ルートプレーニングを実施しても十分な治療効果が得られない場合は、歯周外科治療を検討します。
また、歯周ポケットが6mmを超える重度歯周病に関しては、基本的に歯周外科治療が第一選択となります。

1.歯周ポケット掻爬術(-そうはじゅつ)

「キュレット(鋭利な金属器具)」を用いて、歯周ポケット内部を清掃する手術です。
歯石のほか、「汚染されたセメント質」「炎症をおこした歯肉」「歯周ポケット内の歯肉表面」をまとめて掻きとります。
歯周ポケット内の歯茎を傷つけることで、「傷が治癒するときに、歯と歯茎が再び癒着する効果」を期待できます。

外科手術なので、局所麻酔下でおこないます。
切開を伴わないので、手術時間も短く、負担も少ないのが特徴です。
反面、歯茎を切開しないことから、手術部位を目視することができなません。
手の感覚だけで施術する以上、炎症部位をすべて除去できるとは限りません。

2.歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)

歯肉剥離掻爬術では、歯茎を切開・剥離してから処置をおこないます。
歯周ポケット内の歯根を露出させるので、手術部位を目視しながら処置することが可能です。
歯周ポケット内の感染組織を取り除いたあと、歯茎を元通りにかぶせて縫合します。

3.歯肉切除術 / 歯肉弁根尖側移動術(しにくべんこんせんがわいどうじゅつ)

深い歯周ポケットが形成されている場合、歯周ポケットができている歯肉を切除する場合があります。
歯の根元に付着している歯茎を切除し、あえて歯根を露出させます。
あとは、むき出しになった歯根表面をきれいに清掃して、傷口の治癒を待ちます。

切除したわけですから歯茎は大幅に後退します。
しかし、歯周ポケットが消失(あるいは、大幅減少)するので、「歯ブラシの届かない場所にプラークが付着する」という現象はおこらなくなります。
この状態でプラークコントロールを続ければ、歯周病の再発を抑えることが可能です。

歯周組織再生療法

重度歯周病で歯槽骨が大きく失われた場合、歯周組織再生療法を試みる場合があります。
歯茎を切開し、「歯槽骨の再生を促したい部分」に特殊な膜を設置する方法が知られています。

普通なら、歯茎を切開して縫合しても、「歯茎内部の骨」は再生しません。
内部が再生するよりも速く、外側の歯茎が再生するためです。
歯茎が外側から内側に向かって再生し、切開した場所を埋めます。
その結果、「骨が減少したまま、歯茎が全体を覆う」という治り方をします。

しかし、内部に膜を設置すると事情が変わります。
膜を設置するのは、「外側の歯茎が再生するのを邪魔する位置」である。
すると、歯茎が再生できないので、代わりに「内側の歯周組織」が外側に向けて再生してきます。
結果的に、歯槽骨もいくらか再生します。

歯周組織再生療法には複数の術式が存在しますが、メカニズムは似ています。
何らかの方法で、内側の歯周組織が優先的に再生するのを誘導する手術です。
ただし、歯周組織再生療法で歯槽骨が元通りになるわけではありません。

実際に、歯周組織再生法を実施した例で、(フラップ手術と比較して)どれくらいの骨再生が得られるか」を確かめた研究では、「1.39mm程度」という結果が出ています。現状、歯周組織再生法で健康な状態に戻せるわけではありません。わずかながら骨を再生して、歯の温存を図ることが目的となります。

化学的治療

近年、化学的な歯周病治療が着目されるようになってきています。
治療方針は抗生物質などの薬剤を用いて、歯周病菌を殺菌することです。

1.歯周ポケット内洗浄

「ポビドンヨード」「オキシドール」などの消毒薬で、歯周ポケットを洗浄します。
ただし、洗浄だけでは、それほど大きな効果は得られません。
「スケーリング」「ルートプレーニング」と併用する補助的治療です。

2.局所薬物配送療法(LDDS)

歯周ポケット内部に抗菌剤を詰めて、歯周病菌の殺菌を図る治療法です。
主に使われている抗菌剤は「2%塩酸ミノサイクリン(テトラサイクリン系抗生物質)」です。

少量の歯周病菌に反応して、過剰な炎症がおこる体質の人(侵襲性歯周炎)などに用います。
ただ、こちらも補助的治療であり、「スケーリング」「ルートプレーニング」「歯周外科治療」と併用する補助的治療になります。

予防法

歯周病を予防するには、「歯周病の発症・進行を促すリスクファクター」を遠ざける必要があります。
「歯周病のリスクを高める原因」としては喫煙、「歯周病の進行を促進する原因」としてはブラキシズム(歯ぎしり)が知られています。

1.禁煙

喫煙は、さまざまな病気の要因になります。
「1日10本以上の喫煙で歯周病リスクが5.4倍に、10年以上の喫煙習慣で4.3倍に上昇し、重症化しやすくなる」という報告があります。

タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血流を悪化させます。
歯茎に回る血液量が減るため、「発赤」「腫れ」「歯磨きの出血」といった問題が(見た目には)抑えられます。結果、歯周病の発症・悪化がわかりにくくなり、「歯がグラグラになるまで気づかない」といった問題が生じます。
結果、重度歯周病になるまで治療を開始できないので、歯を失うリスクが増大します。

2.ブラキシズム予防

ブラキシズムは「歯ぎしり」のことです。
ブラキシズムには3種類が存在していて、それぞれ「グラインディング」「クレンチング」「タッピング」と呼ばれています。

グラインディング
一般的に「歯ぎしり」と表現する場合、グラインディングを指します。
歯を左右に擦り合わせる動作です。睡眠中、無意識のうちにおこなっている人が多くいます。

噛むとき、歯にかかる力は本来、縦方向である。そのため、歯は横方向の力に強くありません。グラインディングは、歯・歯周組織の損傷リスクがきわめて高くなります。

クレンチング
クレンチングは、歯を強く噛みしめる動作です。
「何かに集中しているとき」「力をいれるとき」など、気づかないうちに歯を噛みしめる人がいます。やはり、歯・歯周組織にダメージを与える行為です。

タッピング
タッピングは、上下の歯をカチカチと接触させる動作です。本来、上下の歯は1~2mmほど離れていて、噛み合わせるのは「食事中」「会話中」だけです。
しかし、頻繁に噛み合わせるのが癖になっている人がいます。
1回にかかる圧力は少なくても、繰り返すうちに歯・歯周組織が消耗していきます。

歯周病で弱っている歯周組織は、「普通なら耐えられる程度の圧力」でも損傷します。
そのような状態でブラキシズムの圧力がかかれば、歯周組織は甚大なダメージを受けることになります。ブラキシズムは、歯周病を急速に進行させるリスクファクターといえます。

ただ、睡眠時ブラキシズムは、本人の意思によるものではありません。
そこで、ブラキシズムの悪習慣がある場合、歯周組織へのダメージを抑えるマウスピースを使用すると効果的です。
歯科医院で相談すれば、マウスピースの作成が可能です。

3.ブラッシング術

歯周病予防には、日頃の歯磨きが重要です。
しかし、正しいブラッシング方法を習得していないと、十分な予防効果を得ることができません。
多くの歯科医師が推奨する「歯周病予防に適したブラッシング術」としては、「バス法」が知られています。

バス法

バス法では、歯ブラシをあてるときの角度が重要となります。
歯に対して垂直ではなく、斜め45°にあてます。
このとき、「歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)」の方向に傾けます。
歯ブラシの毛先が歯周ポケットに入るようにします。

また、歯ブラシの動かし方も重要です。あまり大きく動かしてはいけません。
歯ブラシを歯周ポケット方向に傾けた状態で、歯ブラシを小刻みに震わせます。

バス法の磨き方は、歯ブラシの毛先が歯周ポケット内に入りやすくなります。
その結果、歯周ポケットの歯垢(歯肉縁下プラーク)を効率的に除去できます。

歯周病の治療経過(合併症・後遺症)

継続した口腔内のコントロールが必要です。

歯周病は、歯を失う最大のリスクファクター

歯周病は、歯を失う最大の要因です。
公益財団法人―8020推進財団が実施した「第2回永久歯の抜歯原因調査 平成30年11月」の調査結果では1位は歯周病によるもので37.1%を占めていました。2位は虫歯(29.2%)、3位は破折(17.8%)でした。

上記のデータからわかるとおり、歯を失うリスクがもっとも高いのは歯周病です。
虫歯よりも歯を失うリスクが大きいのです。よって、歯を残すには歯周病予防が重要です。

また、歯周病は、全身疾患の発症リスクを高めます。歯周病のことを「最悪でも、歯が抜けるだけ」と誤解している人はたくさんいますが、歯周病の影響が及ぶのは口腔内だけではありません。

歯周病が誘発する可能性のある病気を解説します。

糖尿病

糖尿病は、血糖値(血液中のブドウ糖)が増加することで、血管が損傷する病気です。血管の損傷はさまざまな合併症をもたらし、最終的には生命にかかわることもあります。

本来、膵臓が「インスリン(血糖値を下げるホルモン)」を分泌し、血糖値を調整します。
しかし、慢性的な高血糖が続くと、「インスリンを分泌しても血糖値が下がらなくなる」「膵臓が疲弊してインスリンを分泌しなくなる」などの問題がおこります。
インスリンがうまく機能せず、血糖値が下がらなくなった状態が「糖尿病」です。

歯周病にかかっている人は、糖尿病になる確率が高いことがわかっています。
たとえば、アメリカの「米国国民健康栄養調査」を利用した研究では、「歯周病罹患者は、糖尿病にかかる確率が約2倍である」と示されています。

歯周病は糖尿病を誘発するメカニズムに関しても、明らかになっています。
歯周病菌が持っている内毒素が血管に入りこむと、免疫細胞(白血球など)が「TNF-α(腫瘍壊死因子)」と呼ばれる物質を分泌します。TNF-αは腫瘍(がん細胞)を攻撃するタンパク質で、炎症を誘発する働きも持っています。

本来、炎症は「病原体と戦うために必要な反応」です。しかし、TNF-αが過剰に分泌されることでインスリンの働きが悪くなり、血糖値が下がりにくくなります。
TNF-α自体はもちろん、TNF-αの影響であちこちに炎症がおきると、インスリンシグナル伝達経路が抑制されます。
その結果、インスリンの効果がうまく働かず、血糖値が下がりにくくなります。

インスリンがうまく働かなくなると、膵臓はさらに大量のインスリンをつくり、血糖値を下げようと試みます。やがて膵臓が疲弊し、インスリンを産生することができなくなり、分泌能力が低下します。

歯周病によって増加する物質―TNF-αが糖尿病の発症に関与していることは間違いありません。実際に、糖尿病の患者さんに歯周病治療をおこなうことで、血糖値の改善が見られることもわかっています。

動脈硬化

動脈硬化は、脳梗塞・心筋梗塞など、生命にかかわる疾患を誘発する危険因子として知られています。
動脈硬化は生活習慣病の一種であり、「不適切な食生活」「運動不足」などが主な要因です。しかし、近年になって、新しく「歯周病が動脈硬化の要因になる」という考え方が定着してきました。

動脈硬化にはいくつかのメカニズムがあるが、そのうちの1つに「アテローム性動脈硬化症」というものが存在します。
歯周病は、このアテローム性動脈硬化症を誘発する原因になると考えられています。

血液中のLDL(コレステロールの一種。悪玉コレステロールと呼ばれることがある)が増加すると、LDLは血管壁の中に侵入します。
LDLは血管壁の中に入ると、活性酸素に酸化されて「酸化LDL」に変わります。
酸化LDLは、「不要な物質」です。
そこで、不要な物質を排除するため、免疫システムが動き出します。
白血球の1つであるマクロファージが血管壁に入り、酸化LDLを取りこみます。

しかし、ここで問題がおこります。
大量の酸化LDLを取りこんだマクロファージは、「泡沫細胞(ほうまつ-)」と呼ばれる細胞に変化します。
泡沫細胞はマクロファージの死骸ともいえます。泡沫細胞は血管壁の中にとどまり、そのまま動かなくなります。

「マクロファージが大量の酸化LDLを取りこんで、泡沫細胞に変わる」という流れが何度も繰り返されると、いずれ血管壁の中に大量の泡沫細胞が溜まります。
すると、泡沫細胞の塊が溜まったことで、血管壁が大きく膨れあがります。
このとき、血管壁は内側に向かって膨らみます。つまり、血管が狭くなるのです。

膨れあがって血管を狭めている部分は、粥状(じゅくじょう:おかゆのようにドロッとした質感)になっている。「血管内の粥状病変」のことを「アテローム」と表現します。
以上が、アテローム性動脈硬化症の発症メカニズムです。

歯周病菌の代表格として知られる「プロフィロモナス・ジンジバリス」は、歯周病の患部から血管内に侵入します。
ジンジバリス菌の内毒素は、「MCP-1(炎症をおこす物質)」がつくられるようにヒト単球細胞を誘導し、血管内のマクロファージを増やします。
その上、マクロファージが血管壁に入るときに必要な物質―「VCAM-1」を発現させて、血管壁への侵入を促す性質まで持っています。

以上の事実は「より多くのマクロファージが血管壁に入り、アテロームを形成しやすくなること」を意味しています。
近年は、「ジンジバリス菌自体が血管内に入らなくても、菌の成分が侵入するだけで、アテローム性動脈硬化症を促進する」ということまでわかってきました。

そのほか、歯周病患者の大動脈に発生したアテロームを調べたところ、トレポネーマ・デンティコラ、アグリゲイティバクター・アクチノミセテムコミタンスなどの歯周病菌が検出された例もあります。
これらの事実をまとめ、複数の歯周病菌がアテローム形成において一定の役割を果たしていると推論されています。

歯周病になりやすい年齢や性別

中高年の歯周病罹患率は8割以上

2011年に厚生労働省が実施した「歯科疾患実態調査」によると、35~69歳の年齢層で、歯周病の罹患率(※)は80%以上になっています。
もっとも罹患率が高いのは45~49歳で、約87%でした。

歯科疾患実態調査における罹患率をもとに概算すると、日本国内で「歯肉炎・歯周炎にかかっている人の総数」は約9400万人になります。
歯周病治療を受けている患者さんの数が約260万人である事実を踏まえると、「歯周病を放置している人」が相当数にのぼることがわかります。

「大多数が歯周病にかかっている」という状況は、日本だけではありません。
「世界でもっとも患者の多い病気」としてギネスブックに登録されています。

編集部脚注

※1 セメント質

セメント質は歯の「歯茎に埋まった部分」において、表面を覆っている層です。
歯茎より上に出ている部分では「エナメル質」が表面を覆っており、こちらは広く名前が知られています。

※2 歯根膜

歯根膜は、歯と歯槽骨をつなぐ繊維質の組織です。
別名で「歯周靱帯(ししゅうじんたい)」と呼ぶこともあります。
歯根膜の主な役割は2つあります。ひとつ目は「噛んだときに、歯・歯槽骨への負担をやわらげるクッションの役割」、ふたつ目は「噛んだときの感覚を伝える役割」です。
歯根膜は歯・歯槽骨を守ると同時に、「噛んだものが硬いか柔らかいか」などの感覚を知るためにも役立っています。

※3 歯槽骨

歯槽骨は、歯を支える骨です。
歯の根元は歯茎に埋まっているだけでなく、歯槽骨に固定されています。

執筆・監修ドクター

小川 隆介
小川 隆介 医師 後楽園デンタルオフィス 院長 担当科目 歯科

経歴2005年 日本歯科大学 卒業
2005~2006年 東京医科歯科大学摂食機能構築学 医員
2007~2011年 東京都内歯科医院 副院長
2011年 後楽園デンタルオフィス 院長就任

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