しんじゅしゅせいちゅうじえん真珠腫性中耳炎
真珠腫性中耳炎とは?
真珠腫性中耳炎とは、慢性中耳炎の一種で、角化した外耳道鼓膜の一部や皮膚・角質成分が白色の球状になって増殖し、中耳腔内に侵入して骨を壊していく病気です。
真珠「腫」というと、「腫瘍」のように思われるかもしれませんが、本質的には真珠腫は「腫瘍」ではありません。球の中にあるのは白い角質成分ですが、白い色が真珠のように、あるいは骨を壊しながら大きくなる様子が腫瘍のように見えるので真珠腫という名がつきました。
耳の周辺には大切な神経等があるため、この真珠腫が中耳に侵入し、適切な治療を受けなければ重篤な合併症をきたす危険性があります。
耳小骨や内耳を破壊すると難聴やめまいの原因となります。また、顔面神経を損傷すると、顔の動きが麻痺することもあります。
他にも硬膜外膿瘍・髄膜炎・S状静脈洞血栓症など、命に関わる危険な疾患を続発することもあります。
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真珠腫性中耳炎の症状
真珠腫瘍中耳炎は、先天性のものと後天性のものに分けられます。どちらも初期には症状を示しにくいことがありますが、中耳や中耳周囲の骨が徐々に破壊されていくと、時間の経過とともに進行して難聴や耳漏などが現れます。
先天性の場合
胎生期に中耳(鼓膜の奥の空洞)に残された角化扁平上皮(かくかへんぺいじょうひ:角質の成分を持った皮膚の組織)が真珠腫になります。
はっきりした初期症状が現れることは少なく、検診などで鼓膜の奥の白色病変(角化物が詰まった袋状の真珠腫の塊)を指摘されてはじめて気がつかれることがあります。
症状としては耳小骨の破壊や、耳管開口部を閉塞して生じる滲出性中耳炎による進行性の伝音難聴を示すことがあります。後天性の場合と異なり、鼓膜そのものには異常を示さないことが特徴です。
先天性真珠腫の一部は錐体尖真珠腫(すいたいせんしんじゅしゅ)の病態を取ることがありますが、この場合はかなり進展しないと症状が出にくく、また治療が難しい上に危険な合併症を伴いやすいという問題があります。
後天性の場合
先天性と同じく初期症状はほとんど自覚できません。耳閉感(耳が塞がれているような状態)がたびたび起きているうちに病気は進行していき、聴力低下、耳だれが生じるようになります。
真珠腫が、中耳に侵入して耳小骨を破壊したり、耳小骨の動きを阻害したりすると難聴、とくに伝音難聴(でんおんなんちょう)を起こすことがあります。
また、真珠腫の角化物に細菌が感染すると臭気のある、膿の混じった膿性耳漏(のうせいじろう)が見られるようになります。多くは、慢性中耳炎でよく見られる「痛みを伴わない耳漏」を示します。
さらに真珠腫が奥へと進んで、内耳を破壊するようになると、めまいや高度な感音難聴を示すようになります。
顔面神経は、耳小骨と内耳の間を走行していますが、ここで神経が損傷されると顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ:顔が半分動かなくなる)や、味覚障害(舌の半分で味の感覚が分からなくなる)などの神経障害を引き起こすこともあります。
さらに中耳の上には脳があるため、中耳との境となっている頭骸骨の骨が破壊されれば髄膜炎、硬膜外腫瘍、S状静脈洞血栓症など様々な疾患を引き起こし、最悪の場合死に至ることもあります。
真珠腫性中耳炎の診療科目・検査方法
主な診療科目は耳鼻いんこう科
骨を壊して進行する病気であり、放置すれば耳の奥にある聴神経、顔面神経、近くにある脳にも影響を及ぼします。
そのため、治療が遅れれば症状は、進行して脳にまで達し、髄膜炎や脳腫瘍など、重篤な状態になる恐れもあるため、早急に受診する必要あります。
主な検査内容
顕微鏡(鼓膜、外耳道の観察)
白い塊状の物質(デブリ)を含む、膿性の耳漏を確認します。また症状の増悪を防ぐためにも局所処置を行って清掃を行います。
真珠腫による耳漏はしばしば慢性で、耳茸(みみたけ)と呼ばれるような肉芽性病変を伴うことがあります。
真珠腫と鼓膜の関連(弛緩部なのか、緊張部なのか、まったく関係が無いのか)真珠腫と鼓膜穿孔の関係、真珠腫と耳小骨の関係についてもこの段階で検討します。
内視鏡(鼓膜、外耳道の観察)
内視鏡によっても同様の所見が確認できますが、広角レンズを使いながら穿孔に近接することでより広い視野で真珠腫の進展について検討できます。
聴力検査・平衡機能検査
純音聴力検査等、各種の聴力検査を行って現状での聴力の状態を把握します。
また、骨導聴力(こつどうちょうりょく:耳の後ろに端子をあてて行う聴力検査)を行って治療による聴力改善の可能性を検討します。
また、めまいを伴う場合には赤外線フレンツエル眼鏡検査等でめまいの状況についても把握します。味覚症状や、顔面神経麻痺を伴う場合には、顔面神経に関する評価を行うこともあります。
画像診断
側頭骨CTで、真珠腫の特徴である骨破壊の状況について検討します。中耳腔や乳突洞の変形、耳小骨の破壊等が確認できる場合があります。
また天蓋(てんがい:中耳の上の壁で、頭蓋底を形成する)や、外側半規管等、内耳への進展、あるいは顔面神経管の損傷を確認することができます。しかし、CTでは、真珠腫そのものと、その周囲にある肉芽を区別できません。
拡散強調MRIでは、真珠腫そのものの存在を映し出すことができます。また頭部MRIは、真珠腫に伴う中枢系合併症があった場合(髄膜炎・硬膜下膿瘍・S状静脈洞血栓症等)には鑑別診断として重要な働きをします。
細菌培養検査(細菌に関しての適切な抗菌薬選択のため)
真珠腫はしばしば長い経過を伴い、抗菌薬に耐性のある細菌が検出されることは珍しくありません。適切な抗菌薬選択のためには、細菌培養検査を行います。
真珠腫性中耳炎の原因
中耳腔内に存在する角化上皮が真珠腫の原因になります。先天性のものは中耳に胎生期から存在する角化扁平上皮が原因と考えられます。
後天性真珠腫の場合には、鼓膜が内側に陥凹してポケットが形成され、その中に角質成分が蓄積して真珠腫が形成される、あるいは感染による炎症で、上皮細胞が増殖し、角化が亢進する等の理由が考えられています。
場合によっては鼓膜の穿孔や、外傷、あるいは手術的操作が原因となって、外耳道側から中耳腔に角化上皮が入り込むことによって生じる場合もあります(二次性真珠腫)。
いずれにしても中耳に真珠腫が発生すると、真珠腫の圧力で骨のリモデリングが進み、また炎症による破骨細胞の活性化によって骨の破壊が進み、結果として側頭骨が破壊されることで様々な症状が出現するようになります。
真珠腫のうち、一部のものは鼓膜の弛緩部から陥凹が進み、その奥にできたポケットから進展します(弛緩部型真珠腫)。また一部のものは鼓膜の緊張部が陥凹してその奥にできたポケットや、穿孔から真珠腫が発生します。
このポケットの形成には、鼻の奥にある上咽頭とつながっている耳管という、管の換気が不充分になることで発症しやすくなります。とくに「鼻すすり」との関連がしばしば指摘されています。鼻をすすることで中耳の圧力が陰圧になり、ポケットが形成されやすくなります。
しかし、現実には真珠腫があまりに広く進展していて、分類や発生母地がはっきりしない場合(複合型・分類不能型)もあります。
真珠腫性中耳炎の予防・治療方法・治療期間
真珠腫性中耳炎の治療の基本は手術による真珠腫の除去です。これによって病状の進展を防ぐことが第一の目標になります。
真珠腫の上皮がわずかでも中耳に残っていると、そこから真珠腫は再発することがあります。第2の目標としては、真珠腫によってもたらされた不愉快な症状(耳漏や難聴)を取り除く、あるいは改善することがあります。
真珠腫の除去は最も大切な目的ですが、完全な除去のためには、しばしば耳小骨など、側頭骨の機能の犠牲にして手術ために必要な部分を取り除かなければならなくなる場合もあります。何を、どこまでを行うかは真珠腫の広がり具合によって判断が変わります。
このために真珠腫の手術では、この2つの目的を同時に、つまり真珠腫の除去と鼓膜や耳小骨を再建する手術を同時に行うこともありますが、症状の進行度合いによっては2回に分けて手術を行なう場合もあります(二期的手術)。
真珠腫が乳突洞(にゅうとつどう:耳の後ろにある骨の盛り上がり)まで広まっている場合、乳突洞削開(にゅうとつどうさっかい)という手術を行って真珠腫を取り除きます。乳突洞削開を行う場合にしばしば用いられる2つの考え方があります。
主な術法
カナルウォール・ダウン法(外耳道後壁削開型)
外耳道を大きく削除する方法です。主に炎症が高度な病態に対して行います。広い範囲の状態が見えるため、真珠腫を摘出しやすく他の神経を損なう危険性が少ないというメリットがあります。
一方で外耳道が大きく広がったことによって耳漏や耳垢が貯留しやすい状態になりやすく、定期的に耳鼻いんこう科に通院する必要があります。また、ウォータースポーツ時に耳栓が必要になるなど不便が生じる可能性がまれにあります。
カナルウォール・アップ法(外耳道後壁保存型)
外耳道を自然な形に保ったまま真珠腫を除去する方法です。外耳道の形状を温存できるため、耳漏や汚れ溜まりが少なく、治療後のQOL(質の高い生活)を保ちやすいのが特徴です。しかし、視野は狭くなり、安全に手術を行う上での難易度は高くなります。最近は内視鏡を使って視野を確保する手術方法も行われる事があります
この他にも、一度、外耳道の後壁を除去した後、外耳道後壁をもう一度作り直したり、骨組織で充填したり、筋膜などの軟部組織で形成したり(ソフトウォール)などが行われる事があります。真珠腫の進行度や治療後の生活のあり方によっても最適な選択が変わってくるため、医師とよく相談しインフォームドコンセントを活用しましょう。
伝音再建
真珠腫が耳小骨を取り込んでしまっている場合など、耳小骨ごと真珠腫を取り除く必要があった場合には、伝音難聴が残ってしまいます。
このような場合には伝音再建を行って聴力が保存されるように努力します。二期的な手術では、まず徹底的に真珠腫を除去し、時間をあけて真珠腫の再発がないことを確認してから、改めて二度目の手術を行ってその時に伝音再建を行います。
また、一部は骨固定型骨導補聴器(BAHA)や、人工中耳(VSB)の適応となる場合があります。
真珠腫性中耳炎の治療経過(合併症・後遺症)
頭蓋内病変を起こさない限り、真珠腫が生命予後、つまり命を奪う病気となることはまずないと言えます。
真珠腫によって生じた難聴が伝音難聴である場合、理論的には手術による伝音再建で回復が望めると言えますが、真珠腫の存在部位や、耳小骨の状態によっては完全な回復が難しい場合もあります。
真珠腫がすでに内耳に影響を与えて感音難聴になっている時には、改善は望めません。やはり真珠腫と診断されたら極力早めに治療を行う事が大切です。
真珠腫は手術をしても再発することが少なくない病気であり、このため長期間にわたって経過観察が必要です。再発が確認されたら再手術になります。
真珠腫性中耳炎になりやすい年齢や性別
執筆・監修ドクター
経歴平成 2年 岡山大学医学部 卒業
平成 6年 岡山大学医学部大学院 卒業
平成 2年~ 岡山大学医学部耳鼻咽喉科 入局
国立岡山大学 耳鼻咽喉科 研修医
平成 7年~ 米国アイオワ大学医学部 耳鼻咽喉科 研究員
平成 9年~ 岡山大学医学部耳鼻咽喉科 助手
平成12年~ 岡山大学医学部耳鼻咽喉科 講師
平成26年4月~ 新倉敷耳鼻咽喉科クリニック 院長
平成27年~ 埼玉医科大学 客員教授
九州大学 臨床教授
平成29年10月~ 早島クリニック耳鼻咽喉科皮膚科 院長
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