谷本 啓爾先生(日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医)にインタビュー
医学部の講義でホルモンの働きに興味を持ち内分泌内科の医師を志す
内分泌内科の道に進んだのは、医学部5年の時に受けた内分泌学の講義がきっかけでした。脳下垂体は全身の内分泌臓器に作用する司令塔のような臓器です。脳下垂体からホルモンが分泌され、それが甲状腺を刺激することで甲状腺からホルモンが分泌されます。また、血中の甲状腺ホルモン量は一定に保たれており、それを制御しているのが脳下垂体になります。甲状腺からのホルモン分泌が多くなると脳下垂体からのホルモン分泌が減り、逆に少なくなれば脳下垂体からのホルモン分泌が増えるように働くのです。さらに、ホルモンの種類によって、その制御の仕方は変わります。こういったホルモンや内分泌臓器の働きについて知った時、学問として「面白い」と感じ、この道に進むきっかけとなりました。
その後、大学院では東京女子医科大学第二内科学でも臨床研修を行い、成長ホルモンとその影響について研究を行っていました。成長ホルモンは、子どものうちは多く分泌されますが、思春期を過ぎると次第にその量は減っていくのが一般的です。しかし、下垂体性成長ホルモン分泌亢進症を発症すると中高年になっても成長ホルモンの分泌が高いままとなります。そのことが身体にどう影響を及ぼすのかを研究していました。高齢者の先端巨大症では糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの合併症を引き起こしやすくなるのではないかということを研究していました。
患者さまのライフプランや治療方法のご希望に合わせて治療方針を決定する
甲状腺ホルモンの低下の度合いには個人差があります。実際のホルモンの数値、患者さまの自覚症状、コレステロールの値が高くなっていないか、なども確認し、患者さまのご希望に合わせて治療方法を決めていきます。お薬を服用して早く改善したい方もいれば、なるべくお薬は飲みたくないという方もいらっしゃいますので、ご希望を伺いお薬を飲む必要性を含めて治療方針を決めていくことに重きを置いています。
また、女性の場合は、妊娠すると必要な甲状腺ホルモンの量が変わります。不妊や流産を防ぐ上でも、甲状腺ホルモンの値をコントロールすることは大切です。近い将来に妊娠を希望されているのか、妊娠中か、といったことも伺い、治療の目標を定めていきます。
さらに、子供における甲状腺ホルモンは、成長、発育にとても重要な役割を担っているため、年齢も考慮して治療方針をきめることも重要と考えています。
診断を行う際には、プロラクチンの値を確認すると同時に、現在服用されているお薬の確認や、甲状腺機能も検査するようにしています。服用しているお薬によっては、プロラクチンの値が上がってしまうことがあるためです。また、甲状腺機能低下症でもプロラクチンの分泌が亢進されることがあります。高プロラクチン血症の症状は、プロラクチンの値を下げることで改善が期待できます。
大切なのは、先端巨大症ではないかと心配されている方に対して、検査して診断をすることです。他の医療機関からご紹介される方もいらっしゃいますが、最近はインターネットでも先端巨大症についての情報を調べられますので、手足の肥大、鼻が大きくなった、唇が厚くなったといった症状から、「自分は先端巨大症ではないか」と不安になって受診される方も増えています。検査をして、先端巨大症ではなければ、「違う」ということをお伝えして、患者さまの不安を軽減して差し上げることも大切です。
当日中に検査結果をお伝えすることで内分泌疾患に関する不安の軽減を目指す
本音を言えば、患者さまをよりお待たせしなくても済むよう、さらなる検査機器の進化を期待しています。ただ、ホルモンは血液の中に微量しか含まれず、採取した血液から測定し始めるまでの時間も要しますので、正しく検査をするためには、30分~1時間ほど時間がかかってしまうのは仕方がないことで、ここが限界なのかもしれませんね。
内分泌内科全体に関して言えば、内分泌内科の医師が、今よりももっと増えることを期待しています。ホルモンのバランスは、理解が少し難しいとろがあるんです。我々の考えている以上に、身体というのは健康維持のためにホルモンを上手に制御しています。そこが難しくもあり、楽しくもあるところなのですが、興味を持つ先生が増えてくれればと期待しています。
内分泌疾患は、一般的には病気とわかりにくい症状も多いかもしれません。身体がだるい、体重が増えるといったことが病気の症状だとは気付きにくいかもしれませんね。逆に「だるいから自分は甲状腺機能低下症ではないか」と病気の可能性を疑われていても、検査をしてみたら病気ではないということもあり得ます。検査を行って、病気であれば治療を進めていくことはもちろん大事ですし、そうでなければ「大丈夫ですよ」ということをお伝えすることも、診療所として大切な役割だと考えています。
診療の際には、病気を診るのではなく患者さまご自身を診ることを大切にしています。内分泌疾患は、患者さまの生活や置かれた状況も踏まえた上で、治療を進めることが大事なのです。閉経前の女性の患者さまであれば、月経周期に合わせてホルモンバランスも変化します。治療方針を決めるにあたっては、妊娠・出産などライフプランのご希望も踏まえた上で決定しています。
不安を感じていらっしゃる多くの方にご来院いただければと考えて、交通の便がよい「梅田駅」の近くのこの場所で開業しました。患者さまの背景を踏まえた診療を行っていきますので、内分泌疾患を疑ったら、まずは来所いただき、ご相談いただけたらと思います。