
國本 泰臣先生(日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医)にインタビュー
患者さまのメリットを考え鼓膜の穴をふさぐ鼓膜再生療法にも精力的に取り組む
急性中耳炎を繰り返す患者さまには、鼓膜切開や鼓膜チューブ留置といった抗生剤以外の治療を選択するようにしています。鼓膜切開は、受診したその日のうちに受けていただけます。鼓膜チューブ留置は、処置に少し時間がかかり、事前に食べ物や飲み物の制限をさせていただく必要もあるため、日をあらためて処置のご予約をお願いしています。
鼓膜穿孔をふさぐ治療というと、今までは、全身麻酔をしてから手術をおこなうのが一般的で、入院も必要でした。耳の後ろを切って、自己組織を移植して穴をふさぐ手術です。現在は、検査で適応と診断された方であれば保険適用の鼓膜再生療法によって穴をふさぐことができます。入院の必要がなく、患者さまにとってメリットが大きいのではないかと考えて、この鼓膜再生療法を、米子市の開業医の中でも率先して導入いたしました。
鼓膜穿孔部に局所麻酔をした後、穴の周囲に傷をつけ、新しい鼓膜ができあがるのを促すために穴の周囲の組織を一部分除去します。その後、鼓膜穿孔治療剤をふくませたスポンジを患部に置き、乾かないように固定して3~4週間待つと、自然と新しい皮膚が生まれ、穴がふさがっていきます。
患者さまご自身は、つらい症状で悩んでいらっしゃいますので、めまいが起きた時にどういう状況だったのかを、詳しくお伺いするようにしています。どの疾患でも問診は大切ですが、めまいの場合は特に、患者さまのお話をよく聞くようにしています。お話の中に、原因を導き出すヒントが隠れていないかどうか、注意深く聞いた上で、だんだんと原因を絞り込んでいくことが多いですね。
例えば、めまいが起きた時の姿勢や動きはどうだったか、どれぐらいの時間持続したのか、めまい以外に何か症状は現れていないか、耳に変な感覚はないかといったことを詳しくお伺いしています。また、症状を伺った上で、頭部の検査が必要な場合には、MRI検査を受けていただくため連携の医療機関にご紹介しています。めまいでお悩みの方は、ご相談いただければと思います。
耳を専門とするイタリアの病院に留学し、手術や解剖について学ぶ
難聴の原因によっては、内服薬や処置などの治療をおこなうことで改善が期待できます。例えば、鼓膜切開や鼓膜再生療法などの外科的な処置で改善できる難聴もあるのです。ただし、中には突発性難聴のように、発症してから時間が経過してしまうと改善することが難しい難聴もあります。突発性難聴は、早めに治療をスタートすることが大切です。聞こえにくいと感じたら、早めに受診していただきたいですね。
最近は、低年齢化が進んでいるため、小さなお子さまもアレルギー性鼻炎で受診されます。一般的な採血がまだ難しい年齢のお子さまの場合には、指先に針を刺し、血を数滴だけ取ってアレルギーの検査をすることもありますね。
アレルギー性鼻炎は、内服薬や点鼻薬による治療が基本です。患者さまのライフスタイルや服用のタイミング、ご希望などを伺った上で、お薬を選択しています。錠剤だと飲めないというお子さまの場合には、口の中で溶けるタイプの薬や粉薬、シロップなどの中から、そのお子さまが飲みやすい形状の薬を選択するようにしています。同じお薬であっても、眠気の現れ方には個人差がありますので、服用してみてどうだったかを伺って、適宜調節もおこなうなど患者さまに合ったお薬を処方していきたいと考えています。
私は、留学の前後に勤務していた鳥取大学医学部附属病院でも、耳の手術を担当していました。勤務医時代の経験や留学時代の経験は、現在、鼓膜再生療法をはじめとする耳の診療をおこなうにあたっても活かされていると感じますし、手術の適応かどうかを判断して大学病院に紹介する際にも活かされていると思います。また、紹介する場合も、術後の流れの説明や手術前後の処置、経過観察を当院でおこなえるのは、患者さまにとってもメリットのひとつではないでしょうか。
新しい知識を吸収する努力を続け、日々の診療の中で患者さまへと還元する
当院で導入している鼓膜再生療法は、2019年11月から保険適用になった鼓膜の穴をふさぐ治療方法です。また、新しいことといえば、めまいの分野でも、持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)という機能性めまい疾患の新たな定義が、2018年に生まれました。これまで、原因不明のめまい症として治療を進めることができずにいためまいも、新しい定義によって診断ができるようになるかもしれません。治療は、大学病院へのご紹介となりますが、こういった知識も、ふだんの診療に活かしていきたいと思っています。
耳の疾患に関しては、鼓膜再生療法に引き続き力を入れていきたいと思います。入院をしなくても治療できるというのは、患者さまにとっても負担が少ないのではないでしょうか。鼓膜再生療法の適応かどうかを検査で確認する必要はありますが、慢性中耳炎、鼓膜穿孔でお悩みの患者さまは、一度ご相談いただければと思っています。
受診していただいた結果、特に治療の必要がないという診断になったとしても、それはそれで良かったと不安の解消につながるのではないでしょうか。ご自身で「大丈夫だろう」と判断せずに、ご相談いただければと思います。