
鈴木 元晴先生(日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医)にインタビュー
人との出会いを大切に。「患者さまも家族」との想いで診療にあたる
産婦人科の医師になると決めたのは、医学部でお世話になっていた先生からすすめられたことが大きいです。その先生とは20年以上の付き合いで、今では埼玉医科大学医学部産科婦人科の医局で教授にもなっていただいています。
この地に戻って開業してからは、病院勤務のときとは認識が変わっていきましたね。診療所は患者さまと僕らスタッフとの距離が近いんです。当診療所は婦人科に限らず内科も診ていますので、長い間定期的に通院してくださる方が多くいらっしゃいます。この界隈に住んでいる方も多いので、道端で会うこともある。いわゆるご近所さんです。しかも、物理的に距離が近いだけでなく、気持ち的にも距離が近い存在でもあります。自分の家族のように、「あの患者さんは大丈夫かな」「今はどうしているだろうか」などと気にすることが多くなりました。
過去の苦労、今の悩み、将来望むこと。徹して話を聞き、治療につなげる医師
一般的には子宮内膜症の原因とされる女性ホルモンをコントロールするために低用量ピルを使用しますが、「とにかく痛みをどうにかしたい」ということであれば痛み止めで対応したり、漢方薬で身体のバランスを整えたりして痛みの緩和につなげる方法もあります。妊娠を希望するかしないかでも治療の選択肢は変わっていきます。子宮内膜症の治療を始めるとその期間は妊娠できなくなってしまうので、患者さまの要望と人生設計に応じて治療法を提案していくことになります。
いずれにせよ普段の生活に支障をきたすぐらいの痛みがあるなら、早い段階で産婦人科に相談していただくのが近道だと思います。強い生理痛は子宮内膜症に限らず、なにかしらの原因がなければ起こらないものと認識していただくといいかもしれません。
ですから、なによりもまずお話を聞きます。とくに、更年期かもしれないと思っていても受診せずに長年悶々としてきた方は、心配事や不満が蓄積しているものだと思います。苦しかったことやつらかったことを吐き出させることが大切です。患者さまのお悩みについてどれだけ情報を収集できるかが更年期の治療でとても大事なことだと考えています。産婦人科というよりは、内科や精神科に近い対応かもしれません。
更年期障害は気持ちの浮き沈みが激しいケースもあり、場合によっては死にたくなってしまうこともあります。早い段階で治療をして、最悪の結果にならないようにしていきたいです。思いの丈を全部吐き出していただいて、必要に応じて漢方薬や抗精神薬、抗不安剤なども使いながら、治療を受けていただくこと。それが健康的な生活に早い段階で戻ることにつながると思います。
背景にうつ病などの精神疾患が隠れていることがあります。同様の症状が出たからといって、全部が全部「月経前症候群」と考えてしまうとその他の治療が後手になってしまう可能性はあるでしょう。月経前症候群が悪化して、PMDD(月経前不快気分障害)になって、自殺まで考えてしまうほど精神的に追い詰められてしまう方もいらっしゃいます。気になる症状があれば我慢せずにすぐ相談してもらうのがいいと思います。
低用量ピルを使って女性ホルモンのバランスを一定にして症状を緩和する治療や、漢方薬、抗精神薬や抗不安薬を併用する治療法もあります。それぞれのメリット・デメリットを提示した上で患者さまに治療法を選んでもらっています。
女性のヘルスケアに向き合い、介護などの相談にも応じてくれる診療所
最近では認知症についても勉強を進めています。「総合的な診療」を目指すにはまだ経験が必要だとは思いますが、過去には婦人科に来ている患者さまから、来院のついでに親御さまの介護の相談を受けたこともありました。排尿や排便のトラブルなどご年配の方に多いお悩みの相談にも応じていますので、いろいろとお話しいただきやすいかと思います。もちろん産婦人科であることに誇りを持っていますが、さまざまな役割で使っていただければと思います。
当診療所には、月経困難症や起立性調整障害を理由に来院されている中学生、高校生の患者さまも何人かいますので、同行されている親御さまには情報提供をしていきたいと思っています。
また、若い人には希望していない妊娠を予防するためにも避妊はちゃんとしてほしいです。結果的に女性の身体を守ることにもつながることになります。病気をうつされるのも女性だし、つらい思いをするのも女性です。自分の身体を大事にしてほしい。そういったことの啓蒙もしていきたいですね。
さらに、最近はこの地域でもご年配の方、とくに一人暮らしの方が増えてきています。そういった方の健康維持にも関わっていけたらなと考えています。