肘が痛くて受診。テニスはしないのに「テニス肘」って?
肘の痛みで整形外科を受診すると、「テニス肘」と診断されることが多くあります。
しかし、テニス肘の患者さんが、必ずしもテニスをしているとは限りません。
思いもかけない病名を告げられて、戸惑う患者さんもいるでしょう。
テニス肘とはどのような病気なのか、どうしてテニス肘と呼ばれるのか、予防・治療するにはどうしたらよいのか、考えてみましょう。
そもそも、「テニス肘」とは?
いわゆるテニス肘は、正式な名前を「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」といいます。
漢字からもわかるとおり、「上腕(腕のうち、肘より上の部分)」の「骨」の「外側」に炎症がおこっている状態を指します。
もっと細かくいうと、痛んでいるのは、短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん:上腕の骨と指の骨とをつないでいる筋肉)が上腕の骨とつながっている部分(起始部:きしぶ)です。
手のひらを下に向けると痛みます
テニス肘にかかると、肘の外側が痛むようになります。特に、手のひらを下に向けて動かそうとすると、痛みが強くあらわれる傾向があります。]
そのため、ものをつかんで持ち上げる、ぞうきんを絞るといった動作が難しくなります。
また、痛みは手を使っているときにあらわれ、何もしていないときには痛みのない場合が多いといわれています。
手首の使いすぎと加齢がポイント
テニス肘にかかる原因や、かかる仕組みについて、はっきりとはわかっていません。「手首の使いすぎ」と「加齢」が関係していると考えられています。
手首の負担が肘に溜まっています
テニス「肘」なのに、どうして、「手首」の使いすぎが問題になるのかと不思議に思われるかもしれません。
しかし、腕の骨や筋肉は、指から、手首、前腕(ぜんわん:腕のうち、肘の手前までの部分)肘、上腕、肩と、すべて一つにつながっています。
そのため、手首の使いすぎが肘に影響を及ぼすこともあるのです。特に、手首を甲側へ反らす動きは肘への負担が大きいと考えられています。
手首を使った直後は問題なくても、気づかないうちに溜まっていった負担が、突然、もしくは、少しずつ肘の痛みとなってあらわれてくるのです。
加齢もきっかけの一つです
また、加齢もテニス肘にかかるきっかけの一つと考えられています。
一般的に、人間の体の筋肉は、年齢を重ねるにつれて、柔軟さが失われ、硬くなっていきます。腕の筋肉も例外ではありません。
筋肉が硬くなると、柔らかいときと比べて、同じ負担がかかっても、痛みなどがおこりやすくなります。
手首を使う頻度や、強さは変わっていないのに、年齢が高くなるほど、テニス肘にかかりやすくなるのはそのためです。
テニス愛好家に多いことから名づけられました
このようにしておこる上腕骨外側上顆炎が「テニス肘」と呼ばれる理由は、中高年のテニス愛好家がかかることが多かったからといわれています。
テニスをしていて、バックハンドでボールを打つ動作は、手首を反らせる動作の最たるものです。ラケットでボールを受けた瞬間は、肘にも強い衝撃が加わります。
これに、加齢による筋肉の硬さも加わって、痛みがあらわれることが多かったのだと考えられます。
テニスが原因とは限りません
しかし、実際にテニス肘にかかる患者さんはテニス愛好家だけではありません。
むしろ、テニスとは縁のない患者さんの方が多いくらいです。どのような方がテニス肘にかかっているのでしょうか。
テニス以外でも……
やはり、過度なスポーツが原因となっている場合が多くみられます。
テニスと同じく、ラケットを使うテーブルテニス(卓球)や、バドミントンにもリスクがあります。ほかにも、ゴルフや剣道などが原因となることもあります。
また、ボールを投げる瞬間に手首が反ることから、野球をするときにも注意しなくてはなりません。
また、スポーツではなくても職業柄、重いものを持ちあげることが多い仕事をしている、手首を反らせる動作を反復するなども大きな原因のひとつです。
若い人でもかかります
スポーツへ熱心に取り組んでいると、まだ筋肉の柔らかい若い人でも、テニス肘にかかることがあります。実際、小中学生の患者さんも珍しくありません。
デスクワークやスマホにも注意
特にスポーツをする習慣がなくても、デスクワークなどが原因で、テニス肘にかかる人もいます。
パソコンのキーボードを打つとき、姿勢によっては、手首を反らせることがあるためです。
同様の理由から、ピアノなど、楽器を演奏する人に多いという医師もいます。
また、近年、広く普及してきたスマートフォン(スマホ)を操作するときも、手首を反らせがちになります。]
最近では、スマートフォンの使いすぎが原因と思われるテニス肘の患者さんも増えてきました。
セルフケアーを試してみましょう
「テニス肘かも?」と思ったら、まずは何をするべきなのでしょうか。順を追ってご説明します。
手首を休ませることが必要
一番望ましいのは、スポーツやデスクワーク、スマートフォンの使用など、手首に負担のかかる動作を一時的にでもやめてみることです。完全にやめることが難しければ、
・頻度を下げる
・一回あたりの時間を短くする
・力を入れすぎないように意識する
・フォーム、姿勢などを見直す
・サポーター、テーピングなどで負担を軽くする
といったことも有効です。フォームの見直しや、テーピングは独学で試してみることもできますが、可能であれば、一度、専門家に相談して、指導を受けた方がより効果が期待できるでしょう。
手首を使ったあとはストレッチを
また、手首を使ったあとには、手首の筋肉をストレッチするのもいいでしょう。
椅子に腰掛けて肘を伸ばし、手の甲を椅子のシートにゆっくりと押しつけるなど、いくつかの方法があります。よく調べて、無理のない範囲で試してみてください。
痛みが続くときは整形外科へ
手首への負担を減らす工夫や、手首を使ったあとのストレッチなどを試してみても、痛みが楽にならない、もしくは、強くなっていくようであれば、病院での治療が必要な状態と考えられます。早めに整形外科を受診してください。
薬を使って痛みをやわらげます
病院では、多くの場合、飲み薬(鎮痛剤)や貼り薬(湿布薬)が処方されるほか、必要に応じて、レーザー治療や電気刺激治療などがおこなわれることもあります。
また、痛みが強く、日常生活にも支障をきたしているような場合は装具による固定などが必要な場合もあります。
注射や手術をすることも
薬を使っても痛みが続く場合や、ものが持てないほど強く痛む場合は、ステロイドという薬を肘に直接、注射することもあります。
また、まれではありますが、手術が必要になることもあります。
手首への気遣いは忘れないで
病院で治療を始めてから、また、治療によって痛みが治まったあとでも、手首に過度な負担をかけないよう心がけなければならないことには変わりありません。
油断をすると、痛みがぶり返すこともあります。
まとめ
執筆・監修ドクター
経歴2005年 帝京大学医学部卒業
2012年 のぞみ整形外科内科クリニック開院
2017年 スガモ駅前整形外科開院
2020年 医療法人社団のぞみ会理事長
スガモ駅前整形外科 院長
のぞみ整形外科内科クリニック 院長
望クリニック 副院長
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