
福嶋 真理恵先生(日本内科学会認定 総合内科専門医)にインタビュー
尊敬する先生との出会いが、肝臓という臓器の面白さに気付くきっかけとなる
また、常日頃から人間の身体がいかに精緻に作られているかということに驚かされることが多く、身体全体と向き合いたいということが内科を選んだ理由でもあります。学生時代は、どちらかというと受動的に講義を受けて知識を頭に入れていく感じでしたが、今になって人間の身体というものについて、まだまだ知らないことばかりであることに日々気付かされ、能動的に吸収したいという思いが強くなっています。
肝臓は、代謝を担っている臓器です。ほかの消化管とは少し働きが異なり、消化管を通じて取り込まれた糖質・たんぱく質・脂質などの栄養素を分解・合成する、化学工場のような臓器なのです。肝臓で起こる疾患も、炎症や腫瘍などさまざまです。問診や血液検査、超音波検査をはじめとした画像診断によって、整合性のある原因を見つけ、どの程度のダメージで、経過観察でよいのか、投薬を含めた治療が必要なのか判断していきます。はっきりしない場合は総合病院にご紹介させていただき、病態を明らかにして、どう向き合うのがその方にとって良いのかお手伝いをさせていただきたいと思っています。新しい知識をブラッシュアップし、ほかの先生方の意見を聞いて、患者さんに不利益が起こらないように努めていきたいと思っております。
肝硬変があって、食道静脈瘤ができて、肝がんを発症してというような患者さんに対して、それぞれの治療を行い、ご家族に病気の説明をして、病気を治す担当医としてだけではなく、治療方針に関して患者さん自身とご家族の意思決定を手助けする役割も担っていたと思います。クリニックではむしろ入院を要するような病状にならないように、予防を主眼とした診療が中心となっています。ワクチン接種や生活習慣病の治療、発熱や腹痛などの診断や治療など幅広い疾患に携わる日々を送っています。かかりつけとして地域の皆様が健康に関するさまざまなことを相談できる存在になれるよう努力していきたいと思っています。
2008年4月に開業して13年が経とうとしています。長期に渡って通院されている患者さんと一緒に歳をとっていくような感覚になってきました。できるだけその方の健康寿命を延ばすことができるような生活習慣のアドバイスをしたり、治療すべきところがあれば早めに見つけて、早期治療につなげることができるように、自己鍛錬していきたいと思います。
病態に応じたきめ細やかな対応を行い治療が必要ない場合も経過観察を続ける
B型肝炎ウイルスは、免疫機能が未熟な乳幼児のうちに母子感染することが多く、ウイルスに感染していても、多くの方は治療の必要がない無症候性キャリアです。このうち約1割の方が治療を必要とする慢性肝炎を発症し、さらに肝硬変や肝細胞がんへと進行する恐れがあります。
B型肝炎に感染しているかどうかは、血液検査を行い、HBs抗原の有無によって確認します。HBs抗原が陽性の場合は、B型肝炎ウイルスに感染していると考えられます。しかし、たとえ感染していても、年齢、ウイルス量、肝機能、病期などによっては治療の必要がない場合もあります。超音波検査で肝臓の状態も確認し、薬物治療が必要な方には核酸アナログ製剤を用いた抗ウイルス療法を行い、薬物療法が必要ない場合でも病態によっては経過観察を続けます。
現在は複数の経口抗ウイルス薬があり、以前と比較して副作用が少なく治療期間も短い治療を選べる時代となりました。初回治療か再治療か、慢性肝炎か肝硬変か、そして肝硬変のステージでも進行したものかどうかにより治療薬や期間が異なります。ウイルスの排除は発がんのリスクや肝硬変の進展を抑えることにつながるため、将来の発がんの不安を減らし寿命をのばす大きな一歩となり得ます。B型肝炎と同じく、これまでC型慢性肝炎の診断は受けているものの、自覚症状がないため治療を受けていなかった方や、肝機能異常を指摘されながら原因精査を受けていない方も是非一度ご相談ください。
肝疾患に注力しつつ地域の患者さんの健康の相談薬としてサポート
また、高血圧や糖尿病などの患者さんに対してはライフスタイルに寄り添いながら、合併症がおきないように治療を行っていきたいと思います。血圧や血糖のコントロールが良好に保たれ、生活も楽しみながら節制とも向き合えば、基礎疾患がない方と同様に長寿を全うする確率が高くなるのではないかと思います。
日々の診療で、病態が悪化したり悪性疾患を発症して専門性のある治療が必要な場合は、速やかに対応可能な医療機関をご紹介できるよう努力していきます。肝臓や総合内科の専門資格を取得していますが、医療の進歩は日進月歩であり、私が取得した時の医療の常識が今は非常識となっている可能性もあります。できるだけ手を伸ばして、その進歩についていける様に耳をそばだたせていなければいけないと思っています。
B型肝炎に関しては、5~10年と長期にわたってお薬を服用していただく必要はありますが、服用することで現状を維持できるようになり、私が研修医をしていた90年代前半と比べると進行例が減っていると感じています。私が研修医の頃は、40代で肝硬変を発症してしまうB型肝炎の患者さんもいらっしゃいましたが、治療することで、そういった例は防げていると思います。B型肝炎に関しては、今後さらによい治療が出てくる可能性にも期待したいですね。
ご相談いただければ、大事に至るまでに治療を始めて、いわゆる健康寿命をのばすことができる場合も多くあると思っています。自覚症状がないのに病院に行くのは億劫だし、見つからなくてもいいものが見つかるのが怖いという人間の心理は私の中にもあります。しかし、悪性疾患が見つかっても、早期に診断されればその分早期に治療が始められ、慢性疾患が見つかっても、同様に早期に治療を始めることで血管の合併症や臓器の力を低下させていくような未来を早めに回避できる可能性があります。