
福嶋 恒太郎先生(日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医)にインタビュー
研究や文化の違う国での診療にも携わり、医師としての研さんを積む
学生時代の思い出はスポーツでしょうか。バトミントン部での活動に精を出していましたし、ゴルフも好きでよくしていました。大学にゴルフ部はなかったんですが、もしゴルフ部があったらバトミントン部ではなくゴルフ部に入っていたと思います。
その後は大学病院で、臨床のほか、研究にも携わりました。主に研究していたのは、胎盤についてです。妊娠高血圧症候群という病気の発症には胎盤の初期形成が関係しているといわれていますが、その発症事情などを研究していました。研究をしていたことで、統計学や生物学的側面も学べたこと、産科医療補償制度の評価などにも携われたことは、いい経験になったと思っています。また、シンガポール国立大学病院でも勤務したのですが、医療行為そのものは同じでも背景や思想による臨床現場の違いを体験したことや、実際に英語で日常診療を行ったことは学びになったと感じています。
勤務医時代と今とでは、基本的には何も変えていないつもりです。扱う疾患やその程度は多少変わりますが、やることは変わりません。基本的なスタンスは変えずに、一人ひとりの患者さまに真摯に対応することを大事にしています。
大切にしているのは、医師として「患者さまの決断」をお手伝いすること
治療は、薬物療法によって経過を観察するのが基本です。子宮頸がんや子宮体がんなどが疑われる場合には、専門医療機関へのご紹介を迅速に進めます。また、子宮頸がんは早期に見つかれば妊娠する可能性を残しやすくなりますので、がん検診は定期的に受けていただければと思います。
子宮内膜症の治療には大きく分けて薬物療法と手術の二つの方法があり、症状やご年齢、妊娠のご希望などに応じて、適する治療法は異なります。また手術をする場合も、病巣部のみを切除するか、子宮や卵巣なども摘出するか、といった選択が必要です。どの治療法にも一長一短はあり、さらに「今後の妊娠についてどのようにお考えか」ということも選択に大きく関わってきます。ただ、できるだけ後悔しないためには、ご自身で選択することが大切です。そのため治療をする際は、それぞれの治療のメリットやデメリット、考えられるリスクなどを丁寧にお話しし、後悔のない決断をするためのサポートをするようにしています。
治療にはお薬による治療と手術の2種類がありますが、こちらも子宮内膜症と同様に、患者さまのご希望やご年齢によって、選択する治療法は変わってきます。例えば、閉経が近いご年齢の方でしたら保存的治療を選択するのも一つの手ですが、30代前半で妊娠を考えている方、考えていない方では、選ぶ治療法は変わります。私が大切にしているのは、標準的な正しい情報を伝えることで、ご納得のうえで患者さまに治療法を選択していただくことです。クライアントとコンサルタントの関係のように、患者さまが選択をするお手伝いをするのが、医師の役割だと考えています。
「新しい技術」を上手に取り入れつつ、患者さまにとってよりよい治療を
例えば、どの診療科もそうですが、産婦人科は特に少子化や働き方改革などによる影響を受けやすいと思います。日本の医療には、いい面も、特殊な面もたくさんあります。日本のいいところを残しつつ、違う側面も取り入れていくことが大事なのではないかと思います。
そのほかに考えているのは、適した時期に引退をすることでしょうか。医師として、いつまでも患者さまの健康をサポートできればそれに越したことはありませんが、やはり能力の衰えにより、医学や機器の進歩についていけなくなる時は来ると思います。適した診断・治療をきちんと提供できるよう、どのタイミングで「引退の決断」をするかは大事なことだと考えています。