田島 加奈子先生(日本糖尿病学会認定 糖尿病専門医)にインタビュー
幼い頃から医師を志す。臨床研修で学んだのは患者さまと向き合う姿勢
中学からは私立の中高一貫校に進みましたが、勉強一辺倒というわけではなく部活動にも力を入れて、継続することの大切さを学びました。
医学部に入ってからは、勉強はもちろんですが、いろいろな方との出会いを通じて社会性も身に付ける学生生活を送ったように思います。知識ばかりで頭でっかちになりすぎると、患者さまによっては円滑なコミュニケーションをとれずに伝えたい内容が思うように伝わらないことがあるかもしれません。さまざまな人と出会い人間の多様性を知る中で、コミュニケーション能力も身に付けることができたと思います。
東京女子医科大学八千代医療センターを研修先として選んだのは、そういった診療の姿勢についても実践を交えて教えてくれる先生方がいて、医療者としての研修を受けるのにふさわしい医療機関だと感じたからです。知識や手技はもちろん、患者さまと接することをおろそかにしない先生方がいる病院です。大学病院で扱う専門的な疾患も一般的な疾患も診療しているのでたくさんの疾患を学ぶことができ、若い医師にも、指導の医師の責任の下きちんと経験を積ませてくれる所というのも研修先として選んだポイントでした。
また、研修医時代のみならず糖尿病や内分泌の専門科に所属した後も、他の分野で経験を積みたいと自分が目的をもって熱望すれば、他の診療科に行って学ぶこともできる環境でした。
病診連携がとても大事だということも、開業医として働き始めて実感するようになりました。ほかのクリニックや中核病院の先生方と助け合いながら、当院でできないことをお願いすることもありますし、逆にほかの先生から患者さまをご紹介いただくこともあります。人間同士の繋がりがとても大切で、お互いにできることを助け合って、地域の患者さまを診ていくことが大事だと感じています。
また、患者さまと接する時間をしっかり取れるようになったのは、開業医になって良かった点ですね。
患者さまが病気を理解できるような説明を工夫、治療に対するメンタル面のフォローも
初診の患者さまに対して心がけていることは、糖尿病とはどういう病気で、今後何に気を付けなければならないか、どのような合併症を起こす恐れがあるのかといったことをしっかりと説明することです。常々の診療でももちろんご説明いたしますが、最初にしっかりとご理解されることで、将来的に良い数値を維持できる可能性が高くなると考えています。
また、生活習慣が関係する2型糖尿病の治療は、同居されているご家族がおられる場合はご家族の協力も不可欠です。食事療法が大事ですので、食事を作るご家族への説明もおこなっています。
1型糖尿病は、食事療法中心の2型糖尿病と異なり、インスリンを注射し続けなければ命に関わる病気です。食事の量が変わればインスリンを打つ量も変えなければなりません。入院時に指導を受けていても、一生インスリンを注射し続ける事を精神的に受け止めきれない方やインスリンを打ち忘れてしまう方もいるので、最初は気持ちを受け止めながら、なぜインスリンが大事なのかをしっかりとご説明するようにしています。
脂質異常症は、進行すると動脈硬化を引き起こし、結果として心筋梗塞や脳梗塞などに繋がる恐れがあります。そのため、LDLコレステロールや中性脂肪などの数値を目標範囲内で管理していく必要があるのです。この目標値は、喫煙歴、性別、年齢、血圧の状態などによって異なりますので、患者さまに合わせてコントロールしていきます。
動脈硬化については患者さまにも説明しますが、言葉だけだとなかなか伝わりづらいので、頸動脈超音波検査をおこない、可視化してお伝えするようにしています。患者さまの受け止め方も変わりますので、できるだけ早い段階で、頸動脈超音波検査をおこなって、実際に血管の状態を見ていただける機会を設けるように心がけています。プラークを可視化することは、治療を頑張らなければという患者さまのモチベーションに繋がります。リスク管理をしていくという点でも大切な検査です。
人と人との繋がりを大切に、地域の方の癒しの場となることを目指す
甲状腺機能低下症は、高コレステロール血症を伴うことがある病気です。食生活の乱れがあまり見られない閉経前の女性でLDLコレステロール値が高く家族歴もない場合、甲状腺機能低下症を疑って検査をご提案することもあります。甲状腺機能低下症による高コレステロール血症は、甲状腺機能低下症の治療をおこなうことで改善が期待できるのです。
バセドウ病、橋本病は血液検査と甲状腺超音波検査で診断し、基本的には薬で治療を始めます。甲状腺腫瘍でがんが疑われる場合には、穿刺吸引細胞診に対応できる病院をご紹介しています。
また、ご多忙なため血糖値のコントロールが難しく、通院の足が遠のいてしまう方も多いのですが、そういった方も受診しやすい医院でありたいですね。「先生、怒らないでね」と言いながら通って来られる方も中にはいらっしゃいます。良くない状況であれば、医師としてもちろんそのことは指摘します。しかし、病気の話をするだけではなく、同時に仕事の愚痴を吐き出していただけるような、癒しの場でもありたいと思うのです。
心療内科的な薬を処方するのは得意ではないので、そういった治療をおこなっているわけではないのですが、「誰かに話をすれば少し楽になるのに」といったことを、かかりつけの医院としてお伺いできればと思っています。ご年配の方の不安を、ただ世間話を聞くように伺うこともあるんです。医療を提供するだけではなく、お話しすることで少しでも患者さまの気持ちを楽にして差し上げることも、地域に根差すかかりつけの医院が担う役割ではないかと考えています。人と人との繋がりを大切にして、これからも診療していきたいですね。