
宍倉 佳名子先生(日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医)にインタビュー
ホルモンの働きに興味を持ち内分泌内科の道に。妊娠にも配慮した診療を行う
内分泌内科というのは、少し特殊な診療科目ですよね。何かの症状が出たからと言って、「内分泌内科で診てもらおう」という方は少ないのではないでしょうか。違う病気を想定して内分泌内科以外を受診し、いろいろな検査をしていくうちに、実は内分泌疾患だったということがわかって、紹介されることが多いと思います。何の病気なのかわからなかった方が、内分泌内科で診断をつけることができて治療を進めていくことで、症状が改善されていく姿を目の当たりにし、内分泌内科は面白いと、興味を持ちました。
大阪医科大学附属病院(現・大阪医科薬科大学病院)の糖尿病代謝・内分泌内科で経験を積ませていただき、いろいろな勉強をさせていただいて、「日本内分泌学会認定 内分泌代謝科専門医」も目指すようになったんです。
また、大学病院は受診するのにハードルが高いと感じる方も、当診療所であれば、健診で異常を指摘された時や、ちょっと心配だから相談してみたいという時にも受診やすいのではないでしょうか。
甲状腺疾患は女性の方に多く見られる疾患です。女性で妊娠、出産を考えられている方の場合、病気が妊娠・出産に影響を与えるのではないかと不安になられることもあるでしょう。実際に、産婦人科で不妊治療を行っていらっしゃるという方も当診療所を受診されます。私自身も出産の経験がありますので、患者さまのご不安に寄り添ってお話を伺い治療を進めていければと思います。
見過ごされがちな甲状腺疾患も問診や検査で診断し寄り添った治療を提供する
バセドウ病は、一般的な病気とは逆で活動的になることが多く、ご自身が病気だと気付いていないことも多いため、問診ではいつ頃からそういった症状が現れ始めたのかを伺うようにしています。また、甲状腺ホルモンの影響で、そわそわと落ち着きのない様子が見られたり、手が震えたりする方もいらっしゃいます。動作や表情からもバセドウ病が疑われることがありますので、診察室に入られてからの様子も注意深く観察させていただきます。
バセドウ病を診断するには、血液検査を行い、甲状腺ホルモン、抗TSH受容体抗体の数値を確認するほか、甲状腺超音波検査を行います。検査結果は当日中にお伝えし、当日に治療も開始しています。基本的には内服治療を行いますが、副作用が出た方には放射性ヨウ素内用療法や手術を検討し対応可能な医療機関をご紹介します。
これらの症状がある場合には、甲状腺機能低下症を疑い血液検査を行います。甲状腺ホルモン値の低下、甲状腺刺激ホルモン(TSH)値の増加が確認されれば甲状腺機能低下症と診断されます。一般的な健診の血液検査ではこれらの値まで確認しないため見過ごされがちで、うつ病を疑う方もいらっしゃるかもしれませんが、お薬によって甲状腺機能が改善されれば、症状の改善も期待できます。
また、甲状腺機能低下症は、不妊や流産、早産のリスクを高めます。不妊治療中、妊娠中、出産後などその時の状態により、甲状腺ホルモンの必要量が変わるため、その方、時期に合わせてお薬の量を調節するようにしています。
甲状腺機能亢進症の原因の中でも多く見られるのはバセドウ病ですが、ほかにもいくつか甲状腺ホルモンが増える病気があり、そのひとつが無痛性甲状腺炎で自然に治ります。原因疾患によって、治療方法は変わるため、問診、血液検査、超音波検査などによってしっかりと鑑別することが大切です。バセドウ病であれば抗甲状腺薬による治療を行います。無痛性甲状腺炎は、甲状腺が破壊されることで甲状腺ホルモンが血液中に流れ出しますが、甲状腺機能は次第に改善されるため抗甲状腺薬の投与は不要です。問診や検査によって、まずはしっかりと診断をつけた上で、原因疾患に応じた治療を行っていくことが大切です。
妊娠中の患者さまにはその時必要なホルモン量に合わせ薬の調節を細かく行う
バセドウ病に限らず、どの甲状腺疾患でも、お薬を処方する際には、患者さまの状態に合わせてきめ細やかな処方を行うようにしています。初診からお薬の服用量が決まるまでの間は、こまめに通院をお願いし、状態を確認しながら用量を調節してきます。また、甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン製剤を使った治療を行います。これは妊娠中も服用できる薬です。妊娠の週数によって必要なホルモン量が変わるので、きめ細やかに対応させていただきます。
妊娠中のバセドウ病の患者さまの場合、お子さまに甲状腺機能亢進症や服用中のお薬の影響が出る恐れがあるため、妊娠のタイミングについても治療を進めながらご相談に乗っていきます。きちんと治療してコントロールできていれば、出産も授乳も問題なくできますので、ご相談に乗ることで患者さまの不安を軽減できればと思います。
妊娠と甲状腺ホルモンは関係が高いと言われています。不妊治療をされている甲状腺機能低下症の方は、ホルモンをしっかりと補充して甲状腺機能を正常な状態に保つことが大切です。
甲状腺機能亢進症は、活動的になるため、かえって病気の自覚を持ちにくいといったこともあるかとは思いますが、「今までとは身体の調子が違う」と感じたら、まずは受診していただきたいですね。倦怠感や疲れやすさも、もしかすると甲状腺機能低下症が原因で生じているかもしれません。何か不安に感じることがあれば、一度、ご相談に来ていただければと思います。検査をして問題がなければそれでいいですし、もし何か治療が必要な疾患が見つかった場合には、一緒に治療をしていきましょう。