今泉 太郎先生(日本消化器病学会認定 消化器病専門医)にインタビュー
工場のような働きをする肝臓に興味を持ち消化器内科の道に進む
高校のクラスメートたちがスポーツや文化活動を楽しんでいる中で、一人、受験勉強を頑張らなければいけないのは大変でしたが、患者さまのために働く医師の仕事は自分には向いていたので、この道に進んでよかったと思っています。
消化器内科の道に進んだのは、ニーズの多い診療科目なのではないかと思ったことと、カメラが好きだったので内視鏡に携わりたいと思ったのがきっかけです。また、肝臓に興味を持ったのも理由のひとつでした。食物から吸収した糖・たんぱく質・脂肪を身体で使える形へと変えて貯蔵し、アルコールや老廃物など不要なものを分解して排出する工場のような肝臓という臓器に魅力を感じたのです。
大学院で学位を取得した後は、船員保険の加入者の方を対象に、全国をバスで回り健診を行っていました。健診ですので、正常な方の検査結果を多く見る機会に恵まれ、勉強になったと感じています。全国津々浦々のさまざまな方たちとふれあいながら、医師だけではなく臨床検査技師や事務スタッフとも、密に連携を取りつつ業務を行っていたので、診療をしていく上での視野が広がる経験ができたと感じています。
大阪市中央区道修町はオフィス街ですので、ご来院される患者さまは地域にお住まいの方だけではなく、近隣で働いていらっしゃる方も多いです。肝機能異常を健診で指摘されたという方も多くいらっしゃいます。肝臓はサイレント・オーガン(沈黙の臓器)とも呼ばれ、C型肝炎も慢性肝炎の場合は、自覚症状がほとんど現れません。しかし、治療をせずにいると肝硬変、肝臓がんへと進行するリスクがあります。早期治療が大切ですので早めに受診していただきたいと思います。
胃、腸、肝臓など消化器疾患は、生活習慣が原因で起きている病気も多いため、生活習慣の改善のサポートをしていきたいと考えています。あくまでも主役は患者さまですので、サポート役を務めていきたいですね。
薬の処方だけではなく生活習慣の改善も合わせて指導することに力を入れる
肝機能の異常を指摘されてご来院された方には、血液検査、超音波検査を行います。血液検査でウイルス性の肝炎かどうかを確認し、超音波検査で肝臓の状態を確認します。超音波検査で気を付けているのは、脂肪肝の程度の確認に加え肝臓がんを見落とさないようにすることです。NASHの疑いがある場合には連携の病院をご紹介しています。
脂肪肝を改善する薬は今のところないため治療の基本は生活改善です。過食や夜遅くに食事を取る習慣がある方には、カロリーを減らすことと、夕食は軽めにして朝しっかりと食べるように改善のご提案をしています。
逆流性食道炎の原因の多くは、脂っこい食事や寝る直前の食事、寝る時の姿勢といった生活習慣です。そのため、薬を処方するだけではなく、生活習慣の改善も合わせてご提案しています。肥満の男性の方に多く見られる病気なので、肥満がある方はダイエットもしていただきます。寝る時に横を向くと症状が改善される方もいらっしゃるので、横を向いたままの姿勢を保持できるように、抱き枕の使用もご提案しています。生活習慣を変えることによって、症状が改善されたりお薬を減らせたりできるのは、内科診療の醍醐味だと思いますね。
慢性胃炎の中には、ピロリ菌感染が原因で起きるものもあり、治療せずに放置していると萎縮性胃炎、さらに胃がんに進行する恐れもあると指摘されています。ピロリ菌感染は、胃内視鏡検査によって確認し、感染が確認された場合には除菌治療を行うことができることをご案内しています。
また、胃もたれや胃の不快感といった症状は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍が原因で起きていることもあります。黒い便が出ている場合や、血の臭いがする場合には、早めに胃内視鏡検査が可能な医療機関をご紹介します。胃の不快な症状に関してお薬の処方はいたしますが、改善しない場合は何らかの病気が隠れている可能性を考え、見落とさないためにも胃内視鏡検査をご提案するようにしているのです。
地域の皆さまの健康をサポートするため病気の早期発見や予防に注力する
内視鏡を使えば、この消化管の様子を直接、観察することができますので、がんをはじめ病気の早期発見のためにも内視鏡検査がもっと一般的な、誰もが気兼ねなく受けられる身近な検査になることを願っています。当院は、残念ながらスペースの関係で内視鏡を導入することができなかったのですが、内視鏡検査に対応している医療機関と連携して、すみやかにご紹介できるようにしています。
脂肪肝のNASHは、確定診断をするには肝生検が必要です。現在は、まだ開業医では確定診断が難しいのですが、よい薬ができて、我々でも治療できるようになれば防げる病気も増えると思いますので、今後の医学の進歩に期待しています。
健診のバスで全国を回った時には、医学部時代に学んだ診断学を学び直すような経験をすることができました。生活習慣についてのアドバイスをするという点でも、とても勉強になりましたね。
ボルネオ島で半年、診療を行っていたこともあるのですが、さまざまな国の方とふれあい、いろいろな方の意見を聞くという経験ができました。
私は、父によって医師の道へと導かれ、今、息子も内科の医師として働き始めました。息子は、膠原病やアレルギー疾患などを中心に診療しています。もし、将来的に本人が希望すれば、この場所で地域の皆さまを引き続き診ていってもらえたらと思います。
病気の治療にはお薬ももちろん必要ではありますが、生活習慣を変えることで改善される症状も多く、生活習慣に気を付けることは病気の予防にもつながります。私は、健診のために全国をバスで回っていた時から、さまざまな生活習慣のアドバイスを行ってきました。生活習慣の改善によってお薬に頼らなくてもよい身体を作ることは、今も私のテーマです。「日本消化器病学会認定 消化器病専門医」として、夜遅くに食事を取らない、脂っこい食事を避けていただくといった具体的なアドバイスを行うことで、今後も皆さまの健康維持のサポートをしていければと思っています。