秋山 美博先生(日本小児科学会認定 小児科専門医)にインタビュー
「問診・視診・触診・打診・聴診」の5診による、一人ひとりに合わせた治療
また、小児科の場合、症状があるのはお子さまですが、実際にケアをするのは親御さまであることがほとんどです。そのため、「小まめな爪切りで指先を清潔に保つことも大切ですよ」といったアドバイスや、薬を塗る量や回数に関するご指導などは、分かりやすく具体的にするよう心がけています。
小児科でアトピー性皮膚炎の相談をするメリットは、皮膚の表面だけでなく、内臓や全身を含めた総合的な診察が受けられることです。5診を基本に、多方面からお子さまを見た治療によって、2年ほど悩まれていたアトピーが2週間で落ち着いた時には、親御さまからずいぶんとお喜びいただけ、私としてもとてもうれしかったのを覚えています。
この病気の特徴は、朝起きた時には体調が悪く幼稚園や学校へ行けなかったのに、夜には血流が良くなって元気になるという点です。お子さまは本当のことを言っているのに、親御さまに仮病を疑われて怒られるといった、かわいそうな事態を引き起こす可能性があります。こういった行き違いから、お子さまが反抗的になったり、不登校になったりと、二次的な問題にもつながっています。
治療は、主にお薬の服用で行います。朝目が覚めてから起き上がる30分前に、唾液で溶ける錠剤を服用することで、脳に血流がめぐるようにするというものです。起立性調節障害の方は睡眠障害を併発しやすいので、患者さまによっては睡眠指導も行っています。
また、舌を押さえられると「おえっ」となる嘔吐反射によって、喉を見せるのが苦手なお子さまもいらっしゃいますよね。その場合は、まず自分で舌を出す技術を身に付けてもらっています。あとは、お口を「あ~ん」と開けるのではなく、「えー」と発声しながら開けてもらうと、嘔吐反射が起こりにくくなります。そうしてお口を開けてもらったすきに喉や口内の状態を瞬時に確認することで、お子さまにリラックスしてもらいながらも大切な情報を見逃さないように心がけています。
「つらいのはお子さま本人」と考え、お子さまの気持ちに寄り添った対応を重視
それらに対し、例えばおねしょをする時間が早く、尿崩症というホルモンに関わる病気の場合は、薬剤を処方します。また、お水を飲みすぎているのであれば、夜寝る前に水分を取らない、食事を薄味にするといた食事指導をするなど、臨機応変に対応をしています。
夜尿症に関しては、「おねしょは恥ずかしい」というイメージから、お子さま自身も悩まれていることがほとんどです。親御さま同士は相談できても、お子さま自身は誰にも相談ができず、自尊心が傷ついた状態でいるケースも多いと思います。だからこそ、お子さまと目線を合わせた診療を心がけて、精神的なフォローをしてあげることを大切にしています。
ADHDは薬剤で治療ができますが、実際に治療に携わって感じたのは、「苦しいのはお子さま自身だ」ということでした。授業中に歩き回って学級崩壊を起こしているお子さまも、本当は人の話を聞きたいし、授業も受けたいと思っているケースが多いのです。その状態から、きちんと座って授業を受けられるようになり、勉強が理解できるようになったと伺った時には、治療の重要性を再確認しましたし、もっと医師として勉強していくべきだと感じました。
最終的に小児科の道に進むことを決めたのは、私自身子どもが好きだったからです。選んだ当初は、小児科は小さなお子さまに対し細かな処置をするため、恰幅の良い私にはそれができないのではと周りから言われ、悔しい思いをしたこともあります。その悔しさをばねに、自分の手で点滴や採血の練習に励んだおかげで、注射は今でも強みの一つです。医療の基本である5診を大切にしているのも、当時の影響があったからですね。
医師としてだけでなく、時にはお子さまと目線を合わせて友達のように接する
私が経験した中でもヒヤッとしたのは、お腹の痛みを訴えるお子さまに違和感があっておむつを外したところ、実はヘルニアだったというケースでした。内科に行って下着を脱ぐことはほとんどないと思いますが、小児科の場合は身体のすみずみまで確認して、病気を見つけ出す必要があることを実感しましたね。
とはいえ、最初から細かな検査をする必要はないというのが、私の考えです。お子さまにとって、採血やレントゲンはとても怖いものですから、むやみにおびえさせたくありません。まずは5診で治療できるところまで対応して、疑問に感じる部分があれば検査をするという流れを心がけています。
そこで、「ゲームで勝ったら安静にしてくれる?」と約束を取り付け、ゲーム機を秋葉原で購入して一晩やり尽くして対戦を挑みました。その結果、1-2の接戦で勝利して安静にしてくれるようになったのです。小児科の医師は自分も含め、どこか幼稚な部分があるように思いますが、だからこそお子さまの目線に合わせた診療ができるのかもしれませんね。
本人には余命を伝えていなかったのですが、その子が亡くなった後に枕の下から出てきた手紙に「自分の寿命に気が付いていたこと、2年も生きられて嬉しかったこと」がつづられていたのが、また印象深いできごとでした。
また、スマホやタブレットでさまざまな育児情報を見られるようになった影響からか、「子どもを他人のように見ている」親御さまが増えている印象があります。例えば、お子さまを見る時に、上から見下ろすことが基本スタイルになっていないでしょうか。その状態だと、残念ですがお子さまからは鼻の穴しか見えません。大人であっても、目線が合わない相手と良い関係は築けませんよね。良い親子関係を築いていくためにも、ぜひお子さまと目線を合わせることを大事にしてあげてください。