
平井 良治先生(日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医)にインタビュー
診断から手術まで一人で担当できることに魅力を感じ耳鼻咽喉科の道に進む
数ある診療科目の中でも、耳鼻咽喉科の道に進んだ理由は、そのフィールドの広さに魅力を感じたからです。耳、鼻、のど、首に関する疾患を、最初の内科的な診察、診断から始まって、外科的な手術、アフターフォローまで、一人の医師が担当できるのです。一人の患者さまを一貫して、最後まで診ることができるという点に魅力を感じて、耳鼻咽喉科を選びました。
医学部を卒業した後は、日本赤十字社医療センターで臨床研修を行いました。母校の日本大学の医局に属し、一般的な耳鼻咽喉科疾患や、頭頚部の腫瘍やがんについて学んだ後、中耳と味覚障害を得意としている先生に師事して、中耳疾患や味覚障害についての研究、ガイドラインの作成に携わらせていただき学位を取得しました。その後、のどや声を得意とする先生について、のどの手術の経験を数多く積ませてもらってから、米国・ピッツバーグ大学(UPMC)の「Voice Center」に留学し、のどの違和感や声がれの研究にあたっていました。
帰国してからは都立広尾病院に出張し、一般的な耳鼻咽喉科疾患を幅広く経験させていただき、その後、日本大学医学部附属板橋病院で耳管疾患の治療にあたり、難治性耳管開放症に対する治療機器、耳管ピンを入れる手術にも従事させていただきました。
クリニックでは、耳管疾患の治療に力を入れています。耳管開放症は、つらい症状が起こるものの周りからは理解されず、対応している耳鼻咽喉科も比較的少ない疾患です。そのため、耳管開放症の方は、遠くからいらしてくださる方も多く、関東圏外からご来院される方もいらっしゃいます。
「日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医」を取得したのは、耳鼻咽喉科の医師であれば当然取得するものと思っておりますが、資格を維持するために継続的に研鑽を積んでいくことになりますので、スキルアップを続けていくためにも取得してよかったと思います。
治療を行う際には、モニターを三面に設置し、リアルタイムで患者さまにも見ていただけるようにしています。医師から口頭で説明するだけではなく、患者さま自身にも現状を把握していただきたいと思い、どこを向いてもモニターが見えるようにしています。
得意とする耳管疾患では耳管ピン挿入術をはじめさまざまな治療法を提案
症状がいつも現れる疾患ではないので診断が難しい疾患ではありますが、当クリニックでは、問診で自覚症状を伺うほか、ゴム管(オトスコープ)を耳に入れ発声していただき声の響きを聞いたり、鼓膜や上咽頭の状態の確認、聴力検査、耳管機能検査、座位CT検査などを行い、総合的に判断しています。座位でCT検査を行うのは、耳管開放症が頭を下げたり、横になったりすると、症状がおさまることが多いためです。
症状の現れ方は人それぞれです。一時的な症状ですぐにおさまる方もいれば、長く症状が続く方もいらっしゃいます。治療は、重症度に応じて選択します。まずは生活習慣の指導、点鼻療法、漢方療法などから始め、これらの保存療法で改善しない場合は、耳管ゼリーを使った耳管処置、耳管ピン挿入術、鼓膜換気チューブ留置術といった手術療法などを個々に選択し治療を行います。
鼻水、鼻づまりなどの症状でアレルギー性鼻炎が疑われる方には、鼻鏡検査、血液検査、鼻汁好酸球検査などを行います。鼻汁好酸球検査とは、鼻汁の中に含まれる好酸球を確認する検査です。アレルギー性鼻炎であれば、鼻汁の中の好酸球が増えていることが確認できます。アレルギー性鼻炎の方の中には、副鼻腔炎も併発している方が多いので、鼻鏡で鼻の中を確認した後、副鼻腔炎が疑われる場合には、CT検査を行います。
お薬を使わないに越したことはないので、治療では、まず生活指導を行うことを大切にしています。埃やダニなど、アレルゲンに曝されない生活を送るようにすることが大切です。その上で、内服薬、鼻スプレーなどの対症療法、レーザー治療、舌下免疫療法などを行います。また、重症スギ花粉症の患者さまには、抗IgE抗体注射治療も行っています。
副鼻腔には、前頭洞、篩骨洞、上顎洞、蝶形骨洞がありますが、このうち上顎洞に炎症を起こす上顎洞炎は、根尖性歯周炎のような歯の病気が原因で起こる場合があります。歯周病を引き起こした細菌が上顎洞に入り込んで炎症を起こすので、なかなか改善しにくいのです。CT検査では、歯根の状態も見ることができるので、炎症の原因も確認して、治療にあたることができると思います。
また、好酸球性副鼻腔炎という難治性の副鼻腔炎も、診断にはCT検査が有用です。当クリニックでは、好酸球性副鼻腔炎の診断項目である血中の好酸球を測る血液検査も必要に応じて行っており、約10分程度で結果をお伝えしています。
診断がつかず困っている方に、これまでの経験を活かして力になれる医師
クリニックを受診された時に症状が出ていなかったとしても、さまざまな耳管疾患である可能性があるのですが、その辺りを判断するのが難しい病気なんです。診断した疾患と個々の耳管やその人の生活にあった治療方法を選ばなければなりません。まだまだ検査一つとっても不十分なところもあります。そこが、耳管疾患の課題でもあると思います。これまで、耳管疾患を診てきた経験や検査を活かして、診断がつかずに困っている方たちの力になれたらと思っています。