小西 将矢先生(日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医)にインタビュー
中学時代、手術で症状が改善されたことに感銘を受け耳鼻咽喉科の医師に
耳鼻咽喉科の中でも、特に私は耳の手術を得意としていますが、耳の手術は耳鼻咽喉科で行う手術の中でも難しい手術のひとつとされています。耳の奥というのは、とても狭いスペースに重要な構造物が詰まっている器官なので、繊細な手技が必要とされるためです。コンマ何ミリの違いで、結果が大きく変わってしまうような、指先の細やかな技術が必要とされる領域です。その難しい手術を自ら行えるようになれば、これまでは改善が難しいと言われていた患者さまの助けとなる可能性があります。加えて元々大学院時代にも研究で顕微鏡下で細かい手技の仕事をしておりましたので、耳の術者への憧れは強く持っておりました。
日本の先生もイタリアの先生も、とても尊敬できる方ですが、自ら手取り足取り指導をするタイプの先生ではありません。自ら学びたいという姿勢をアピールして手術の助手に入り、手術を見て技術を盗むしかないのです。ただ指を咥えて見ているだけでは、そのうち空気に近い存在になり助手にすら選ばれませんし、技術は身に付きません。助手に入り間近で師匠のスキルを見て「自分だったら次はこうする」と考えながら、自分の予測と師匠の動きがシンクロした時に初めて壁を越えられたような気がしました。
当院の日帰り手術は全例局所麻酔での手術をおこなっております。手術をする側としては全身麻酔の方が体動も無く時間もさほど気にすることなく、楽はさせてもらえるのですが、患者さまの体にとっては日帰りの局所麻酔の方が低い侵襲ということになります。短時間できっちり目的を果たさなければならず、鎮静・鎮痛のコントロール、手術中の全身管理、出血や手術による副損傷のリスク管理、個々の解剖の把握など全てにおいて、それ相応の技量と経験が要求される領域だと感じております。
もちろん患者さまは、症状の改善を求めてご来院されますので、望む結果を出すことが大切です。患者さまが望む結果を残せた時がやりがいを感じる時ですが、中には再手術に至るケースも少ないながらあります。特に再手術のような難治性の高い患者さまが良くなられた時は術者として嬉しい限りです。
(※)日帰り手術は経過観察のため術後の通院を要します。
慢性副鼻腔炎、滲出性中耳炎、真珠腫性中耳炎などの日帰り手術に対応する
慢性副鼻腔炎の場合、難治性の高い好酸球性副鼻腔炎というポリープの再発性が高い病気があります。特に好酸球性副鼻腔炎の場合、手術で病的空間の開放が不十分であれば再発性が高くなると言われており、再発しにくい手術を心がけております。手術を航海に例えると、レントゲンCTは地図、硬性内視鏡システムは裸眼では見えない部分を照らす望遠鏡です。大出血や手術による副損傷を避けるため、術前にしっかりと地図(レントゲンCT)を読み、望遠鏡(内視鏡)で確認し、より安心して航海(手術)ができるように努めております。
鼻づまりや嗅覚障害で悩んでいた方が、手術によって鼻の通る感覚や臭う感覚を体験されると本当に嬉しそうなお顔をされ、医師としても嬉しく、やりがいを感じます。臭いに関しては改善が難しい方もおられますが、少しでも改善するよう、新しい知識を取り入れる努力や、精神的なサポートもしていきたいです。
子供の滲出性中耳炎の多くは一時的ですが、治らないケースもあり、その背景は鼻の奥の扁桃腺肥大(アデノイド増殖症)によることが大きいとされています。当院は、聴力検査、ティンパノメトリー検査(鼓膜の検査)に加え、顕微鏡・内視鏡システムも備えていますので、正しい診断のもとで必要であれば手術をいたします。投薬治療から始め、改善が見られない場合に鼓膜チューブ挿入術を検討します。最近の国内外の知見で滲出性中耳炎において鼓膜切開は推奨されておらず、当院でも推奨しておりません。
お子さまの鼓膜チューブ挿入術の場合、通常は全身麻酔での手術ですが、「音がするけど動かず頑張れるかな?」という私の説明が理解でき、恐怖心はあってもじっとすることができれば、部分麻酔(液体の浸潤麻酔)による手術が可能です。私とお子さまとの信頼関係のもと、対応できるお子さまかしっかりと見極め、手術をおこないます。
癒着性中耳炎の段階であれば、鼓膜切開術、鼓膜チューブ挿入術で改善が可能な場合もあります。鼓膜に穴が開いて耳だれを繰り返す慢性化膿性中耳炎の場合、顕微鏡・内視鏡システムを使って観察しながら手術をおこないます。投薬での保存的治療で改善が見られないようであれば穴を塞ぐ手技や手術も早期に検討し、ご提案しております。
真珠腫性中耳炎は、保存的療法で進行を止めることができないため、鼓室形成術という手術をおこなう必要があります。大学病院での僕のライフワークの一環であったため、これまでの経験を活かして可能であれば日帰り手術(※)で対応しております。ただし、真珠腫性中耳炎は、高度病変の場合には日帰り手術での対応は困難となりますので、病状を見極めた上で必要であれば全身麻酔での加療をご提案しております。
(※)日帰り手術は経過観察のため術後の通院を要します。
目指すのはパラダイムシフト。日帰り手術が受けられることをスタンダードに
現在も、大病院から日帰り手術(※)をご希望の患者さまが当院にご紹介されていらっしゃることがあります。日本でも少しずつ、入院せずに手術を受けられることが一般的になっていくことでしょう。加えて、入院が減ることは、医療経済面や大病院の病床確保の面からも有益です。
医療機器の進歩が、日帰り手術を可能にしております。高精細なCT画像、見えないところを精巧に見させてくれる内視鏡システム、病的部位を処理してくれる手術機器などと、術者のスキルが調和して日帰り手術が可能となります。そして、これらの機器や薬の進歩が、日帰り手術を耳鼻咽喉科のスタンダードな治療へと近づけてくれるものと確信しております。
(※)日帰り手術は経過観察のため術後の通院を要します。
また、大学病院や総合病院では待ち時間が長いこともあるので、受診することが患者さまにとってご負担になることも多いのではないかと思います。患者さまの負担を軽減するために、大学病院まで行かなくても、身近な開業医のレベルで、高度な医療が受けられるような環境を整えることを目指していきたいですね。CTや顕微鏡・硬性内視鏡システムといった機器を導入しているのもそのためですし、できるだけ入院せずに手術が受けられるように努めているのも、患者さまの負担に配慮してのことです。
機能的に手術をしても改善が難しいという疾患の患者さまも一部いらっしゃいますが、こういった患者さまに対してのサポートが、医師にとって本当の課題です。少しでも改善できるように、日々研鑽を続けていかなければなりません。また、手術による治療や改善が難しい場合は精神的なサポートにも力を入れなければならないと考えています。
患者さまに笑顔になっていただくことは、我々医師にとってのやりがいにつながります。耳や鼻について悩んでいる方は、気兼ねなくご相談いただきたいと思います。また、治療方針について悩んでいる方にも、アドバイスさせていただきますので、気兼ねなくご相談ください。