
奥山 裕司先生(日本循環器学会認定 循環器専門医)にインタビュー
不整脈とイオンチャネル、腎動脈内アブレーション治療の研究などに注力する
医学部に進んでから、大学時代の前半はフィギュアスケートに打ち込んでいました。2回転ジャンプを跳んでいましたね。当時のコーチは、今は患者さまとなってクリニックに通院してくださっています。
大学時代の後半は、勉学に励み、最前列の席に座って講義を聴いていました。当時はまだ、循環器内科に進もうとは思っておらず、病理学や放射線科など、病気の診断に対して興味を抱いていました。循環器の道に進もうかと考えたのは、研修医になってからのことです。研修医2年目からは大阪警察病院で不整脈、心不全、虚血性心疾患といった循環器の診療に従事しました。
その後、大学院に進学し、イオンチャネルに関する研究を行いました。イオンチャネルというのは、細胞の生体膜に存在するイオンの通り道となるタンパク質のことです。イオンチャネルは心筋の電気活動に関与していますが、この電気活動の乱れによって生じるのが不整脈なのです。2000年からはアメリカ合衆国のロサンゼルスに留学し、2年間、心臓に関するさまざまな実験や研究を続けました。
約29年間、大学病院や総合病院で、不整脈をはじめ、心不全、虚血性心疾患といったさまざまな循環器疾患の診療に従事してきましたが、今後は、地域の患者さまに、より健康になっていただきたいという思いから、2018年5月に当クリニックを開業しました。和泉市立総合医療センターの近くで、さらに幹線道路沿いという利便性のよい場所がたまたま見つかったので、総合病院と連携を取りながら地域の皆さまのかかりつけとして診療ができるのではないかと考えたのです。
クリニックには、健診で心電図や脂質などの異常を指摘されたという方や、不整脈の不安を抱えた方が多くご来院されますね。時には、お待たせしてしまうこともあるかもしれませんが、できる限り丁寧な診療を心がけています。
大切なのは心筋梗塞や脳梗塞を予防するために治療を継続すること
問診とホルター心電図検査を行い、狭心症が強く疑われる場合は近隣の総合病院で冠動脈CT検査を受けていただいています。必要に応じて狭くなった冠動脈にカテーテルでステントを入れて血管を広げるステント治療を行います。
動脈硬化は、心臓だけに起こっているわけではありません。ステント治療を行うことで、ステントを入れた冠動脈は広がります。しかし、全身の動脈硬化自体が改善されたわけではないので、同時に動脈硬化にブレーキをかける治療を行う必要があります。狭心症の治療を行う際は、心臓だけではなく全身を注意深く診ることが大切です。
血管年齢検査を行って、動脈硬化の状態を把握すると共に、高血圧や脂質異常といった動脈硬化を悪化させる因子があれば、治療や指導を行って心筋梗塞を予防していきます。
心筋梗塞は繰り返さないように予防していくことが大事です。弁膜症であれば心臓弁置換術という人工の弁に交換する手術をしなければならないこともありますが、あまりに早く手術をすると生きているうちにもう一度手術を行わなければなりません。ふさわしいタイミングを見定めることが大切なのです。検査を行うことはもちろんですが、問診もタイミングを評価するにあたっては重要な項目です。患者さまの訴えに耳を傾けるだけではなく、具体的に何をした時に胸が苦しくなるのか症状を掘り起こすように聞いていく必要があります。
また、血圧が高い状態が続くと心臓への負担が大きくなります。塩分を取りすぎると、身体の中に水分が溜まりやすくなり、足のむくみや肺に水が溜まる原因となります。心不全を予防するために具体的にわかりやすい例を挙げて説明しています。
心房細動が起こる確率を下げるためには、高血圧、糖尿病などをしっかりと治療していく必要があります。また、すでに心房細動が出てしまった方は、持病の治療を強化するとともに、脳梗塞予防対策が必須となります。それぞれの方に適した抗凝固薬を提案するよう努めています。
心房細動はカテーテル治療を行っても、本当の意味での根治は得られません。もちろん従来の薬物治療に比べて優れた面がいくつもありますが、早くやれば治ってしまう“魔法の治療”ではないということです。
痛みなどの症状がありそれを改善するための薬であれば、患者さまも薬を飲み忘れることは少ないのですが、症状がほとんどない状態で予防のために薬を飲むのはモチベーションを維持しにくく、薬を飲み忘れてしまうことも多いものです。患者さまにはなぜ薬を飲む必要があるのかを理解していただくような説明をするように努めています。
「日本循環器学会認定 循環器専門医」の役割は標準的治療を提供すること
今後、科学の進化によって、AIが診断を下す時代が訪れるかもしれません。しかし、医師が行う実際の診療はAIのように画一的ではないのです。本来、AIか人間の医者か、ではなく、互いに補い合って良い治療に結びつけていくものだと思います。AIの強みもあれば、人間の医者の強みもあるわけです。私は患者さまとコミュニケーションをはかりながら、個別に治療方法を提案するように心がけています。例えば、薬を飲み忘れた時にどのように注意を促すかといったことも、患者さまの性格に合わせて行っているのです。慢性疾患で長く通院されていれば、個性に応じた診療が可能になるのです。
一つの課題は、循環器疾患は外科的処置を行った後も継続的に予防的な治療を続けていく必要があるのですが、それがなかなか患者さまに伝わっていないということです。例えば、心房細動のカテーテルアブレーション治療を行ったとしても、脳梗塞を起こすリスクがなくなるわけではないので、脳梗塞の予防薬を飲み続けていただきたいのですが、やめてしまう患者さまもいらっしゃいます。冠動脈疾患のステント治療を行ったとしても、動脈硬化が改善されたわけではないので、心筋梗塞を予防するために高血圧やコレステロール値などをしっかりとコントロールしていく必要があるのです。こういった誤解が生じているのは、きちんと患者さまに伝えていない医師の側に問題があることだと思います。
循環器疾患は手術や処置を行った後も、脳梗塞や心筋梗塞の予防を必要とします。そのため、継続的に生活習慣の改善を行い、薬を飲み続けていかなければなりません。患者さまが標準的な治療を続けていけるように、日本循環器学会認定 循環器専門医として伴走しながらサポートしていきたいと思います。心臓や血圧について何か不安なことがあれば、気兼ねなくご相談ください。