
福島 邦博先生(日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医)にインタビュー
乳幼児の難聴の研究に従事してきた経験をもとに児童発達支援事業も展開する
研修医になってからは、耳鼻咽喉科の中でも頭頸部がんの診療に携わり、同時に大学院生として遺伝子を使ったウイルス発がんの研究をおこなっていました。
大学院を卒業した後、米国アイオワ大学に留学し、がん研究で培った遺伝子のテクノロジーを使った難聴の研究に従事したことで、その後難聴に深く関わることになりました。
ただ、元々岡山大学で臨床研修をおこなっていた当時、週に一回は難聴児通園施設に足を運んで、ABR(聴性脳幹反応検査)等の検査で、聴覚に障害のあるお子さまたちとはずっと関わっていました。研修医として厳しいがんの手術に立ち会う日々の中で、お子さまたちとのふれあいは心の安まるひとときでもありました。
帰国してからは、岡山大学病院に勤務し、耳の手術、特に人工内耳の埋め込み術に従事しました。補聴器での改善が難しい難聴のお子さまたちに人工内耳を埋め込み、聞こえるようにサポートする手術です。音声によるコミュニケーションが可能になり、多くの方に喜んでいただけたと思います。
また大学在職中は、聴覚障害児の言語能力の発達に関する研究のほか、新生児聴覚スクリーニング検査を日本の社会に導入する時に、お子さまやご家族のサポートを行うためのロードマップの考案にも携わってきました。こうした子どもの難聴の分野は、近年大きく進歩した医療ですが、その意味では、少しだけですが「教科書を書き換える」お手伝いが出来たと思っています。
地域医療を担う医師として、「やさしい心」を持って患者さまに寄り添うことを大切に診療していきたいと考えており、お子さまが泣かずに受診できる耳鼻咽喉科を目指しています。お子さまの認知能力に合わせ、処置や検査について、お子さま自身にわかるように語りかけ、説明するようにしているんです。
現在は、クリニックのほかにも児童発達支援事業や放課後等デイサービス事業を展開しています。難聴のお子さまを中心に、発達障害、学習障害のお子さまたちに対してもさまざまなサポートに取り組んでいます。聴覚検査に加え、言語発達検査や認知発達検査によって、お子さまの苦手なポイントがどこなのかを明らかにし、それぞれの発達状況に合わせ、言語聴覚療法に基づいたプログラムを準備し、勉強してもらうようにしています。
お子さまの治療の際にはわかる言葉で話しかけて不安を和らげることを目指す
一見、突発性難聴のような症状が現れていても、実はよく似た別の病気のこともあります。きちんと診断をして、適した治療に誘導する必要があります。例えば、外リンパ瘻や、上半規管裂隙症候群等であれば手術によって改善できることもあるのです。
検査の結果はもちろん大事ですが、「どのような経緯で難聴になったのか」という検査だけでは表に出てこないストーリーの方がよほど重要な場合があります。そこで、問診を大切にし、問診に基づいた診断をおこなうようにしています。また、めまいや耳鳴りは、強い不安や恐怖をひき起こすことがあり、恐怖や不安感から気分が塞いでしまう方もいます。こうした心理的な反応も含めて、患者さまの「困った事」に寄り添った対応が大切だと考えています。
耳鳴りの症状には、TRTを取り入れた治療をおこなっています。耳鳴りが生じるメカニズムを丁寧に説明し、理解が進む事によって耳鳴りと不安感を切り離して考えられるようにしていくことが目標です。必要な場合には補聴器や、それに類する機器を用いて、耳鳴りの音に順応していただくことで、耳鳴りが生活の上での支障にならなくすることが治療の目標です。
どこに介入すれば患者さまのお悩みが改善できるかということを、いろいろな視点から考えてご相談に乗るように心がけています。
1歳頃のお子さまは中耳炎を再発することが多いのですが、3歳頃になると再発の頻度が減り、6歳を過ぎるとほとんど再発することがなくなります。6歳を過ぎ中耳炎を卒業する頃に後遺症にならないような治療をすることが大切です。また、中耳炎を繰り返している場合には、そのことでお子さま自身や親御さまが振り回されないようにしてあげることも大事です。
お子さまの治療の際には、不安を少しでも和らげられるように、理解できる形で話しかけ、手に取り、目で見て判断できる様に誘導しています。その上で、治療に対して前向きになるように本人の「頑張り」はしっかり褒めてあげます。治療を経由して、本人の自尊感情と、医療に対する肯定感を育てるように心がけてい ます。
クリニックとして目指すのは、「やさしく寄り添う」医療を提供すること
そのほか、嚥下障害、嗅覚障害、めまいなどに対してもリハビリテーションをおこなっていく必要がありますね。ご年配の方で、めまいの症状に悩まれて、そのまま外出しなくなってしまう方がいらっしゃるんです。ふらつくから歩けない、歩かないから筋力が落ちる、筋力が落ちるからさらに動けなくなるという負のループに陥ってしまう方も、中にはいらっしゃるんですね。このように、めまいが原因で動けなくなってしまった方に、不安なく歩いていただくようにするためには、やはり耳鼻咽喉科でのリハビリテーションが必要だと思います。
しかし、その一方で、地域医療に従事する者としては、目の前にいらっしゃる地元の患者さま方のニーズに応えていくことがとても大切だと思うのです。例えば、お子さまの鼻づまりがひどくて夜中に起きてしまう、鼻水がなかなか止まらないといった、ちょっとした日々のお困りごとに対して、ひとつひとつ大切に、丁寧に対応していきたいと考えています。地域の皆さまが日々の生活に困らないように、助け船を出すというのが、地域のクリニックの立ち位置だと考えています。そういったちょっとしたお悩みを気兼ねなく相談できるような存在でありたいと思いますし、そこはクリニックとして大切にしていきたいところですね。
日々、研鑽を積み、新しい知識を取り入れながら、地域の皆さまに寄り添うようなやさしい診療を提供していきたいと考えています。
小さなお子さまにとって、クリニックというのは怖くて不愉快なところだと思うので、お子さまの診療をする時には、お子さまの理解度に合わせてきちんと説明をすることで、不安を和らげていきたいです。
些細なことでも不安がありましたらご相談いただいて、問題を改善する手だてを一緒に見いだしていけたらと思います。お困りのことがございましたら、何でも相談にいらしてください。そういった準備を怠らないことで、そのお子さまが成長した時、医療に対して不信感を抱かないようになるのではないかと考えています。
大人の患者さまに対しても、内視鏡画像のように目で見てわかる情報を示しながらわかりやすく説明することを目指しています。ご自身の病気に対して理解していただき、それによって不安を解消できるような医療を提供するように努めています。
お困りのことがございましたら、何でも相談していただきたいですね。ご相談いただいて、問題を改善する手だてを一緒に見いだしていけたらと思います。