
田中 基晴先生(日本肝臓学会認定 肝臓専門医)にインタビュー
患者さまと同じ目線に立って診療、多くの情報を引き出す問診を大切にする
同居していた祖母は前日まで元気にしていたのですが、翌朝起きて来ずにそのまま亡くなりました。
父方の祖母宅には年に2回(お盆とお正月)遊びに行っていて、元気そのものという状態でした。ところが突然脳梗塞で倒れ、半身不随になったんです。病院にお見舞いに行ったら、それまで元気にしていた祖母がこれまで見たことのない姿で寝ているんです。1カ月ほど寝たきりでそのまま亡くなってしまいました。
どちらの出来事も子供心にもとてもショックなできごとでした。
そういうことがあり、自分が医師になって、祖母のような方たちを救いたいと思ったんです。それが、医師を目指したきっかけでしたね。
ヒントをくれるのは患者さまです。患者さまからより多くの情報を引き出すために、答えがイエス・ノーに限られない、オープンクエスチョンを使って、より多くの情報を引き出すように工夫しています。
また、患者さまには説明に納得して帰ってもらいたいと考えています。内科では、患者さまが中心になって治療を行い医師がサポートをしていく疾患が多いため、難しい専門用語ではなく、わかりやすい言葉で説明することが大切だと思っています。患者さまの方から聞きたいことが聞けるようにすることも大事ですね。
開業してからも、その気持ちは変わりません。勤務医時代よりも、開業医になってからの方が患者さまと接する時間は増えましたね。大学病院や総合病院は、患者さまの数も多いので、ほとんど世間話をする時間はなかったんです。クリニックでは、ご家族の話やペットの話などの雑談を交えて場を和ませ、患者さまも話しやすいと思ってくださるように工夫しています。
検査の結果はデータを見ればわかることですから、それはカルテに書かなくてもいいんです。患者さまと話した話題をメモしておいて、その話を次の診察の時にも振って差し上げると患者さまも喜んでくださるんですよね。話しやすい雰囲気や関係性を作り、患者さまが通いやすいと感じてくださるクリニックになるように工夫しています。
モチベーションを高めるため治療の必要性を実感できる説明を行う
肥満の方の多くは脂肪肝です。しかし、痩せていても超音波検査をしてみると、脂肪肝だったということもあります。肥満のほか、脂質異常症、糖尿病、高血圧症を合併している方も多くいらっしゃいます。
脂肪肝の方には、超音波検査の画像を実際にご覧いただきます。これは、肝臓に脂肪がたまっていると実感していただいて、治療のモチベーションを高めるために行っている工夫です。脂肪肝は生活習慣病ですので、食事療法や運動療法など生活習慣の改善を行うことが大切です。患者さまご自身に意識していただくことが大事なのです。
食べ過ぎや運動不足で余ったエネルギーは中性脂肪として身体にたくわえられます。脂質異常症で中性脂肪やLDLコレステロールが高いと、その中性脂肪は、肝臓にもたくわえられて脂肪肝となるのです。脂質異常症と脂肪肝は、切っても切り離せない疾患です。女性の場合、閉経後に女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下すると、脂質異常症を起こしやすくなります。
脂質異常症は、治療せずにおくと動脈硬化を進行させ脳卒中や心筋梗塞などを起こすリスクが高まるため、生活習慣を見直して脂肪肝と共に治療していくことが大切です。
糖尿病の管理をきちんとすることで合併症の発症を遅らせることは期待できますので、そこはきちんと説明してご理解いただくようにしています。
また、糖尿病の方は脂肪肝を合併していることも多いので、脂肪肝の改善も期待できる糖尿病治療薬を使用して、合わせて治療を進めていきます。
何でも話せるような雰囲気を作り、互いに聞き漏らしのないように工夫する
患者さまを明るく迎え入れるようにとスタッフにも伝えています。クリニック全体で、できるだけ和気あいあいとした明るい雰囲気を作るように心がけているんです。
生活習慣病では、患者さまにご理解いただくような説明を大事にしています。治療を行う主役は患者さまですので、患者さまに合わせ、納得して治療に取り組んでいただきやすいように、説明の仕方も臨機応変に変えています。こちらがある程度先導する方が続きやすいだろうという方に対しては強く説明します。自分でコントロールしていきたいという方であれば、その希望に合わせて自主性に任せるようにしています。
看取りにも対応したいと考えて訪問診療も行っているのですが、ご自宅に伺ってみると、薬を服用していない患者さまもいらっしゃるんですね。内服薬の袋を開けないままの状態で何袋もあったり、インスリン注射薬を何十本もため込んでいたりして、薬を出していることは服用していることとイコールではないと目の当たりにした経験があるので、そこは注意しているんです。
「主治医」というのは、単なる医師ではなく、患者さまの疑問に思っていることや相談に何でも応えられる医師だと考えています。「日本肝臓学会認定 肝臓専門医」、「日本消化器病学会認定 消化器病専門医」として肝臓や消化器の病気について診ていくのはもちろんのこと、かかりつけの医師として自分の専門ではないことにも対応していきたいと思います。それが、患者さまのニーズにお応えすることにもつながるのではないでしょうか。まずお話を伺った上で、疾患によっては対応可能な医療機関をご紹介しますので、まずは何でもご相談していただきたいと思います。