
姜 洪仁先生(日本耳鼻咽喉科学会認定 耳鼻咽喉科専門医)にインタビュー
子どもの頃の将来の夢は小児科の医師。小児を中心に診る耳鼻咽喉科の医師に
とはいえ、勉強一辺倒な毎日を送っていたわけではありません。小さな頃からスポーツは観戦するのもプレイするのも好きでしたね。子どもの頃から少年野球をやっていましたし、中学・高校ではバスケットボール部に所属して、部活にも精を出していました。野球は医学部に進んでからも続けていて、野球部に入っていたんです。
そんな時、副鼻腔炎の手術を受けることになりました。もともと鼻が悪かったのですが、野球部の先輩で耳鼻咽喉科の先生になられた方がいたので相談し、手術を受けることになったんです。その先輩から、「耳鼻咽喉科なら大人だけではなく小児も診られるし、内科的なことから外科的なことまでやれて面白いよ」とアドバイスを受けました。そこで、耳鼻咽喉科も面白そうだと感じて、耳鼻咽喉科に進路を変更することにしたのです。
大学病院で力を入れていたのは、小児の難聴です。先天性難聴のお子さまの中でも、補聴器ではカバーしきれない患者さまに対して、人工内耳埋込術という手術をおこなっていました。また、耳鳴りの診療にも携わっていたので、難聴や補聴器の相談、耳鳴りといった分野に関しては、さまざまな経験を積んできたと思います。
いろいろな経験をすることができたのはよかったのですが、大学病院は研究機関ですので患者さまを診るだけではなく研究もしなければなりません。私は、臨床だけに携わりたいという思いが強かったので、開業することにしたのです。
小児の聴覚検査やTRT療法など勤務医時代の経験を活かした診療をおこなう
鼻水や咳などの症状は小児科でも診療することができますが、耳鼻咽喉科は、診察に加え処置までおこなうことができるのが特徴です。詰まっている鼻水を吸ってあげるだけでもお子さまはだいぶ楽になりますし、耳あかをきちんと取ってから聞こえの悪い原因を確認することも可能です。
当院は、大人の聴力検査機器に加え、小児用の聴力検査機器も備えているので、生後半年から聴力検査をおこなうことができます。おもちゃを使って音への反応を確認する検査です。万が一、先天性難聴が見つかった場合も、総合病院と連携しながら治療や補聴器の相談に乗ることが可能です。お子さまの難聴は、鼓膜の奥に浸出液がたまる滲出性中耳炎が原因の場合もあり、お薬で改善しない場合は鼓膜を切開する外科的処置で浸出液を排出させます。
滲出性中耳炎によって起こる難聴は、伝音難聴です。また、耳あかのつまりで聞こえが悪くなることもありますが、これも伝音難聴の一種です。このように伝音難聴は、治療や処置によって聞こえの改善をすることができます。しかし、感音難聴の中には改善が難しい難聴もあります。感音難聴のひとつである突発性難聴(急性感音難聴)は、早期に治療をおこなえば薬で改善できる場合もありますが、感音難聴の中でも加齢性難聴は改善が難しい難聴です。改善が難しい難聴の場合は、補聴器のご相談に対応しています。
ご年配の方の中には「聞こえなくてもいい」と難聴を放っておかれる方もいらっしゃるのですが、音が耳から脳へと伝わることは脳の刺激にもなるため、とても大切なことです。「聞こえる」ことはとても大事なことで、認知症の予防にもつながりますので、諦めずにご相談いただきたいですね。
当院では耳鳴りをなくすのではなく、耳鳴りに慣れることに主眼を置いた、「TRT療法」をおこなっています。これは、脳を耳鳴りの音に順応させる訓練をすることで、耳鳴りが気にならなくなることを目指す治療方法です。まず、どういった音が耳鳴りとして聞こえているのかを検査で確認し、聞こえている音と似た音を補聴器のような機器で耳に流します。
耳鳴りは、静まりかえった環境の中で気になることが多い症状です。雑踏の中では、周囲の音がうるさいため耳鳴りはあまり気にならないのではないでしょうか。「TRT療法」は、こういった原理を利用し、耳鳴りを意識しないようにするリハビリテーションのようなものです。耳鳴りが気になる方はご相談ください。
目指すのは生活の質を下げる味覚・嗅覚・聴覚に関するお悩みを改善すること
現在、スギ花粉症の治療は、対症療法の内服治療をおこなっています。スギ花粉症の舌下免疫療法や、睡眠時無呼吸症候群の検査や治療などはまだ導入していませんので、機会があれば、こういったものも導入を検討していきたいですね。
また、大学病院では小児の先天性難聴も診ていましたので、お子さまからご年配の方まで幅広い年代の方の補聴器のご相談についても対応が可能です。当院では週に一回、金曜に補聴器相談の日を設けています。まず聴力検査をおこなった上で、2~3週間、補聴器を実際に試していただきます。試した補聴器で聞こえが悪ければ、調整をおこなうか、また別の補聴器を試していただくこともできます。購入後も、定期的なフォローをおこなっています。耳あかの掃除だけで聞こえが改善される場合もありますので、気兼ねなくご相談いただければと思います。
味覚・嗅覚・聴覚といった感覚に起きる障害は、直接命に関わることはありませんが、QOL(生活の質)を落とします。もちろん、耳鼻咽喉科で診る疾患の中には咽頭がんや喉頭がんなど、がんもありますので、これらの疾患を見落とさないことも大切です。しかし、命に直接関わらなくとも、生活の質を落とすような不快な症状は、できるだけ改善して差し上げたいと考えています。
当院では、普段の生活の中で何にお困りなのかということを、しっかりと伺った上で、そのお悩みを改善する方向に持っていければと考えています。耳・鼻・のどについてお困りのことがあれば、ご相談ください。