耳下腺腫瘍とは
耳下腺腫瘍とは、唾液が作られる臓器である「唾液腺」にできた腫瘍のことを指します。
口の中に出る唾液(だえき)、つまり「つば」は唾液腺で作られます。この唾液腺のうち、顔の側面、両耳の前下あたりにある最も大きな唾液腺が「耳下腺」です。
体の他の部分の臓器と同様に、唾液腺にも腫瘍(しゅよう)ができる事があります。頻度は10万人に2人程度と比較的まれですが、唾液腺腫瘍のうち80%以上は、耳下腺にできます(耳下腺腫瘍:じかせんしゅよう)。耳下腺腫瘍の80%は良性腫瘍ですが、一部は悪性の場合もあります。また腫瘍と間違えられやすいものとしては、嚢胞(のうほう:液がたまった袋状の構造物)やリンパ節が、耳下腺の内部で目立つことがあります。
耳下腺腫瘍の症状
耳下腺腫瘍による症状は様々です。耳下腺に腫瘍があれば、下顎の側面や耳の下のあたりに「こぶ」の様な腫瘤や「はれ」を自覚することがあります。何年も前からあるような「こぶ」が最近になって急に大きくなるような症状が出た場合には注意が必要です。ただ、悪性の腫瘤でも非常にゆっくり増大する場合もあるので、大きさが変わらないからといって安心できるとは限りません。
痛みは伴う場合も、自覚しない場合もありますが、特に周辺の組織への癒着(ゆちゃく:くっつくこと)、痛みやしびれ感の自覚、顔面神経麻痺などの神経の症状を自覚する場合も悪性の可能性を考慮する症状です。
耳下腺腫瘍の診療科目・検査方法
診療科目は主に耳鼻いんこう科になりますが、内科、形成外科、内分泌内科でも対応可能です。
最も重要なのが、問診です。腫瘤の経過や、神経麻痺などの症状がないかを確認します。さらに触診を行って皮膚や下顎などの周辺臓器との関連を確認します。また頸部リンパ節に腫れがないか確認します。
必要な場合にはさらに超音波やCT、MRIなどの画像検査で、腫瘍の状態を調べます。腫瘍の大きさや位置、形等から、良性・悪性を判断する参考とします。
診断をくだすために、針生検(はりせいけん)や、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)と呼ばれる検査をおこなって組織の状態を調べます。穿刺吸引細胞診とは、腫瘍に針を刺して中身を吸い出し、吸い出した細胞を顕微鏡で調べることで良性・悪性の判断を行います。
耳下腺腫瘍の原因
原因は明らかになっていませんが、腫瘍の種類によっては、いくつかのリスクファクターが推定されています。
耳下腺の良性腫瘍の一つであるワルチン腫瘍は、喫煙がなんらかの影響を及ぼしているのではないかと考えられています。耳下腺がんでは他に、遺伝子変異や、ある種の重金属の暴露(ニッケル等)がかかわっている可能性があるといわれています。
耳下腺腫瘍の予防・治療方法・治療期間
耳下腺腫瘍の治療法は、腫瘍の種類(良性・悪性等)、腫瘍の存在する場所(浅葉・深葉等)や、大きさ、進展度(ステージ)および本人の全体的な健康状態に応じて決めていきます。ただし、可能であれば一般的には手術がおこなわれます。
この時の手術には、切除する部分の大きさによって、腫瘍核出術(しゅようかくしゅつじゅつ)、耳下腺部分切除術(じかせんぶぶんせつじょじゅつ)、耳下腺葉切除術(じかせんようせつじょじゅつ)、耳下腺全摘術(ぜんてきじゅつ)、拡大全摘術(かくだいぜんてきじゅつ)などがあります。
腫瘍核出術とは?
腫瘍核出術とは、腫瘍そのものを取り出す手術です。比較的体に与える影響が少なく終わるメリットがあります。しかし耳下腺腫瘍の中で最も頻度の高い良性腫瘍である「耳下腺多形腺腫」では、再発の危険性があるため、良性腫瘍であっても部分切除術を行って正常組織とともに摘出することもあります。
耳下腺には顔面神経が走っているため、特に悪性腫瘍に対する手術では顔面神経の取り扱いが問題になることがあります。部分切除術や耳下腺全摘手術では、手術の前からの麻痺がなければ原則として顔面神経を傷つけないように保存的に扱いながら、腫瘍に周辺組織を含めて切除するようにします。
しかし、悪性度が高い腫瘍のタイプや、すでに周囲組織への浸潤を認める症例では、拡大切除として顔面神経や周辺の皮膚とともに腫瘍を切除することがあります。また、悪性腫瘍の場合には、頸部リンパ節に転移が認められる場合もあります。この場合には、頸部リンパ節郭清が同時に行われます。腫瘍の摘出に際して顔面神経を切断したり、皮膚を切除したりした場合には,可能であれば皮膚や神経の移植を手術と同時に再建術を行います。
放射線治療と化学療法
耳下腺腫瘍が悪性であった場合には、手術に追加して、あるいは手術不可能な場合などには、放射線療法や化学療法が行われることもあります。放射線療法には、電子線などが用いられ、しばしば化学療法と同時(化学放射線療法)に実施されます。一部の腫瘍には重粒子線が用いられる事もあります。
耳下腺腫瘍の治療経過(合併症・後遺症)
腫瘍の性質(良性・悪性)によって、治療後の経過は変わってきます。良性の場合でも局所再発や悪性化の危険性がある多形腺腫とワルチン腫瘍では経過が異なりますし、悪性でもその病理組織学的診断や、進展度(ステージ)に応じて様々な経過がありえます。
また、合併症を引きおこす場合もあります。
手術後の合併症
顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ)
手術を受けた側の顔の半分が動かなくなることを指します。これは一過性のこともありますが、術式によっては永続するものもあり得ます。
Frey(フライ)症候群
唾液が出ると同時に耳たぶのまわりから汗が出たり、赤くなるがおこったりすることを指します。
大耳介神経麻痺
耳たぶの部分の感覚の低下などが生じることを指します。
悪性の場合は、治療局所でもう一度腫瘍が大きくなったり(局所再発)、転移したりすることがあります。これは病理組織学的診断によってそのリスクが異なり、例えば粘表皮がんでは5年生存率は高く、遠隔転移のリスクも比較的高くありませんが、扁平上皮がんの場合にはリスクが高いとされています。
耳下腺腫瘍になりやすい年齢や性別
10万人に1〜3人ほどと、かかる確率はあまり高くありません。腫瘍ができる病気のうち、おおよそ3%が耳下腺腫瘍です。
良性のものの一つである多形腺腫は、中年から高齢の女性に多くみられます。同じく良性のワルチン腫瘍は、60歳以上の高齢男性、特にヘビースモーカーに多くみられます。
参考・出典サイト
執筆・監修ドクター
経歴平成 2年 岡山大学医学部 卒業
平成 6年 岡山大学医学部大学院 卒業
平成 2年~ 岡山大学医学部耳鼻咽喉科 入局
国立岡山大学 耳鼻咽喉科 研修医
平成 7年~ 米国アイオワ大学医学部 耳鼻咽喉科 研究員
平成 9年~ 岡山大学医学部耳鼻咽喉科 助手
平成12年~ 岡山大学医学部耳鼻咽喉科 講師
平成26年4月~ 新倉敷耳鼻咽喉科クリニック 院長
平成27年~ 埼玉医科大学 客員教授
九州大学 臨床教授
平成29年10月~ 早島クリニック耳鼻咽喉科皮膚科 院長
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