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炎症を抑える絆創膏【NPO法人AASJ代表理事・京大医学部名誉教授 西川伸一】

「プロフェッショナル」では、第一線で活躍する医療関係者のコラムをお送りします。


炎症を抑える絆創膏

新しい発想の絆創膏

縫合することが難しい褥瘡(じょくそう)など炎症性の傷口の対しては、何世紀もガーゼの様な布で傷口からの浸出液を吸収する他に方法はなかった。ところが最近になって、ガーゼの代わりに、ジェル状のマトリックスを用いた絆創膏が使われる様になってきた。この中で「Promogran」はコラーゲンとセルローズの混じったマトリックスによって浸出液に含まれるプロテアーゼを傷口から隔離することで傷の治りを早める。

この新しい絆創膏は、「生体反応は損傷治癒に必要である」とする従来の考えを改め、「慢性の炎症では、炎症物質を抑えることが損傷治癒を早める」と発想を転換したことで可能になっている。

今日紹介するドイツ・ライプチヒ大学からの論文はこの考えをさらに進めて細胞浸潤を誘導するケモカインを吸い取って細胞浸潤自体を抑えるマトリックスはさらに優れた絆創膏になるのではという可能性を追求した研究で4月19日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Glycosaminoglycan-based hydrogenls capture inflammatory chemokines and rescue defective wound healing in mice(グリコサミノグリカンを材料としたハイドロゲルは炎症性ケモカインを補足しマウスの欠損性損傷を回復させる)」だ。

 

炎症物質のみ吸収して効率よく再生反応を起こす

ケモカインは炎症局所で線維芽細胞や白血球から分泌され、様々な種類の白血球の浸潤を誘導する分子で、炎症部位の感染防御に重要な働きをしている。しかし、損傷を治癒するという再生反応に対してはネガティブな働きをすることが多く、結果難治性の潰瘍が起こることになる。

このグループはケモカインが局所のマトリックスに結合しやすい分子構造を利用して、ケモカインだけを捕捉するマトリックスを探求し、グリコサミノグリカン(GAG)がケモカインと特異的に結合することを発見していた。この研究では、ケモカインとの結合効率を指標に、ポリエチレングリコールとGAGが結合したマトリックスベースにした高分子をさらに至適化し、ケモカインと高い効率で結合する一方、損傷治癒や炎症に関わるサイトカインとはほとんど結合しないマトリックスを完成させている。

完成した最終型のマトリックスの効果を確かめるため、糖尿病マウスの皮膚を欠損させた大きな損傷を作り、マトリックスの治療効果を調べると、現在よく利用されている「promogran」を凌駕する損傷治癒効果が見られたという結果だ。また、人間の損傷部位より採取した滲出物と混合する実験で、ケモカインだけが特異的に吸着されることを確かめている。

 

残る課題は感染防御

もちろんこのままでは、細菌感染に対する防御も抑えることになるため、実際に使うときには抗生物質を混ぜたマトリックスが必要だろう。しかし、使っている分子はすでにFDAで許可されている分子であることを考えると、治験の後、臨床応用されるのも早い気がする。

 

将来のヒット商品になりうる

健康な人はいいが、糖尿病や寝たきりの人の皮膚潰瘍の治療は現在なお難しい。増殖因子や抗体を用いるのではなく、分子の物理化学的な性質を利用した安価な治療法が開発されれば、大ヒット商品になること間違いない。同じ様な機能性マトリックスの利用は大きな可能性があると実感した。

 

この記事は、寄稿者である西川伸一氏の許諾を得て、「NPO法人オールアバウトサイエンスジャパン」の公式サイト内「論文ウォッチ」コーナーから転載をしております。

http://aasj.jp/watch.html

 

西川 伸一

執筆者:西川 伸一 氏
NPO法人AASJ代表理事 / 京都大学医学部名誉教授