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動物保護とハンティング【NPO法人AASJ代表理事・京大医学部名誉教授 西川伸一】

「プロフェッショナル」では、第一線で活躍する医療関係者のコラムをお送りします。


動物保護とハンティング

科学は未来志向

トランプが自信に満ちた顔で語るAmerica Firstの言葉の背景には、未来への計画や準備は必要ないという思想がある。一方、基礎科学についてみれば、未来を語らない限り、一般の人の共感は得られない。すなわち両者は本来相反する思想の上に立っている。トランプだけでなく、我が国の政治家の多くが、エビデンスを無視し、科学を軽視、あるいは敵視するのも、未来に向いている科学思想が彼らの刹那主義・エビデンス嫌いを否定しているからに他ならない。

当然のことながら、アメリカ科学振興協会の機関紙であるScienceは数年前から、貧困問題、温暖化、環境問題など、21世紀の課題は科学的エビデンスに基づき解決を図るべきであると未来志向を明確に打ち出している。そして、科学軽視の政治家たちと戦っていくと思う。

今日紹介するオランダ・ナイメーヘンにあるRadboud大学からの論文はHuman firstという思想がいかに多くの動物を絶滅させてきたかを示した研究で4月14日号のScienceに掲載された。タイトルは「The impact of hunting on tropical mammal and bird populations(熱帯の哺乳類や鳥類に及ぼすハンティングのインパクト)」だ。

 

ハンティングで野生動物が急速に減少

アフリカでは現在も野生動物の密猟が横行し、保護区でさえも動物が減り続けていることが問題になっている。様々な理由で行われるハンティングの影響を、世界規模で調べることは実際には簡単ではなく、気づいたときにはすでに手遅れになっていることが多い。

この研究では、これまで動物や鳥の生息数調査に関する176論文を集め、それぞれの研究で算出されている97種類の鳥類、254種類の哺乳動物についてのデータを、それらが集められた地域でハンティングが許可されているかどうかで分類している。この一手間で、ハンティングがどの程度動物絶滅に手を貸しているかがわかると着想したことがこの研究の全てだ。

もちろん密猟の有無など、本当は様々な要因が重なるはずだ。しかし、まずハンティングが許可された領域と、動物が保護された領域でどの程度の差があるかを調べてから次にいけばいいという割り切りは納得できる。

結果はほとんどの皆さんが様々な報道を通して描いておられるのとほぼ一致する。

まず保護区と比べ、ハンティングが許可された領域では鳥類も哺乳類も減少率が高い。例えば鳥類では保護区と比べ平均で60%より早く減少している。哺乳動物になるともっと悲惨で、減少する速度はほとんど倍近くになっている。

また、この減少率は動物の生息地域が、都市からどの程度離れているかと相関し、哺乳動物では距離や到達にかかる時間とほぼ完全に反比例して動物が減少している。

ハンティングの影響を最も受けるのが大型哺乳動物で、商業的ハンティングが入ってくると動物の減少は急速に加速する。そして、この傾向はアフリカ、アジア、南アメリカ全ての熱帯地方で同じだ。

 

未来志向を力に

結果はほとんどの人がすでに知っていることと同じで、それを確かめただけだと言える。しかし、エビデンスを嫌い、未来を忘れた為政者に対してこそ、このように一つ一つ地道なエビデンスを積み重ね、自由な判断に提供するしかない。

我が国を含む世界中で、今政治家が報道を規制しようとしていることが問題になっている。この底流には科学軽視と同じ思想がある。これを書いている時、ひとつ言葉を思い出したので書き留めておく「・・・君主が統治を行う上で何よりも心がけるべきなのは、人々を上手に騙し続けることであるようだ。・・・・一人一人の自由な判断を先入見で覆いつくしたり、何らかの仕方で制限したりするなら、誰もが有している自由と真っ向から矛盾することになる」(スピノザ:「神学・政治論」)。17世紀には未来に向いたスピノザのような人は少数派だった。しかし現在も君主の思想は変わっていなくても、はるかに多くの人が自分のいない未来を考えている。これが力になるかどうかで、世界は変わると思う。

 

この記事は、寄稿者である西川伸一氏の許諾を得て、「NPO法人オールアバウトサイエンスジャパン」の公式サイト内「論文ウォッチ」コーナーから転載をしております。

http://aasj.jp/watch.html

 

西川 伸一

執筆者:西川 伸一 氏
NPO法人AASJ代表理事 / 京都大学医学部名誉教授