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「暴れる膵臓がん」ビタミンDの刺激で治める【NPO法人AASJ代表理事・京大医学部名誉教授 西川伸一】

「プロフェッショナル」では、第一線で活躍する医療関係者のコラムをお送りします。「春の特別企画」として、執筆者として参加する西川伸一氏(プロフィールは末尾)の過去のコラムを振り返ります。


「暴れる膵臓がん」ビタミンDの刺激で治める

がんの研究には優れた動物実験モデルが必要だ。特に膵臓がんのように、進行、転移が早いがんは動物実験モデルの意味は大きい。見つかった段階ではもう進んでいる場合が多いので、初期の段階についてはなかなか見えてこない。そのために研究が遅れることになり、このギャップを埋めるために動物モデルを使う必要性が高いのだ。

 

厄介な「間質」増大

膵臓がんの動物モデルを使った面白い論文が続いて発表されており、連日紹介していきたい。ともに膵臓がんの特徴とも言える強い「間質の反応」を扱っている。膵臓はおなかの臓器の一つで、血糖値を上げ下げするホルモンを出すことでよく知られている。ホルモンを出す細胞のほかに、お互いをつなぎとめるように間にたくさんの間質があるのが特徴だ。コラーゲンのような物質からできている。がんになると、この間質が増えてくる。間質の反応とはこういうことだ。今回紹介する米国ソーク研究所からの論文は、この間質の反応に「ビタミンD受容体」が関わる可能性を示す研究だ。ビタミンD受容体と呼ばれる物質は、細胞にあるもので、ここでビタミンDを受け止めている。ビタミンDは文字通りビタミンの一種で、骨を作るために必要とされる。

 

膵臓がんを人工的に作り実験

この研究も、続いて紹介する研究もともに2つ遺伝子に変化を起こして、人間の膵臓がんに近いがんをマウスで作り出した。2つの遺伝子の変化とは、「ras遺伝子」と呼ばれる遺伝子の変化と「p53がん抑制遺伝子」の欠損。膵臓の中の管を作る細胞「膵管細胞」の遺伝子を変化させている。この研究ではまずビタミンD受容体が、マウスでも人間でも「膵臓星状細胞」と呼ばれる細胞に多数存在していることを発見した。「膵臓星状細胞」は、がん細胞から取られたもので、膵臓の間質の反応に重要な細胞として知られている。この研究を行ったロン・エバンスさんはビタミンD受容体のような「ホルモン受容体」では世界の第一人者で、当然研究はこの受容体ががんや炎症でどう機能するかを探っていく。

 

炎症と無用な増大を抑える

元々、ビタミンD受容体は間質の細胞で発現している。炎症に関係していると考えられている。研究グループは、膵臓星状細胞にビタミンD受容体が存在しているか確かめた。ビタミンD受容体を薬剤で刺激すると、細胞の活動的な状態が収められた。その後、膵臓星状細胞は元の細胞の形に戻った。内部に脂肪を貯めたような形だ。さらに、同じ薬を使うことで、マウスの膵臓の炎症も押さえられると分かった。ここからビタミンD受容体は膵臓星状細胞の活性化を押さえると分かった。炎症も抑える働きがあると分かった。同じようにがんで起こる膵臓の炎症のほか、無用な組織が増えてくる線維化も強く押さえられると分かった。さらに、膵臓がんを既存の抗がん剤の一つゲムシタビンで治療しながら、ビタミンD受容体を刺激すると生存期間が約50%伸ばすことも成功した。

 

ビタミンD受容体刺激薬が有望か

まとめると、膵臓星状細胞の活性化で、炎症を引き起こし、周囲の間質を刺激する。結果として、炎症が悪化し、がんが進行する。これをビタミンD受容体の刺激で抑えられる。うれしい結果だ。この研究でビタミンD受容体の刺激に利用された薬が「カルシポトリオール」である。既にがん治療への適用に向けた80もの研究が進んでいる。膵臓がんや膵臓の炎症に対しては行なわれていないようだが、おそらく研究しやすい薬剤だと思う。 研究自体の質としては普通の論文だが、膵臓がんの緊急性から考えると重要な仕事だ。ぜひ早期に臨床で効果が確かめられるよう期待する。

文献情報

Sherman MH et al.Vitamin d receptor-mediated stromal reprogramming suppresses pancreatitis and enhances pancreatic cancer therapy.Cell. 2014 Sep 25;159(1):80-93.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25259922

 

西川 伸一

執筆者:西川 伸一 氏
NPO法人AASJ代表理事 / 京都大学医学部名誉教授