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100年にわたる謎が解けた、腎臓を一つ取るとなぜもう一つが大きくなるか【NPO法人AASJ代表理事・京大医学部名誉教授 西川伸一】

「プロフェッショナル」では、第一線で活躍する医療関係者のコラムをお送りします。「春の特別企画」として、執筆者として参加する西川伸一氏(プロフィールは末尾)の過去のコラムを振り返ります。


100年にわたる謎が解けた、腎臓を一つ取るとなぜもう一つが大きくなるか

片方の腎臓を手術で取ると、もう片方が肥大する。私も習ったし、実際には100年以上前から知られていたようだ。

 

2つの腎臓は互いに通じ合う

実験的研究も盛んに行われたようだ。2匹の動物で腎を取って、それぞれもう片方の腎臓が肥大する。さらに、一方の動物の肥大した腎臓をもう一方に移植する。そんな凝った実験まで行って、移植された腎臓も、移植を受けた方のもともとの腎臓も両方が小さくなる結果になった。

左右の腎臓は直接つながっていなくても、互いにコミュニケーションを取っている。互いの大きさを一定に保っている。残念ながら、この不思議な現象のメカニズム、何が両方の腎臓のコミュニケーションの媒体になっているのかなどは、謎のまま現在に至っていた。

 

「謎を解いた」

今回紹介する米国ジョージア医科大学からの論文はこの1世紀にわたる謎が解けたと主張する論文だ。有力医学誌ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション誌5月27日号に掲載された。

タイトルは「フォスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)シグナルが腎臓のサイズを決める(Phosphatidylinositol 3-kinase signaling determines kidney size.)」だ。

 

信号で腎臓は大きく

この研究の発端は「PTEN」と呼ばれるシグナル分子の研究から始まっている。

腎臓で血液をこして尿にするときの通り道になる「尿細管」でPTENが存在しない状態にすると腎臓が肥大するというものだ。PTENは細胞増殖を抑えてがんを防いでいる。なくなると尿細管の細胞が緩やかに増殖していく。がんにはならない。

フォスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)と呼ばれる信号も関係しながら、腎臓肥大を引き起こす背景に「mTOR」と呼ばれる分子があると見られた。さらにPTENが存在しない状態でマウスの片方の腎臓を切除している。

腎臓はさらに肥大した。腎血流が上昇して腎臓に多くのアミノ酸が流れ込んだのが理由となっていた。PTENに関係なく、フォスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)と呼ばれる信号の関係した異なる経路から最終的にmTORを活性化していた。

残った腎臓には2倍以上のアミノ酸が入っていた。シグナルの活性化も示されており、現象的には一応納得できるものとなった。

 

普通のときも「アミノ酸」?

気になるのはPTENとは無関係なら、このシナリオに沿って普通のマウスで起こる腎肥大を止められるかを示してほしいと思った。100年も放置される課題だ。

いったん解決したと皆が思うと、次の100年誰も手をつけなくなる恐れがある。しかし、私自身は半分以上納得した。

 

西川 伸一

執筆者:西川 伸一 氏
NPO法人AASJ代表理事 / 京都大学医学部名誉教授