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善玉の腸内細菌と悪玉の腸内細菌、クローン病や潰瘍性大腸炎に朗報【NPO法人AASJ代表理事・京大医学部名誉教授 西川伸一】

「プロフェッショナル」では、第一線で活躍する医療関係者のコラムをお送りします。「春の特別企画」として、執筆者として参加する西川伸一氏(プロフィールは末尾)の過去のコラムを振り返ります。


善玉の腸内細菌と悪玉の腸内細菌、クローン病や潰瘍性大腸炎に朗報

腸内細菌叢(そう)の面白い論文が見つかったので紹介する。次世代シークエンサーが開発されてから、腸内細菌叢を無作為に取ってきて、その取ってきた腸内細菌の遺伝情報を持つ「DNA」の配列を調べることが可能となっている。「どの細菌が」「どの程度存在しているか」がこの情報から分かるようになった。

 

悪玉の腸内細菌を見極める

ただ病気と腸内細菌叢の関係を研究するときには、この方法にも問題はある。まず一口に腸内細菌叢と言っても、何百、何千もの異なる細菌が含まれる。

それぞれの量が測れたとしても、どの細菌が病気の原因になっているかを突き止めるのは簡単ではない。このため、病気になった時に大きく変化する細菌種を調べることでこの問題に対処して来たが、もう少し良い方法が求められていた。

今回紹介するエール大学医学部からの論文は、「炎症性腸疾患」の原因になり得る細菌を特定する新しい方法を報告した論文だ。

炎症性腸疾患とは、腸がただれる病気で、「クローン病」や「潰瘍性大腸炎」を含んでいる。こうした病気の人にとっては朗報だ。

有力医学誌であるセル誌8月28日号に報告されたもので、タイトルは「IgAによりコーティングされている細菌は炎症性腸炎を引き起こす原因菌だ(Immunoglobulin A coating identifies colitogenic bacteria in inflammatory bowel disease)」。

 

悪玉に付く「イムノグロブリンA」

この研究では一つ仮説を設けて、真偽を検証している。

仮説とは、腸炎の原因となる腸内細菌ほど、人間の「免疫反応」を刺激するはずというもの。

免疫反応とは、異物から身を守ろうとしている仕組みを言う。異物にくっつく「抗体」を目印に調べられる。ここで見たのは、抗体の一つ「IgA(イムノグロブリンA)」である。研究グループはまずマウスで確認している。

マウスの便を取って、イムノグロブリンAを蛍光の色素で光るように印して、イムノグロブリンAとくっついている細菌を調べる。

どの細菌の表面にイムノグロブリンAがコートされているかが分かるわけだ。予想通り、一部の腸内細菌だけがイムノグロブリンA抗体と結合していた。

腸内細菌の一部だけがマウスの免疫反応を刺激していたわけだ。

イムノグロブリンAという仕組みによって、免疫を刺激する種類の細菌を特定する新しい方法と言っていい。次に問題の腸内細菌の種類を特定していった。結果、腸炎に関わるとされてきた細菌が濃縮されていると分かった。

 

悪玉を腸に入れると病気が起きた

もう一度、問題の腸内細菌を別のマウスの腸内に戻してみる。

腸炎を起こすか調べてみる。そうすると、コートされていない腸内細菌を使ったよりも、コートされた腸内細菌の方が強い反応が見られる。免疫を刺激する腸内細菌が、腸炎の原因になる。腸炎を引き起こす腸内細菌ほど、免疫を刺激すると考えられる。仮説を支持する結果となった。

次にヒトでも同じことが見られるかを検証している。まずクローン病や潰瘍性大腸炎の人と、正常人でイムノグロブリンAコートされた細菌の種類を調べた。結果として、腸炎の人でイムノグロブリンAコートされた細菌の数が増加。それぞれの病気だけで検出される細菌を特定できるわけだ。

最後にこうしてヒトで特定された細菌が本当に免疫を刺激し、腸炎を引き起こすかもマウスの腸に菌を入れて調べている。

イムノグロブリンAコートされた菌を入れると、確かにイムノグロブリンAによる反応が起こる。

 

悪玉の「悪さ」の背景はまだ不明

しかしこの悪玉の腸内細菌だけでは腸炎は起こらない。

そのマウスに、腸炎を起こすことが知られているデキストラン硫酸ナトリウムを投与すると、イムノグロブリンAコートされた細菌によって腸炎が重症化することが分かった。

今のところここまで。なぜ腸炎の原因となる腸内細菌だけが免疫を刺激するかなど多くの問題は残る。しかし、原因菌が特定されたことで、これらの菌を特異的に撲滅すれば、クローン病や潰瘍性大腸炎を治癒に持ち込める日が来るかもしれない。

 

西川 伸一

執筆者:西川 伸一 氏
NPO法人AASJ代表理事 / 京都大学医学部名誉教授