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食べるとやせる腸内細菌「クリステンセネラセエ」【NPO法人AASJ代表理事・京大医学部名誉教授 西川伸一】

「プロフェッショナル」では、第一線で活躍する医療関係者のコラムをお送りします。「春の特別企画」として、執筆者として参加する西川伸一氏(プロフィールは末尾)の過去のコラムを振り返ります。


食べるとやせる腸内細菌「クリステンセネラセエ」

腸内細菌の集まりの研究が急速な広がりを見せていると最近つくづく感じる。これまでも多くの研究を紹介してきた。だだこの論文を読むまで、腸内細菌の集まりに私たち自身の遺伝的体質が大きな影響を及ぼすとはあまり考えていなかった。

 

腸内細菌は遺伝で決まる

昨年の論文では、まれなケースとはいえ、同じ家族で育った1卵性双生児で片方が肥満、片方は正常という組み合わせを探し出したものだった。

遺伝的に同じでも、腸内細菌の集まりの肥満に対する影響が全く違っていることを示していた。今回紹介する米国コーネル大学からの論文も双子の研究だ。

1卵性と、2卵性、および双子以外の間で腸内細菌の集まりを調べている。遺伝的体質が腸内細菌の集まりの構成に影響すると示している。

タイトルは「ヒトの遺伝体質が腸内細菌叢(そう)の構成を方向付ける(Human Genetics shape the gut microbiome)」。有力生物学誌セル誌11月6日号に掲載された。

研究ではまず、1卵性双生児171ペア、2卵生双生児245ペア、双子以外の98人のペアについて便を継続的に集めていく。

腸内細菌の集まりの細菌構成を調べて、ペア同士で比較して類似性を計算している。

結果として、血縁がないペアよりも双生児の方が腸内細菌の集まりが似ており、さらに2卵生双生児よりも1卵生双生児の方が似ていた。もちろん似ているのはペア同士について。どの双生児であっても特定のパターンになるというわけではない。

対象は23歳から86歳までのペアで、調べたほとんどのペアは別々に生活している。したがって、この類似性は遺伝的体質を反映していると結論している。

 

腸内を支配する「クリステンセネラセエ」

次に、この原因が、影響力の強い腸内細菌の集まりが遺伝的な腸内環境に影響されると見ている。結果として、他の腸内細菌の構成成分が引きずられて変化しているのではと狙いを付けている。

最終的にクリステンセネラセエ(Christensenellaceae)と最近特定されたばかりの種が最も遺伝的体質に影響されると突き止めた。

この腸内細菌は「短鎖脂肪酸」という物質を合成して、その結果体重上昇を防ぐことで現在注目されている。面白いことに、この腸内細菌種が多い人は、おそらく短鎖脂肪酸の合成によるのだろう、痩せる傾向がある。

事実、この実験でもクリステンセネラセエを多く含む腸内細菌の集まりを腸内に移植すると、無菌マウスが痩せる。

 

腸内細菌を食べてやせる?

この結果から得られるシナリオは、(1)遺伝体質はクリステンセネラセエの比率を決める(2)クリステンセネラセエの比率により腸内細菌の集まり全体の構成が影響される(3)クリステンセネラセエはおそらく短鎖脂肪酸の合成を通して肥満を防ぐ、ということになる。

とすると、体質と相関するとしてきた肥満の中には、直接、脂肪の燃焼が関わるといった問題だけではなく、腸内細菌の集まりを変化させる間接的な効果も存在することになる。

残念ながら今回の研究ではクリステンセネラセエの比率と相関する遺伝体質の特定には至っていない。ただ、後からクリステンセネラセエを加えても肥満が抑えられるなら、この細菌をカプセルに入れたり、あるいはヨーグルトに入れたりして肥満を防ぐ日が来るかもしれない。

 

西川 伸一

執筆者:西川 伸一 氏
NPO法人AASJ代表理事 / 京都大学医学部名誉教授