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ヨーグルトを食べてがんの転移診断?肝臓に潜入した微生物が知らせてくれる【NPO法人AASJ代表理事・京大医学部名誉教授 西川伸一】

「プロフェッショナル」では、第一線で活躍する医療関係者のコラムをお送りします。「春の特別企画」として、執筆者として参加する西川伸一氏(プロフィールは末尾)の過去のコラムを振り返ります。


ヨーグルトを食べてがんの転移診断?肝臓に潜入した微生物が知らせてくれる

「プロバイオティクス」と言うと、私たちの体を助けてくれる微生物のこと。一般的には発酵食品やヨーグルトなどに含まれる微生物を思い浮かべる。

 

健康寿命を延ばせる?

事実、トクホや機能性食品の認可のハードルを低くして健康産業を育てるのがアベノミクスの一つの柱のようだ。

税金が必要な健康保険や介護保険の費用を、健康寿命を伸ばして減らすというアイデアは当然。今の政府のやり方を見ていると、トクホや機能性食品が乱立し、健康食品の売り上げだけが伸びて、肝心の健康寿命が全く伸びないという自体になる心配がある。

トクホや機能性食品が本当に健康寿命を伸ばすのか検証することが先決だと思う。

 

食べた微生物は肝臓でも増える

ぼやきはこのぐらいにして、プロバイオティクスに戻ると、世の中にはずっと先を考えて微生物を使おうとしている人たちがいる。

今回紹介する米国マサチューセッツ工科大学からの論文はなんと微生物をがん転移の早期発見に使う研究だ。

5月28日号の有力誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシン誌に掲載された。

タイトルは「がんになった人の尿でがん早期発見のためのプログラムを組み込んだプロバイオティクス(Programmable probiotics for detection of cancer in urine.)」だ。

普通体内の臓器は無菌的だと思っているが、さまざまなルートで細菌は各臓器に広がる力を持っている。

この研究の目的は、経口投与後に肝臓に侵入する細菌を用いて、肝臓内に存在するがん細胞を検出すること。

 

がんの成分で尿に変化を起こす

まず経口摂取してから肝臓に広がっても無毒な細菌を確立する。確かに肝臓に到達し増殖することを確認。

次に、この細菌にがんが分泌する分子を切断する酵素を組み込む。この酵素により、がんが分泌する分子を切断すると、その断片の一部が尿の中に出てくる。この成分を標識としてがんの存在を検出するというアイデア。

肝臓にがんの転移が起こったマウスに細菌を与えて、組織学的に調べている。詳しいメカニズムはまだわからないと思うが、この細菌の増殖はがんの転移巣で活発になり、打って付けの運び屋になっている。

最後に、がんの転移を起こしたマウスと、正常なマウスの尿に分泌される標識分子を調べる。期待通り転移巣がある場合にのみ尿に特定の分子が検出されると示している。

 

治療に応用の道も

もちろんこれは微生物を転移巣の早期発見に使えるというアイデアが実現可能と示したモデル実験でしかない。

早期発見だけで言えば他の方法が結局優れているという結果に終わることは十分あり得る。

しかし、健康診断の2〜3日前にこの微生物の入ったヨーグルトを食べておいて、検診の時に尿だけでがんの診断が可能であるならば追求する価値はある。

何よりもこの先に、転移巣に対する治療にも応用できるだろう。プロバイオティクスが本当に健康な人を増やすと示すためには、優れたアイデアと、長期的視野、そして科学的検証が必要だ。繰り返すが、わが国がトクホで滅びないよう願いたい。

 

西川 伸一

執筆者:西川 伸一 氏
NPO法人AASJ代表理事 / 京都大学医学部名誉教授